友好条約
「おはようございます、デストロイ様!」
「……」
フイッ
コツ、コツ、コツ
私の向日葵のような笑顔(自称)をシカトしてロイが去る。うん、OK。どうやら通常営業に戻ったみたいだ。
地球が消えて無気力症候群的なものに陥っていたロイは何やかんやで立ち直り、再び悪の親玉らしいクールな形相で日々を送り始めた。ハタからみればあれだけど、つまりは元気になったってことだ。うん、良かった。やっぱり健康が一番だよ。
「(……さて、どうしよう?)」
そう、なんか一件落着的な雰囲気を醸し出していたけれど、実は何も片付いてない。大きな問題……ロイに地球破壊を諦めてもらう(もしくは巨大ロボに乗るのを諦めてもらう)ことに関しては何一つ進展していないのだ。残された時間は二週間ちょい、それまでに何とか彼の気持ちを動かさなければ……
ポンッ
「アケウィッ」
「!カッシー先輩」
振り返るとそこには二日前にマブダチさながらに別れたカッシーがいた。こんなに頻繁に会うなんて珍しいな。
「ほら、早く行かなウィとデストロイ様がお怒りになるウィ!」
「え?」
「聞いてなウィか?俺とアケミは呼び出されたウィよ?」
「マジですか」
聞いてない。全然聞いてない。ってゆうか今会ったんだから言えよロイ。あ、もしかして、あえて遅刻させて私のことザシュりたかったとか?いや、そんな回りくどいことしないか。いやでも前に私の苦しんでる顔を見て楽しそうにしてた件もあるから、その手法も否定できな……
と、深読みしていたらあっという間にロイの前に着いた。
「デストロイ様、おはようございますウィ。して、ご用件とは?」
「……」
私は片膝を立てて頭を下げながらも、警戒態勢を崩さずにいた。いやザシュられてもいいんだよ。いいんだけど、ビックリするの嫌だからさ……とか思っていたら、青い瞳がスッと動いた。くるっ!?今からくる!?
「貴様を034の調査団に加える」
「へ?」
「!、ウィッ」
え?うん?なんだなんだ、なんの話だ??そして034?なんかどっかで聞いたような……
「畏まりましたウィ!このカシオペラ座の怪人、しかとアケミの面倒を見ますウィ!」
「??」
スッ
コツ、コツ、コツ
カッシーの気合も私のハテナもスルーして親玉は去って行った。うん、感じの悪さも完全に戻ったな。
「よし!アケミ、さっそく034に行くウィ!」
「え?え?すいません、ちょっと状況がよく分かってないんですけど」
「まったく世話がやけるウィな~」
カッシーは肩を上げて大仰に溜息をつくと、スッと人差し指(的なもの)を立てた。
「アケミが担当してた017は消滅したウィ?だから今度は別の惑星調査チームに派遣されたってことウィ。それでもって、034のリーダーは俺ウィ!」
「!」
なるほど、そうゆうことか!従業員である以上、仕事をしないわけにはいかない。ホントはずっとアジトにいてロイへの接触を試みまくりたかったけど……しょうがない。ここは大人しく派遣されておこう。ずっと行きっぱなしじゃないもんね。一日の仕事が終わったら帰って来られるもんね。
「あ。あの、034ってどんな星ですか?なんか聞いたことがあるような……」
「034は、ちょっと前までデストロイ様と同盟を結んでた星ウィ。裏切ったけどな」
「!!」
そうだ!ロイのことを抹殺しようとした、あのモグラ・イグアナ星だ!!
「……えっと、調査っていうのは具体的にどうゆうことをするんですか?」
「!ウィウィ、そうか、アケミはずっとポリスメンズと戦ってたから惑星調査はしたことなウィな?」
「あ、はい」
「惑星調査っていうのは聞き込みや地質調査を行って、その星の構造を調べることウィ。そしてそのデータを基にデストロイ様が破壊装置を作るんだウィ」
「!」
やっぱりそうゆうことか……。私たちが調べたものがその星を破壊することに繋がる。そこにある、たくさんの命を奪うことになる。
「(でも……)」
私がいってもいかなくても、その作業は行われる。だったら……いこう。私、不死身だし、パァァできるし、カッシーもいるんだから、もしかしたら状況を好転させられるかもしれない。うん。何もしないよりは、できそうな事をやった方がいい。
「先輩、よろしくお願いしまっす!!」
「!、良い気合ウィ」
こうして、私はカッシー調査団の一員として珍獣たちと船に乗り込み、再びあの星に向かった。
ヒュォォォッ
034の枯れ山みたいな所に宇宙船を着陸させて、私たちは荒れた大地に降り立った(調査は素性を隠してやるものなので目立つ所にドドーンとは降着させないらしい)。景色は相変わらず辺り一面茶色オンリーでとにかく砂っぽい。……モグラさんには良いのかもしれないけど、人間が住むにはつらい星だ。
チームは二つに別れた。一つは専門の知識を持った地質調査組、もう一方は住民たちから環境や情勢を聞き出す聞き込み組。私は初心者で知識もないのでカッシーとペアを組んで後者を務めることになった。
「一般市民の聞き込みは他の奴らがするから、俺たちは高官の所に行くウィ」
「え!そんな大物たちに接触できるものなんですか?」
「アケミ~、俺を誰だと思ってるウィ?」
「あ」
そうだ!すっかり忘れてたけどカッシーは“悪魔の声”を使ってターゲットを思い通りに操れるハイスペックな怪人だった!
