正攻法
「……」
「……」
私は状況を理解できずにいた。目の前にはロイの背中があって、その遥か右には、さっきこちらに投げられたはずの剥き出しの短刀が落ちている。そして、
「キュ、キュキュ……」
壁際には血まみれの小さなキツネが……
パン!
「そこまでだデストロイ!銀河法第7条を破った罪で貴様を現行犯逮捕する!」
「「「「「(!!)」」」」」
「……」
ザッ
ザザザッ
振り返ると、スネ王の隣に警察服を着た白い狼が拳銃を持って立っていた――いつの間にか広間は、銃剣を持った灰色オオカミたちに囲まれていた。
「なんだ貴様は」
「俺はモウロ、宇宙警察の警視正だ。この星は我々が完全に包囲している。さあ、大人しく投降しろ」
「断る」
「ふっ、そうくると思ったよ……」
そう言うと、白狼は不敵に笑って指を鳴らした。
「頼んだぞ、ポリスメンズ!」
「(えっ!?)」
ザザッ
「一つ、この世に潜む悪を見つけて、二つ、地の果てまでも追い掛ける!」
「三つ、正義の心で永久逮捕!」
「「ギャラクシー戦隊・ポリスメンズ!」」
どどーん!
狼に呼ばれて現れたのは、ブルーとグリーンのスーツを身に纏った正義の味方・ポリスメンズだった。リュウくんと、アタルくん……?(なぜかレッドはいない……)そんなことあって欲しくない、でも口上を述べたその声は、もはや聞き慣れてしまった彼らの声だった。
ザワザワッ
「な、ポリスメンズ!?」
「なんであいつらがココにいんだよ!」
「ヤベエよコレ!!」
一気にパニックに陥るチーム・デストロ。……そりゃそうだ。警察が出てきた上にポリスメンズまで登場しちゃったんだから。私だってバクバクだ。何を言って、どう動けば誰も傷付かずにすむのか……あ、とゆうかさっきの小キツネはっ
ちらっ……
「しっかりしろ、大丈夫だ」
「キュ、キュ~」
「安心しろ。宇宙警察特製の甲冑をつけてたんだから、ちょっとやそっとじゃ死なないぜ」
「(!)」
そうなのか……よかった。優しそうなオオカミさんたちに介抱されてるみたいだから、きっと大丈夫だろう。
「やれ、ポリスメンズ!悪の権化を叩き潰せ!!」
「(!!)」
しまった、安心してる間にこっちが大変なことに!どうしよう、なにか、なにか皆の動きを止めるようなっ
すっ
「モウロ警視正、ちょっといいですか」
「(!)」
「リュウ……?」
心の中で盛大に慌てふためいていると、ふいにポリスブルー・リュウくんが真っ直ぐ手を挙げた。
「どうしたポリスブルー」
「はい。先ほど警視正が仰った銀河法第7条ですが、“同盟を結んでいる星同士は互いを傷つけ合ってはならない”というものですよね」
「?、そうだが」
「先に手を出したの、この星ですよね」
「え?」
「裏から見てたじゃないですか。負傷した兵が、デストロイの部下に短刀投げてましたよね。デストロイは彼女の前に立ち、それを払い、それから兵を傷つけた」
「……」
「あれは正当防衛じゃないですか」
……
ざわざわ
「(ヒソヒソ声)おい、いま何の話してんだ?」
「(ヒソヒソ声)よくわかんねえけど、悪いのは俺らじゃねえって話じゃね?」
「(ヒソヒソ声)なにそれ、どうゆうこと?」
「(……)」
普段あまり頭を使わないであろう我が珍獣隊が必死に目の前の出来事を考察しようとしている。なんか可愛いな……。こんな修羅場でアレだけど地味に癒される。
「……仮に正当防衛だったとしても、デストロイの罪は変わらない。奴は自分勝手な欲望のために多くの星を消してきたのだからな」
「それはそうです」
「ならば、」
「でもこのやり方はおかしくないですか」
「……なんだと?」
ギリッと、白狼がリュウくんを睨む。しかしリュウくんは動じることなく、クールな声で言い放った。
「最初から引っ掛かってたんです。なぜこの星――102との関係を内密にするのか。お互いにメリットがあるからなんでしょうけど、俺たちがそんなことしたら、他だってやり出すんじゃないですか?それって、いずれ争いの種になりませんか」
「……」
「デストロイを真正面から逮捕するなら異存はありません。でもこんなふうに、曲がった理屈を正義のように主張するやり方は納得いきません」
「……」
「……」
「……青二才が」
「……」
「お前はまだ知らぬのだ。この宇宙には一筋縄ではいかぬ事件が山ほどある。それら全てに正攻法で挑んでいては、解決できるものも解決しない。加減が必要なのだ。正義を浸透させるためには、時にはそれ以外の力も使」
「そんなの遠回りだぁぁぁ!!」
「「「「「!?」」」」」
「なにっ!?」
クルクルッ……バッ!
「熱い心が燃えてる限り正義の光は消えはしないっ、ポリスレッド、参上!!」
どどーん!
