まさかの転属先
「「「ぱんぱかぱーん!おめでとう!キミは見ごと移動人に選ばれましたーっ♪」」」
「は?」
気が付くと、私は超デカイ図書館にいた。そして眼前にはゆで卵に手足をくっつけたような気持ち悪い物体が三つ浮遊している。え、なにこれ。どうゆう仕組み?
「私は神A」
「神B」
「神Cでごわす」
ごわす?
「我々はこの世界を司る神。世界は全て誰かが創り出した物語なのである。つまり、ここにある一冊一冊が、全て世界なのであーる」
あ、これ夢か。超中二病じゃん。そういえば夢って潜在意識と繋がってるとか言ってなかったっけ?うわ、私いい年こいてこんなこと考えてたの?恥ずかしっ。
「世界は日々増えていくが、最近はどれも似たようなものばかりでな。正直飽きた。そこで思いついたのが、登場人物を移動させて遊ぶネバーエンディン……チェンジエンディング・ストーリーだ!」
「チェンジ、エンディング?」
「左様!話に新鮮さを与えるため、他の物語の登場人物を別の作品に送り込んで結末を変えさせるという、画期的な遊びなのでごわす」
「なるほど」
「で、記念すべきその第一回目の移動人に選ばれたのが、山本朱美、キミなのである!」
「へっ?ちょっと待って。今の話の流れだと、私ってなんかの作品の登場人物ってことになる?」
「ああ、キミは漫画『がんばれ!岸田くん』の第11巻、37ページ5コマ目に出てくるスクランブル交差点の通行人だ!」
「(モブか)」
「まああれも普通だったけど、国葬を行うかどうかの葛藤を描いた回はよかったでごわすな」
「(やっぱりその岸田くんなんだ)……で、私はどんな物語に放り込まれるわけ?」
「「「ギャラクシー戦隊・ポリスメンズだ!」」」
「え?」
あれ?なんかそれ聞いたことあるな。……あ、もしかして弟が昔見てた特撮?
「世界は交わることはないが、互いに目にすることは出来る。キミはこの物語を知っているようだね?」
「いや、見てたのは弟だから私はあんまり……」
「なんという好都合!半端な知識を持っている者が入り込むのが、一番面白いのであーる♪」
「あ、そうゆうもんなんだ」
「左様!では、これから諸注意と帰還方法を説明するでごわす。一度しか言わないからよく聞いて……」
ケチるなよ、二度言えよ、とか思いながら私はそれらを上の空で聞いていた。だって最初の情報だけでお腹いっぱいだったし、何よりこれは夢なんだから真剣に聞いたってしょうがない。
「「「以上!では、いってらっしゃ~いっ♪」」」
しかし数十分後、私はこの事を物凄く後悔することになる。
ひゅぅぅぅぅぅ、ひゅぅぅぅぅぅ
「さぶっ」
あ、昨日窓開けっぱなしにして寝たんだっけ?あっちゃー。こんなに気温下がるんなら閉めとけばよかった。あー、今日はもうちょっと寝てても大丈夫なはずだけど、とりあえず起きて窓を閉め……
「……」
あれ?おかしいな、真っ暗だ。まだ真夜中なのかな?いやそれにしてもこの暗さは異常だ。なんか……暗すぎる。夜っていうより闇って感じだ。
こぽっ、こぽこぽっ
「おおっ、息吹が!」
「お生まれになられるぞっ」
「え?」
不気味な音と気持ち悪い声に振り返ると、少し離れた所に真っ赤な池みたいなのが見えた。そしてその周りには像とかライオンとかがモチーフになってそうな二頭身くらいの変な生き物がいる。あ、そっか。まだ夢の中なんだ。
ブシュゥゥゥッ!
