時には昔の話を~赤星ユウジの場合~
二日目。
「そこのレッド、なにか面白い話してくれない?」
「は?」
今日もコスモマシーンに乗って外気圏で待っていると、後ろに座る変な恰好の爆発魔――アケミがエラそうに言ってきた。
「おもしろい話?ってゆうかなんで俺?」
「暇そうだから」
「……」
たしかに今コスモマシーンを操作してるのはリュウとアタルだった。リュウが通信を飛ばして、アタルが他の隊と連絡を取りながらモニターをチェックする……俺は補欠みたいなもんだ。
「俺も聞きたいな、ユウジの面白い話」
「えっ」
「面白くなかったらバイト先でおごれ」
「おかしいだろ!なんでだよ!?」
「あら~?自信がないのかしら~?」
「!、どうゆう意味だよ?」
「フフッ、すべったら恥ずかしいものね。正義の味方がカッコ悪いところを見せるわけにはいかないものねえ」
「……」
「戦わずして逃げ……」
「よし、聞かせてやるよ!よーく聞けっ!!」
「「「(……単純)」」」
ということで、俺は自分の昔話を始めた。
*****
9年前。
赤星ユウジ、8歳。
「ユウジ!今日も学校おわったら秘密基地いこうぜ!」
「!アキラ、オッケー!じゃあ裏門に集合なっ」
「よっしゃ!」
小学生の時、俺にはアキラっていう親友がいた。たまたま席が隣で話してみたらすごい面白いやつで、それから教室でも学校のない日でも、二人でよく遊ぶようになった。
ザッ、ザッ、ザッ
秘密基地は学校から少し離れた山の中にあった。腰まである草むらの中にスーパーでもらった段ボールを持ってきて天井とか壁にして、丸い、かまくらみたいな隠れ家をアキラと二人だけで作った。
「?、アキラ、なんだそのでっかい袋」
「へへっ、箱とアルミホイルと懐中電灯がはいってんだ!」
「なんでそんなもの基地に持ってくんだよ?」
「それは見てからのお楽しみ~」
「なんだよっ、教えろようっ」
「ちょ、どつくなよ~」
「気になる気になる気になる!」
「まだヒミツだ!」
基地につくと、アキラは自信満々に袋の中から謎の箱を出した。
どんっ!
「はい!」
「え?」
「……」
「なにこれ」
「プラネタリウム!」
「ぷら……む?」
「それ果物じゃねーか!」
その箱は空っぽで、なぜか上に穴の空いたアルミホイルがくっついていた。
「ユウジ、入口しめて」
「なんでだよ、閉めたらまっ暗だぞ!」
「いいからいいから!」
「?なんなんだよ、も~」
パタンッ
……カチッ
「!!、なんだこれ」
「星だ」
「星?」
アキラが持ってきた箱の正体は手作りのプラネタリウムだった。それはドーム型の天井に、キラキラ光る宇宙をつくった。
「……オレ、宇宙警察になりたいんだ」
「えっ!」
「宇宙警察になって、色んな星にいきたい」
「……」
宇宙警察……特別な訓練をクリアした選ばれた人だけがなれる警察。銀河をパトロールしたり、特殊な力で変身して悪い奴をやっつけたりする――その時、俺が知っていたのはそれくらいだった。警察なんて自分には関係ない、別の世界の話みたいに思ってた。
「……ユウジも、ならない?」
「え?」
「オレとコンビになってさ、火星いったり水星いったりしようよ!」
「!、おうっ!!」
嬉しかった。アキラが誘ってくれたことが。それにワクワクした。この町よりも、日本よりも世界よりも広い宇宙。そんなところがあるなら、やっぱり行ってみたい。
「よし、約束だ!大人になったら、俺とユウジは宇宙警察でコンビになる!」
「おーう!!」
それからしばらくして、アキラは親の都合で転校することになった。
お互い離れても宇宙警察になる夢を叶えるために努力する――そう約束して、俺たちは別れた。
6年後。
アキラと再び会うことになったのは中学二年の夏だった。それまでは年賀状でやりとりしてたけど、この年の夏休みにアキラはこっちに戻ってくる用事があったらしく、俺たちは数年ぶりに顔を合わせることになったんだ。
駅前――ワクドナルド入口。
「!、ユウジ!」
