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悪役と一緒。  作者: 道野ハル
そろそろ2クール目?
19/32

エキスパート

 


 しばらくすると、アタルくんは項垂れながら掠れた声で言った。


「……山本さんは、デストロイのことをどう思ってますか」

「え?……ああ、だから真面目過ぎるかなって」

「……他には」

「他?」

「……」

「ええーと、」


 なんでこんな話になっているんだろうと思いながらも、私は頭をフル回転させた。だって、なんかアタルくんの様子が普通じゃないから。痛そうというか辛そうというか……見てるこっちが苦しくなる。


「あ、子供みたい!かな。ってゆうかたぶん実際そうなんだと思う。見た目は青年だけど生まれた瞬間からあの姿なだけで月日的にはそんなに経ってないからね。だから、たまに物凄く純粋な目したりするのよ。前にも一度、私が“印象”って言葉使ったら変な顔されたんだけど、きっとあれも言葉の意味が分かんなかったんだと思う……」


 あ、ヤバイ。また泣きそうになってきた。解雇された今、ロイとの交流(?)がなんか良き日の思い出みたいに感じられて、ものっそい悲しくなってくる。ダメだダメだ。話題変えよう。


「あ、っていうかアタルくんの親戚ってこの近くに住んでるの?セクシャルハラスメントに詳しいってことは、どこかの法律事務所に勤めて……」

「嘘ですよ」

「え?」

「……ただの嘘です」

「あ、そっか」

「はい」

「うん」

「……」

「……」



 ……



 なんだろうこの沈黙は。なんで静かになったんだ?私、気付かないうちに失言を……と、原因不明の静寂にソワソワしていると、ふと、アタルくんがいつもの落ち着いた声で言った。


「山本さん、今晩はどこに泊まるんですか?」

「え?ああ、漫喫」

「え」


 え。え、ってなに?そして何故に固まったのさ。引いてる?引いてるの?30オーバーのおばさんが漫喫に泊まるのはそんなに衝撃的なことですか。いや、そりゃ事実だけ見れば悲しいよ?でも漫喫って悪い所じゃないからね。個室だしシャワーあるし、ソフトクリームも食べ放題だかんな。


「……じゃあ、隣駅の漫喫に行ってみてください」

「へ?」


 なんで?なんでアタルくんにお店を指定されるんだ。しかも最寄りじゃなくて隣り駅?


「きっと、山本さんにメリットがあると思います」

「あ、30歳以上は割引されるとか!?」

「違います」

「……」

「たぶん良いアドバイスをくれるんじゃないかと」

「……へ?」


 どうゆうこと?と質問してもアタルくんは爽やかな笑顔で、行ってみてください、と言うだけだった。全く意味が分からなかったけど、そんなにこだわりもなかったので取り敢えず私は言われるがまま隣り駅に向かった。




 ウィーン



「いらっしゃいま……」

「あ!」

「え……山本さん?」


 漫喫の店舗内に入った途端、私は話の半分を理解した。


「ここ、リュウくんのバイト先だったんだ!」

「はい」


 受付には白のワイシャツに黒いネクタイをつけたリュウくんがいた。……なんか制服めっちゃ似合ってる。イケメンがこうゆう恰好すると二割増しだよね。


「何時間ご利用されますか」

「あ、えっとー……」


 顔見知りが来たにも関わらず、淡々と業務を続けるリュウくん。うん、さすがブルーだ。どんな時でも冷静沈着。……ええっと、今21時だから、


「ナイト12時間パックで」

「……泊まるんですか?」

「え、うん」

「……会員証ありますか?なければ入会金いれて2200円です」

「あ、はい」


 なんだか怪訝な目で見られてる気がする……。そんなに?そんなに私が漫喫に泊まるのダメ?


「いってらっしゃいませ」

「あ、どうも」


 リュウくんから送られてくる視線が痛い。ああ、来なければよかった。ってゆうかアドバイスくれるってなに?こんな所に泊まらないで金出してビジネスホテルにでも行った方がいいですよ、ってこと?いや要らないわ。そんな助言なんの足しにもなりませぬ。……気まずいから、とにかく受付には近付かずに個室でひっそりしていよう。



 一時間後。



 コン、コン



「?はい」

「蒼乃です」

「え……(誰?)」

「あ、蒼乃リュウです」

「あ!はいはい」


 そういえばリュウくんの名字知らなかったわ!やっぱりカラーに因んだものなんだな。



 ガチャッ



 ドアを開けると、そこには先ほどの制服ではなく学生服姿のリュウくんが通学バッグを持って立っていた。


「俺、退勤なんで」

「あ、そっか!高校生って22時までだもんね」

「はい」


 あ、もしかしてわざわざ挨拶に来てくれたのかな。え、めっちゃイイ子じゃん。


「あの、本当にここに泊まるんですか」

「え、あー、うん」

「ここ、出ますよ」

「え」


 でる?でるっていうのは??


「幽霊です」

「えっ、ウ」

「本当です」



 ……



 ちーん。マジで?え、ってゆうか何でそんな話するの?聞かなければ私平穏に過ごせたんじゃない?


「あの、」

「まだ何かあるの!?」

「いやそうじゃなくて。俺の下宿先きますか」

「へ?」


 うん?今なんて言われた?リュウくんの下宿先に来……


「いやいやいや大丈夫!ぜんぜんココで大丈夫!!幽霊いないと思って過ごすから!心頭滅却すればお化け屋敷も夢の国さ!!」


 あかん、あかんよ少年!いくら私が不憫だからってそこは一線引かなきゃダメだって!あ、警察だから放っておけなかったのかな?だったらいっそブタ箱でいいよ!ブタ箱でカツ丼食わせてくれよ!