なんとなく眺めていると急に池が噴水のように飛沫を上げた。ビシャビシャっと血みたいな液体が雨の如く降り注ぐ。うん、なかなかグロテスクな光景だ。物騒な雨が落ち着くと、やがて赤い霧の向こうにぼんやりと人の姿が見えた。
「おお!デストロイ様のご誕生だ!」
「ああ!!我らが闇の支配者デストロイ様!」
デストロイ?闇の支配者?もしかしてここって……いや、もしかしなくてもグルリと見渡せば分かる。夜よりも暗い闇、血みたいな池、強い動物がモデルになってそうな二頭身の珍獣たち、そして彼らに囲まれて誕生を喜ばれているデストロイと呼ばれる青年(生まれたてだから真っ裸だ)――これはきっと、悪役サイドだ。
「ささっ、デストロイ様これを」
「ああ……」
手下たちもさすがに真っ裸はきつかったのだろう。すぐに黒いマントが付いた悪の帝王みたいな服を持ってきた。あれ重そうだな。青年はぼんやりした様子でそれを受け取ると、高品質っぽい布を褐色の肌の上にスルスルと装着していった。
ほどなくして、銀髪で青い目をした冷酷そうな貴公子が出来上がった。
「我が名はデストロイ。この宇宙に散らばる数々の星を破壊し、銀河を絶望の闇で覆い尽くそう」
「(そのまんまだな)」
「おお!デストロイ様!!」
「我らのデストロイ様!!」
「そこのお前」
「へ?」
私?いや私しかいないだろう。だって周りに誰もいないし、氷のようなコバルトブルーは間違いなくこちらをロックオンしている。
「お前に惑星017・地球の偵察を命じる」
「え」
「おおっ、デストロイ様からのご命令!」
「羨ましい限りだ!」
「(え、これ喜ぶところ?)あ、ありがとうございます、頑張りますー」
「我らを阻む者がいたら、すぐに抹殺しろ。行け」
「(そんな物騒な)あ、はーい」
5分後。
「どのお店いく~?」
「お母さん、あれ買ってー!」
「お茶でもしましょうか」
「……」
どうやって地球に行くんだよ(とゆうか、あそこ宇宙だったのかよ)と思っていたら、なんか目の前がパァァァッってなって、いつの間にか私は大型ショッピングモールの入口にいた。うん、さすが夢の中だ。辻褄とか物理的なこととかブンって飛び越えられちゃうわけね。
まあ突っ立ってるのも何だし、とりあえず歩き回ってみるか……。
わいわい
きゃっきゃっ
雰囲気から察するに今日は休日のようだ。カップルだけでなく、館内には子供を連れたお父さんお母さんがたくさん歩いている。時どき風船を持ったやんちゃな子がパタパタと走り抜けて行って……なんか平和そのものって感じだ。
「うわあああん!リナの風船が~!」
「!」
堰を切ったような泣き声に振り返ると、後ろで小さな女の子が天井を見上げてベソをかいていた。見ると、黄色いハートの風船が建物の吹き抜け部分の隅にコツンと頭をぶつけた状態で停滞していた。ああ、可哀そうだけどあれは無理だ。業者でも呼ばない限り届かないし、そもそもそんな事を生業にしている業者はいないだろう。幼女よ、諦めろ。そうやって人は大人になってゆく……
ポンッ!
「待ってな!兄ちゃんがとってきてやるっ」
「!、ホントに!?」
「ああ、約束だ」
「(おいおいおい……)」
女の子に哀れみの視線を送っていると、近くを通りかかった少年が小さな頭に手をのせた。いやいやいや、駄目だってそんな約束しちゃ。期待した分だけその子は傷つくよ?ああ、悲惨だ。こんなの見ていられない。
……すとん
と思いつつも何か気になるので、さり気なく近くのベンチに座って動向を観察することにした。幼女に淡い夢を見せる罪深き少年A(たぶん高校生くらい)は出し抜けに、よーし!と声を上げると腕まくりをしてふんばった。……え、ふんばってどうするの?君なりの気合の入れ方なのかい?こりゃダメだ。半端なくダメだ。きっと3秒後に幼女はまた泣き出して、
「てーいっ!」
ぴょーんっ
「え」
「わあっ!!」
ジャンプした。ジャンプして……三階の天井まで飛んだ。少年Aはそのまま風船の紐を摑むと重力を無視して軽々と女の子の前に戻ってきた。……なにこれ。
「ほらよっ」
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
ダダッ!