「「ユウジ!?」」
「へへっ、俺だけ留守番なんてゴメンだぜっ」
「(……)」
イェイと昭和なピースをするポリスレッド・赤星くん。……リュウくんとアタルくんのリアクションから察するに、きっと赤星くんは今回はココにいないはずの人なんだろう。ウンウン、あるよね、そういう回。他のメンバーがメインで行動してたら、レッドが割り込んできちゃうみたいな。
「おい、ポリスレッド!お前はこの任務の担当では……」
「大丈夫ッス警視正!地球の方は他の奴に任せてきたんで!」
ピクッ
「……地球だと?」
「(!!わっ)」
今まで黙っていたロイが反応した。ちょ、ヤバイヤバイ赤星くん!いま地球は隠してる最中でしょ!?そんでもってコチラにいらっしゃるのは一番バレちゃいけない御方でしょ!
「!おまっ、何言ってんだこのバカ!」
「なっ!本気でバカって言わなくてもいいだろ!?」
「ユウジ、帰ってくれる?」
「……スミマセンデシタ」
「(……)」
さすがの赤星くんもアタルくんにガチギレされて猛省したみたいだ。……やっぱり普段怒らない人の低音ボイスは半端ない。
「で、警視正!さっきの続きッスけど、警視正のやり方は遠回りッスよ!」
「遠回りだと?」
「ハイ!だって一つ一つに向き合って解決してった方が、絶対スムースにいくじゃないッスか」
「スムーズだろ」
「は、ハナシの足折るなよ!」
「腰ね」
「なんだよもう二人とも!」
二人から冷静に突っ込まれ、ムキーッとなる赤星くん。あ、なんかこの感じ久しぶりだな。闘いの合間に入る仲良しタイム――そしてこの物語の主人公は、これまたお約束のように拳をバッ!と突き上げて叫んだ。
「ほらっ、200年とか300年先を見てくださいよ!今ちまちまズルしてたら何も変わらないけど、俺らがちゃんと解決してけば、絶対あとの皆もそうしてくれるじゃないッスか!そうゆうもんじゃないッスか!!」
「……」
「……」
「だから俺らが曲げちゃダメなんスよ!頑張ってるからいいやとか、しょうがないからいいやとか、そうゆうのやめましょ!?そんなことするくらいなら、頑張らなくていいッスよ!いや、今の俺が言ってもあんまり説得力ないかもだけと、でもそのうち警視正が楽できるように、俺ももっとスゲー警察になりますから!!」
「……」
「「「「「……」」」」」
やっぱりスゴイな赤星くんは。見ている物や捉えてる世界が皆よりも一つ大きいんだ。……敵わないな。こんなこと言われたら誰だって閉口して……
「惑星017は存在するのか」
「(あ)」
訂正。ここに一人、例外がいました。
「えっ!えっと、いや、それはあの」
「存在する」
「!、アタル!?」
「(!)」
分かりやすく天パる赤星くんの前に、ポリスグリーン・アタルくんが颯爽と立った。……アタルくんのことだ、きっと何か考えがあるのだろう。汗でびっしょり濡れた手を握りながら、私は続きを待った。
「惑星017・地球は一時的に姿を消しただけで本当は消滅していない。そのうち、また宇宙空間に現れる」
「……」
「そうしたら、どうする」
「破壊する」
「なぜ?」
「そのために生まれてきたからだ」
「本当にそうかな」
「なに?」
「目的は後からできるものじゃないか?」
「後だと」
「何かの為に生まれてくる命なんてない」
「……」
「目的は、自分を生きやすくするための指針だ。だから変わったっていい。少なくとも俺はそう思ってる」
「……」
アタルくんの声は不思議な響きを持っていた。落ち着いてるけど、ちょっと怒ってるような、でも本当にその人のことを想っている――そんな音だった。……ロイは、どう思ったんだろ?少しは届いて……
スッ
「たった今、102との同盟は解消された。宇宙警察ごとこの場にいる奴らを皆殺……」
「え、みごろも推し!?ああ、なるほど!デストロイ様はあの宇宙警察めのコスチュームが気に入っちゃったんですね!?え、直ちに作らせろって!?そんなせっかちな」
ガシッ!……パァァァッ
シュンッ
「「「「「デ、デストロイ様!?」」」」」
「なっ、消えたっ!?」
「あいやー、またアジトに戻られちゃいましたか。隊長―!」
「くっ、デストロイ様が戻られてしまったのでは仕方ない。皆の者、船に向かえ!」
「「「「「はっ!」」」」」
バタバタバタッ
「な、なんなんだ……?」
「「「「「……」」」」」
「(よしっ!)」
宇宙警察とキツネたちは皆ポカン顔で立ち尽くしている。ウン、この様子なら争い事なしで帰還できそうだ。さ、私も船に急ご……
ガシッ
「待て」
「え?」
うそ、捕まった?
「アケミ、って言ったな」
「……エエ」
振り向くとそこにはブルーのフルフェイスヘルメットが。……あ、そっか。リュウくんとは一度この姿でガチな話したんだっけ。
「お前はなぜデストロイの元にいるんだ」
「え?……ホホッ、それはデストロイ様がこの銀河を闇で覆い尽くす様を見たいからよ(こんな感じのキャラでよかったっけ?)」
「なぜだ?」
「なぜ?フフッ、愚問ね。それは私がデストロイ様を愛して……」
「?」
「愛しているからよ」
「……」
「……さらば!」
「!、おいっ」
パァァァッ
……
なんだか上手く誤魔化せないような気がしたので、咄嗟にアジトにパァァっとした。……何だろう、言えなかった。いや言いたくなかった。
“愛してる”っていう言葉を口にするのは嫌だった。