「!!、アキラーッ!!」
ワクワクしながら店の前に行くと、小学生の時よりも背が高く、そしてなんだか大人っぽくなったアキラが自動ドアの横に立っていた。
「うおーっ!めっちゃ久しぶり!!背のびたな!」
「いやお前もだろ!」
「まあな!」
「入ろ入ろ」
「おうっ!」
ざわざわ
わいわい
それからハンバーガーとポテトをたのんで、色んな話をした。学校のこと、家族のこと、今ハマッてるゲームのこと。小学生の時みたいにいつも同じものを見てるわけじゃないけど、それでも面白いと思えるものがアキラと俺はやっぱり似ていて、そのことが前よりずっと嬉しかった。
「はあ~、いよいよ来年だな!」
「え?」
「警察学校の試験だよ!あれ15歳からだろ!」
「……」
「?、アキラ?」
「ユウジ……受けるのか?」
「当たり前だろ!?なに言ってんだよ~」
「……」
「アキラは?あ、もう申し込み書とか持ってたりする!?」
「……俺は、普通の高校に行くよ」
「え?」
「この近くにある私立校。そこの説明会に行くから、戻ってきたんだ」
「……は?どうゆうこと?」
「……ユウジが、まだ宇宙警察になろうとしてるなんて、思ってなかった」
「……」
「あれは、なんか、勢いってゆうか、子供のときの夢っていうか、さ……」
「……」
「……ユウジ」
「……ふざけんなよ」
「……」
「ふざけんなっ!!」
ダッ!
困った顔のアキラを置いて、俺は店を飛び出した。悲しかった、苦しかった、悔しくて恥ずかしくて……走りながら、何度も泣いた。でも泣いても泣いても、新しい涙がどんどん出てきて、全然止まってくれなかった。
……
すとんっ
「あー……」
どれだけ走ったのか分からない。気が付くと、空はもう暗くなりかけてて、俺は町からかなり離れた川原にいた。草のなかに座ってるとひんやりした風が吹いて、あー、夏でも夜って涼しいんだなあなんて、どうでもいい事を考えてた。
サクッ
「おい、少年。宇宙警察になりたいのか?」
「は?」
「……」
「え、だれ?」
聞いたこともないダミ声に振り返ると――なぜかそこに、ごみ収集のおっさんがいた。
「俺の名前は宙野ホシタロウ。職業は二つ。ごみ回収ドライバーと宇宙警察庁長官だ」
「へ?」
「ちなみにどちらも本業だ」
「……」
「ビックリした?」
「はあ」
どすんっ
そう言うと、おっさんは当たり前みたいに隣に座った。
「聞いてたぞ、お前たちの話」
「え」
「俺ワックで昼飯食べてたんだよ。そしたらお前らの声が聞こえてきてさ」
「!」
「裏切られた、って思ってるのか?」
「……」
「あんな奴だと思わなかった、とか?」
「……まあ」
「うん、ありゃ傷つくわな」
「……」
「だが、悪いことだけじゃ無かったろ」
「え?」
「宇宙警察の話が出るまで、お前ら楽しそうにしてたじゃねえか」
「……」
「一つがダメになると、他も全部ダメになるのか?まあ、そうゆうふうに考える奴もいるが、それって勿体なくないか?好きなもの消して嫌いなもの増やして、なにが楽しいよ?」
「……」
「みんな大体矛盾してるよ。でも矛盾してるってことは、悪いところだけじゃないってことだ。良い部分もきっとある。宇宙警察になるなら、そっちを見落としちゃいけない」
おっさんの言葉は、やけに響いた。しぼんでた心に、ちょっとずつ空気が入ってく感じがした。
「ちなみにお前、宇宙警察になったら高校行かなくてもいいと思ってる?」
「え?まあ」
「残念でした。警察になっても高校生活は送ってもらいますー」
「え!なんで!?」
「宇宙警察の極秘ルール、本業を二つ持つ!」
「いや無理だろ!だって警察って超大変だろ!?他のことやってるヨユーなんて」
「警察だからこそ、警察だけじゃ駄目なんだ」
「どうゆうこと?」
「一つのことだけやってると、友だちも考え方も偏りがちになるだろ?だから、なるべく違うことをやるんだ。ちなみに俺は地球でゴミ回収してるけど、警視監は土星で塵清掃してるし、警視長は月でクレーター補修してるよ」