「こらユウジ!お前ってやつは……」
「!げっ、リュウッ」
Aが幼女に風船を手渡していると、向こうから、いかにもクールそうな少年Bがやって来た。Aは動揺を隠しながら(隠せてないけど)じゃあね、と言って幼女を送り出すと、昭和の悪ガキのようにポケットに両手をつっこんで、ぎこちない動きで振り向いた。
「わっ、悪かったよっ!」
「本当に反省してるのか!?ちゃんと考えて行動しろ!人前で力を使うなんて有りえな……」
「まあまあ、リュウ落ち着いて?ほら、皆こっち見てるよ」
「(おおっ)」
今度はいかにも仲裁役という感じの少年Cが現れた。なんてバランスのいい三人なんだ……。って感心してる場合じゃない。ねえ君たち、この数分間でいくつか突っ込みどころがあったよ?まず少年A、その身体能力は何なんだい?そんなに高く飛べるんだったらとっくにオリンピック出てるよね?ほら、道行く人たちもめっちゃ驚いてるよ。ギャラリー集まってきてるよ。そしてB、私は聞き逃さなかったぞ。力ってなんぞや?中二病的思考回路でいくと、その人しか持っていない、常人には決して発揮することが出来ない特別なパワーかい?で、君はそれを知っていると。たぶんCも知っていると。ってことは君たちイケメンボーイズは、特殊能力者か何かかい?
ヴーッ、ヴーッ
「え」
ふいに、お尻の後ろでスマホが鳴った。なんだ?電話?……って、なにこの発信者。記号?イヤ、こんなん絶対出たくないわ。はい拒否拒否、
ピッ
ちゅどーんっ!
「え?」
「!なんだ!?」
「爆発か!?」
「一体誰が……。!、お前か!」
「へ?」
呆然としていると、いきなり少年Cに指をさされた。コラコラ失礼でしょ、人を指すなんて。ってゆうか君さっきまで穏やかだったじゃん。なんで急に怒り出したの?君の中で一体何があったのさ。
「リュウ、アタル、気を付けろ!……こいつヤバイ匂いがする」
「ちょ、失礼じゃない?」
「ああ、あの恰好はどう見ても只者じゃないな」
「かっこう?」
何言ってるんだか。こちとらTシャツとGパンっていう至極普通の服装で、
スッ
「……なにこれ」
下を向いてビックリした。息が止まるとはこのことだ。なんか私、いつの間にか黒いテカテカのビキニみたいな服着てるんですけど。胸もないのに。靴も黒のロングブーツになってるし、挙句の果てに網タイツまで履いちゃってる。そ・し・て・
「うわー……」
ショウウィンドウに映った自分の姿を見て引いた。ドン引きした。顔には黒いアイマスク、右手に鞭、そしてもちろん、それらは全然似合ってない。……なんだこの仕打ち。罰ゲームか。この貧相なボディにド〇ンジョ様的なコスチュームを纏わせて己の醜さを自覚させる精神的罰ゲームか。
「貴様、何者だ」
「え?」
何者って……名乗れるわけないでしょ。公衆の面前でこんな醜態をさらしておいて。ったくこれだから乙女心が分からない若造は。うーん、どうしよう。あっ、なんか適当な名前言っとけばいっか。田中とか鈴木とか山田とか、
「あ~、私はっ」
キィィィィンッ!
「……私の名は、アケミ!!」
「アケミ、だと!?」
え、嘘っ、く、口が勝手に!
「この銀河の支配者となるデストロイ様のために、人間共を抹殺する!」
「なんだと!?」
「デストロイッ!?」
「ふっふっふっ、手始めにこの場所を火の海変えてみせよう。それっ」
ぱちんっ
ちゅどーんっ!
ええーっ!なんか指鳴らしたらゴミ箱が爆発したんですけど!!なにこれ、誰これ!ちょ、助け……
「くそっ、許せねえ!……リュウ!アタル!」
「奴は銀河法第23条を破った。よって攻撃対象とみなす!」
「じゃ、いきますか」
「「「チェンジ!ギャラクシーモード!」」」
ウウー!ウウー!
な、なんだ!?少年たちの体が光って……
ザッ!
「ひとーつ!この世に潜む悪を見つけて!」
「ふたつ!地の果てまでも追い掛ける!」
「みっつ!正義の心で永久逮捕!」
「「「ギャラクシー戦隊・ポリスメンズ!」」」
どどーん!
「……」
光が消えると、そこにはスー〇―戦隊シリーズの如くピチピチのスーツと顔を覆うヘルメットのような物を纏った少年たちがいた(顔見えないけど声が同じだから多分そう)。ちなみにカラーは赤、青、緑。えーと……どうすればいい?
キィィィィンッ!
「……ふっ、ポリスメンズ?聞いたこともないわ。さあ、ここで死んでもらおうか!くらえっ」
ぱちんっ、ぱちんっ
ちゅどーん!ちゅどどーん!