「先輩がいればこの任務楽勝じゃないですか」
「まあウィ♪」
と、いうことで私たちはササッと変装してこの星の中心であるっぽいあのエアーズロックに歩を進めた。
数十分後。
「いやホント簡単に中に入れましたね」
「ウィウィッ、朝飯前だウィ♪」
術を使って門の所にいた番人に私たちは官房の関係者だと言わせると、そこから先は面白いくらいにトントン拍子だった。いま、私とカッシーは赤い絨毯が敷かれた廊下を一列で歩いている。この先にちょっと立派な扉があるので、その中に居るであろうお偉いさん方に話を聞く予定だ。
「それにしても外観からは想像できない、しっかりした内装ですよね」
「034ではよく砂嵐が起こるウィ、ここにいる奴らはなかなか外に出られなウィ。故に多くの時間を室内で過ごすから、どの建物も中は凝った作りになってるんだウィ」
「へえ……」
そうか、ここは彼らにとっても住みにくい星なのか。……なんか、理由があるのかな?ここじゃないと生活できない理由が。
コツ
「……お前たち、何者だ?」
「!」
訝し気な声に振り返ると、武装したモグラさんが円らな瞳を鋭くさせてこちらを見ていた。うわっ、めっちゃ怪しまれてる……と私は内心ドキドキしたけど、カッシーは先輩らしく、とても落ち着いた様子でその質問に答えた。
「大臣の命令で惑星025から書物を持ってきたウィ」
「書物だと?」
「内容は言えなウィ。部屋はあそこであってるウィな?」
「ああ……」
モグさんはちょっと腑に落ちない感じだったけれど、案内しよう、と言ってカッシーの前に立った。あ、これド〇クエ歩きだ。珍獣、怪人、不死身……かなり濃ゆい一行だなあ。なんてくだらない事を考えていると、あっと言う間に荘厳な扉の前に辿り着いた。
ピィィィンッ
「(あ)」
「ウィウィ♪」
耳鳴りに目を向けると、カッシーが変なポーズをとっていた。その指先はモグさんに向けられている。
コン、コン
「失礼致します。惑星025からの使者を連れて参りました」
「使者だと?そんな連絡は受けていないが」
「どうやら緊急かつ内密な報告だそうで、連絡は敢えていれなかったとのことです」
「(!)」
モグさんの口からペラペラと言葉が発せられる。……やっぱりカッシーが喋らせてるのか。恐ろしいけど便利な技だな。中の人たちはモグさんの話を信じたらしく、結構すんなりドアを開けてくれた。モグさんに促されて室内に入ると、そこには赤い軍服を着た如何にも権力が強そうなモグラとイグアナが少なくとも5,6匹いた。そして彼らの真ん中には……
「(ヒソヒソ声)アケミ、あれは……」
「(ヒソヒソ声)どうみてもミサイルですよね」
「(ヒソヒソ声)やっぱウィ」
どこからどう見てもそれにしか見えない、灰色の物体がどーんと置いてあった。
ザッ
「025からの使者よ、一体何があったのだ?連絡もせず貴殿らを送るとはよっぽどの……」
ピィィィンッ
見覚えのあるイグさん(たぶん、ロイと対峙してた王っぽいやつ)が私たちの前に来るや否や再び耳鳴りが聞こえた。彼は言葉途中のまま口を閉じると表情をより深刻にして私たちに話し始めた。
「貴殿らも承知の通り、今我々は生き残りをかけた戦の準備をしている。一刻も早くこのミサイルをより高度なものにし、惑星066……デストロイの元に向けて発射しなければならい。あやつは必ずこの星を消しにかかる。百年前に先代がそうしたのと同じように……」
ピィィィンッ
「……百年前、我らは先代デストロイとの戦に敗れ、住み慣れた星を破壊され命からがらこの砂の星に逃れて来た――忌々しい、あの不平等な条約と共にな。何十年も機会を待ち続け、先日ようやく今のデストロイを葬り去ろうとしたが、それも失敗に終わった。我々に残された道はもはや二つだ。このまま黙って破滅の時を待つか、このミサイルを完成させデストロイを亡き者にするか」
きっとこれもカッシーの力なのだろう。イグ王は有難いくらい丁寧にこれまでのあらすじを説明してくれた。……なんか、とてつもなくマズイことになっている。うちの星にぶち込む為のミサイルを開発中だって?これはかなりヤバイ状況だ。戦争の一歩手前、キューバ危機さながらの
「ああ、我々はどこで間違ってしまったのか……民に顔向けできぬ……未来ある子供らに申し訳が立たぬ……」
「……」
……
もうカッシーは変なポーズをとっていない。だからこれは王の本音なんだろう。そっと辺りを見回すと、他のイグさんもモグさんも悲し気に俯き、部屋には痛いくらいの沈黙が横たわっていた。