「あ、でも角の部屋空いてるんで。大家は俺の知り合いなんで、話せば2,3日はタダで使って平気だと思います」

「……え」


 お?なんか思ってた話と違うぞ?え~っと、ということは、つまり……


「リュウくんが住んでるアパートの一室を私が使ってもいい……ってこと?」

「はい」

「え、そして2,3日なら無料でご提供いただけると?」

「はい。どうで……」

「よろしくお願いします」


 あまりのグッド条件にリュウくんの言葉を遮って頭を下げた。……マジで?こんなミラクルある?捨てる神あれば拾う神ありだよ。


 世の理に感謝しつつ、私はすぐに荷物を纏めた。




 スタ、スタ……



 白い街灯がぽつりぽつりと並ぶ住宅街をリュウくんと二人で歩く。下宿先は漫喫とは反対側のあまり栄えていない方に建っているらしい。たしかに、まだ深夜じゃないのに辺りは不気味なくらいに静まり返っている。そういえばコンビニも無いな。買い物は駅前で済ませておかないとダメだな。


「山本さんて、アタルと仲いいんですか?」

「え?あ、うん。でも仲いいっていうか……私が色々相談に乗ってもらってる感じかな」

「そうですか」

「うん」

「……」

「……」


 会話が続かねえ……!え、なに話したらいいんだろ?共通の話題っていったら赤星くんとアタルくんだけど何か切り出しにくいっていうか、どんなテンションで切り出すべきなのか見極められないというか……。だって三人の中で交流が少ない人間・断トツ№1だよ?しかもクール・ブルーだから。くそ

、これがイエローとかだったらラフに話せそうなのに(偏見)


「実は、あいつに頼まれたんです」

「え?」

「山本さんを下宿先に置いてくれって」

「へ」


 なんだって?あいつって……あ、アタルくんか。……うん?アタルくんから頼まれた??


「山本さんの受付終わった後にアタルからメールきてて。女の人一人で宿泊は危ないからって。うち、女性専用ゾーンとかないから、だから何とか言いくるめて連れ出してくれって書いてありました」

「……」

「このこと本人には絶対言うなって」

「今ふつうに言ったよね?」

「はい」


 リュウくんはふっと息を吐くと、少し寂しそうな目で言葉を続けた。


「あいつ、いつもそうなんです。自分後回しで、周りの人間のことばっかり考えて。……すごい奴だなって思うけど、時々苦しくなる。俺は役に立ててるのかって」

「……」

「だから、あいつから山本さんのこと頼まれて、すごく嬉しかったんです。俺が全力で何とかしてやるって思いました」

「あ、じゃあ、もしかして幽霊が出るっていうのは……」

「嘘です」

「ひっかかったわ~!!」

「ははっ」


 あ……リュウくんが初めてちゃんと笑った。こんな表情もするんだ。まあそりゃそうか、高校生の男の子だもんね。悲しかったら泣くし、嬉しかったら笑うよね。


「あ。そういえばアタルくんが、リュウくんが私に良いアドバイスをくれると思うって言ってたんだけど、それって何のことなのかな?」

「アタルが言ったんですか?」

「うん」

「……山本さん、今なにか悩んでるんですか」

「え。あー……あれかな?住み込みの仕事解雇されて、住む場所がないってことかな?」

「……他にはありませんか」

「他?えーと……ああ……その職場の上司に失礼なことをしてブチ切れられたこ」

「ああ、そっちですね」

「そっち?」

「ブチ切れられた方です」

「え?」


 納得したようにリュウくんが首肯する。いや分かんないよ。私には何の話だか一ミリも分かんないっすよ。


「自分が悪いと思ったら、俺は基本的にすぐ謝ります。あ、でも相手は相当怒ってる感じですか?」

「え?あ、うん。そう」

「だとすると、すぐに謝っても駄目かもしれないですね」

「あ、うん」


 あれ、なんか空気が変わったぞ。アレだ、カウンセリング受けてる感じだ。いや受けたことないから分からないけど。でもこれは、明らかに相談に乗ってくれている。リュウくんが私に何らかのアドバイスをしようとしてくれている……!


「ある程度の時間は必要かもしれないけど……俺は、傍にいることが結構大事だと思います」

「傍に?」

「はい。近くにいたら言えるじゃないですか。あの時はゴメンって」

「……」

「しばらく相手には嫌な顔されるだろうけど、こっちは自分のしたいようにする。まあそれで余計に怒らせたこともありますけど」

「え」

「なんでお前普通なんだよ、ってキレられました」

「ぶっ」


 あ、ダメだ。笑ったら失礼だ!


「いいですよ笑って」

「あ、イヤ、」

「もう笑い話ですから」

「!」


 そう言って、リュウくんは少し照れくさそうに笑った。……ああ、なんだか肩に乗っていた重いものがゆるゆると溶けていくみたい。ロイの怒りは尋常じゃ無いし、きっと状況は困難だ。でも、もしかしたらこんな今を、“あの時”って穏やかに呼べる日がくるのかもしれない。


 その未来は自分でつくる。これから私が行動して創っていくんだ。



 ガシッ



「師匠、ありがとう!!」

「え、俺?」

「イエス!ユー!」

「だ、大丈夫ですか?」


 一回り以上も年下の子にガチで精神を心配された。いいんだ、いいんだ、変人でいい。だって心は晴れやかだから。空をも飛べそうな勢いだから!



 こうして私は二日間リュウくんの下宿先でお世話になり、三日目の朝に意を決してアジトにパァァァッとしたのだった。




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