だから何で指鳴らしたら(以下略)
「くそっ、なんて攻撃だ!このままじゃ、ここは火の海に……」
「こうなったら、ギャラクシー砲だ」
「よしっ、いっちょやりますか!」
「「「スターダスト注入、スタンバイ・OK!」」」
こぉぉぉぉぉっ
「へ?」
「「「ギャラクシー砲、インジェクト!!」」」
ゴッ!!
あ、死んだなこれ。
しゅぅぅぅぅっ
「よっしゃ!」
「任務完了だ」
「めでたしめでたし、だね」
「あ、生きてるわ」
「え」
「!」
「そんな……!」
すごいよ私、あれだけのバズーカ受けて死んでない。イッツアミラクル。目の前の三人もびっくりしてる(顔見えないけど固まってるから多分そう)。ってかなんか申し訳なかったな。これで事件解決!みたいな流れだったのにブチ壊しちゃって。完全に空気読めてなかったよね。ああ、空気はだいぶよめるようになったと思ってたのに。しょうがない、反省は今後の人生にちゃんと活かして……
すう……
あれ?なんか視界が薄くなってきた。
「!なんだ」
「敵が透けて……」
え?私が透けてるの?ちょ、一体どうなって
カッ
あ
ひゅぅぅぅぅぅ、ひゅぅぅぅぅぅ
「さぶっ」
あ、なんかあそこに帰ってきたっぽい。悪のアジト的な所に。ってか前より寒くなってない?ああ、そうだ、こんな服装だからだ。
「しくじったな」
「え?」
愛想もクソもない声に顔を上げると、この物語のラスボスと思われる人がいた。うっわ……めっちゃ怒ってる。殺すぞって感じてこっち見てる。
「消えろ」
「え」
ザシュッ
あ、死ん……
「……なに?」
「え」
「なぜ死なぬ」
「たしかに」
今、青年の爪がびゅんって伸びて私の胴体を真っ二つにした気がしたんだけど、なぜか全然痛くないし体のどこも切れていなかった。
ザシュッ
「ちょ」
ザシュッ
「いやあの」
ザシュッ
「無理じゃない?」
「……なぜだ」
「知らないけどさ」
ザ
「ストップ!」
「!」
とりあえず容赦なくサシュザシュしてくる腕を止めた。あ、以外と細いな。
「なんの真似だ」
「一応確認するけど、君はなんで私を殺そうとしてんの?」
「使えぬ駒は不要だからだ」
「その考え、やめた方がよくない?」
「……なんだと?」
あ、今イラッとしたなこいつ。んだよ、私だってお前にイライラしてんだよ。自分だけがイライラしてると思ってんじゃねーよ、ぶぁか!
「いや前から思ってたんだよね。君みたいな悪の親玉って、任務失敗した奴をフンって簡単に葬る傾向があるけど、殺す必要ってある?いいじゃん取りあえず残しとけば。いや、そいつが大食いだったりスパイの可能性があるとかだったら話は別だよ?でも違うじゃん、そうゆうのじゃないじゃん私。だったら残しておきなよ。これから先どうなるかなんて分からないんだからさ。生かしておいて大変な時に再利用すればいいじゃん。そっちのが全然メリットあると思うんだけど、どうよ?」
「……」
あースッキリした。あれだ、テレビ見てて“なんでそうなるんだよぉぉ”ってなるモヤモヤを直接登場人物にぶつけられたような爽快感だ。いや実際そうゆうことしたわけだけど。当の親玉……デストロイ君だっけ?は怒ってるように見えるけど、もうザシュザシュはしてこなかった。ま、ザシュられても?私は構わないけど?ははんっ。
「……お前にもう一度だけチャンスをやる」
「“もう一度だけ”?」
「次が最後だ。三度目はない」
「あ、そう」
まあ認めたくないものだよね、若さゆえの過ちって。譲歩しただけでも良しとしてやるか。とか思ってドドンと胸を張っていたら、青年はクールなフェイスでサッと奥に去って行った。おいおい言い逃げかコノヤロー。
「(で、何すればいいんだ?)」
全く分からない。ま、いっか。どうせ夢だし何とかなるでしょ。ってゆうかそろそろ醒めるんじゃない?それにしても具体的で奇想天外な内容だったな。バイトで話したらそれなりにウケそうだ。あ、でも夢って起きたら忘れちゃうんだっけ?ええー勿体ないなー。頑張れ脳みそ。なんとか覚えていてくれ。
とかいって余裕をかましていた私だけど、10分後にその状況はゴロンと一転するのであった。