「マジで!?……ってか俺にそんなこと言っちゃっていいのかよ、極秘なんじゃないの?」
俺が半信半疑でそう聞くと、おっさんはニヤリと笑って言った。
「だってお前、宇宙警察になるんだろ?だったら秘密もなにも無いじゃない」
「!」
「あ、でも周りには言っちゃダメな。そこは秘密な」
「……わかった」
「よし」
「おっさん」
「うん?」
「なんか、ありがとう」
「なんだよ、なんかって」
がははと笑いながら、おっさんは俺の髪をグシャグシャにした。
ダダダッ……
俺はアキラに会うために走ってワックに戻った。でもあいつは何処にもいなくて、駅の反対側とか小学校とかいろいろ回って……最後にダメ元で、あの秘密基地があった山の中に行ってみた。
サクッ……
「あ」
「!、……」
「すげえ、ホントにいた」
「……」
携帯のライトを手にその場所に行ってみると、何もない草むらの中にアキラが立っていた。
「ユウジ……」
「うん?」
「ごめん……」
「……」
「俺から誘ったのに、勝手にやめて、お前に、なんにも言わないで……」
「……」
「ごめん、本当にごめん……」
「……」
「……」
「俺さ、」
「……」
「あの時アキラが誘ってくれて、本当に嬉しかったんだ」
「……」
「お前が言ってくれたから、なろうって思った。この先も一緒にいられて宇宙にも行けるなんて最高だなって。……でも、違った。俺たちはもう別々の場所にいるんだ」
「……」
「だから、そっから応援してよ」
「……え」
「俺が宇宙警察になれるように応援してよ。俺もお前のこと応援するから」
「……」
「……」
「……ははっ」
「ん?」
「ははっ、あはははっ!」
「え?なんで!?なんか面白かった!?」
「うん、面白い、やっぱりお前面白いよっ」
「お、おうっ!」
「最高だ……」
「……」
「ありがとう」
「おう」
その後、ライトを消してしばらく二人で座って話した。昼間話しきれてなかったこと、どうでもいいこと、これからのこと……あの頃、腰の高さまであった草は座っても問題ないくらい短くなっていて、ドームに映った宇宙のかわりに、俺らの上にはどこまでも続く、でっかい空があった。
それから俺は、おっさんの正体を疑いながらも宇宙警察を目指し続けた――1年後、15歳で見事、警察学校に合格!三ヶ月いろいろ訓練して、火星とか水星にも行って、そしてこの春、ポリスレッドとして地球署にハイゾクされたのであった。
*****
「っていう面白い話でした!」
ぐずっ、ずびっ……
「ちょ、めっちゃイイ話じゃん……」
「へ」
パチパチパチと大きな拍手がくるのを待っていたら、後ろから鼻づまりの声がした。
「おっさんの言う通りだよ……いや、きっとアキラもユウジにちょっと後ろめたいところがあったんだと思うよ?だって、そうじゃなかったら学校説明会に行くこと、たぶん最初に言ってるって……なにも言わなかったって事は、“もしかしたらユウジ、まだ警察目指してるかも”って思ってたんだよ……だから本当は会いたくなかった、気まずくなるかもしれないから、でもやっぱり面と向かって伝えなきゃダメだから、不安を抱えながらもアキラはユウジに会いに……」
「アケミ、深読みし過ぎじゃないか?」
「いいんだよ!見つめよう!人の良い部分を!!」
「(キャラクター忘れてるな……)」
「ユウジ、それでその人の正体は分かったのか?」
「うん、ホントに長官だった」
「「「え」」」
「だって入庁式の時に長官挨拶してたの、あのおっさんだったもん」
「「「……」」」
……まさか泣かれるとは思わなかったけど、話して良かったな。アケミの良いところも見つけられたし、俺も話をしたことで、大切にしなきゃいけないことを改めて思い出した。
「よっしゃ!!今日もガンガン送信してくぜ!!」
「いや、お前なにもしてないだろ」
「うっ!」
長官、人の良い部分を見つけ続けられるように、俺はこれからも頑張ります。