難しいなあ……。この住みにくい環境(不平等条約付き)から脱したくてロイを抹殺しようとしたイグ王、そして抹殺されそうになったからこの星を消したいロイ。戦とか抹殺とか、そうゆう物騒なことは自分とはかけ離れた所にある感じがするけど、そこに至る経緯とか繋がりとか、そうゆうことに思いを馳せると、ああ、分からなくないかもしれないって思ことがある。
みんな事情がある。世界は全て、そんなどうしようもない事情で出来ているのかもしれない。
……グッ
でも、だからって何もしないのはナンセンスだ。だって私にも事情がある。ロイに誰も傷付けずに幸せになってもらいたいっていう、超個人的で譲れない願いがあるんだから。ああー、なんかないかな!?どっちも破壊されずに今後も仲良くお付き合いが出来るような何か……
ちらっ
「あっ!!」
「!?、な、なんだ突然?」
「ちょ、すいません」
タタッ
不審に思われるだろうなとは思ったけど、はやる気持ちを抑えられずに私はミサイルの奥にある壁に向かった。
じっ……
「これって、どこかで買ってきたんですか?」
「?いや、我々が作った物だが……」
「!!」
そこには、ざっと10メートルはありそうな大きな本棚がドドーンと置かれていた――この棚のすごいところは大きさだけじゃない。なんだかめちゃくちゃオシャレで機能的っぽいのだ!棚の一部がスライドできることはもちろん、透明な引き出しが付いてたり、分厚いファイルが並べられる移動式のラックが装備されていたり……とにかく、ニ〇リもアス〇ルも顔負けの超ハイテク本棚なのだ。
「……」
ロイ部屋の床は、棚に入りきらない大量の紙で埋め尽くされている。前から思ってた、あれ仕事しにくいんじゃない?って……これは、もしかしたらいけるかもしれない。
「……少し、時間をいただけませんか」
「なに?」
「私がロイ……デストロイに掛け合ってみます」
「は?」
カッシーを含むこの部屋にいる全ての生き物の目がテンになった。私はふかーく息を吸って、なるべく威厳のある声で叫んだ。
「名付けて……事務用品友好条約!!」
「「「「「??」」」」」
その後、私はカッシーの力を借りてこの星の工芸事情を聞きだし、本棚をスマホでパシャパシャ撮って一足お先にアジトに戻った。
数時間後。
「それでは始めさせていただきます!」
「……」
今、私はロイの間で彼を目の前にして重大なプレゼンを始めようとしている。星とそこに生きる者達の命が懸かった肝心要の提案だ。ちなみに親玉は相変わらず不機嫌そうで、つまんなかったら殺すぞみたいな表情で足を組み、右手で頬杖をついている。フンッ、もう慣れっこだ。そんな態度にイチイチ怯まないからな。
「本日034で聞き込み調査を行ったところ、思わぬ産物に出くわしました」
「……」
「こちらです!」
ヴンッ
アクロス班長から借りたプロジェクターでさっき撮った写真を布に映し出す。すると、ロイの眉毛がピクリと動いた。
「(よし!)こちらは034の城で見つけたものです。話を聞いたところ彼らの手作りだとか。034は砂の影響で外出がしずらい為、室内の内装や家具に重きを置くようになり、自ずとその技術が発展していったようです。この本棚はその賜物で、美しさと利便性を追求した結果この形になりました」
「……」
「この星には、こうした優れた物品が数多くあります。破壊してしまうにはあまりに惜しいかと……」
「ならば物品を奪え。それから破壊する」
ふっ、そうくると思ったぜ……!
「お言葉ですがデストロイ様、長い目でみると物品はいつか壊れます。その時に034の者がいなければ修復も新調もできません」
「……数人だけ捕らえて牢にいれておけ」
「デストロイ様、」
大きく前に出て片膝をつく。私は背筋を伸ばして、まっすぐにコバルトブルーを見上げた。
「034の優れた物品たちは環境や状況によって生み出されたのだと思います。住みにくい場所をいかに快適に過ごすか、いかに仲間と笑って過ごすか……おそらく、そのための努力や工夫が技術を向上させたのでしょう」
「だから何だ」
「星ごと生かしておくべきです」
「裏切り者をそのままにしておけと?」
「そのままにはしません、こちらで変えるのです」
「……なに?」
ふと、脳裏に現状を嘆くイグ王の姿が蘇った――ああ、我々はどこで間違ってしまったのか……民に顔向けできぬ……未来ある子供らに申し訳が立たぬ――
「裏切り者でも何者でも、自分のやったことを後悔したり、やり直したいって思ったりもします、まあそうじゃない奴もいるかもしれませんけど、ずっと同じ気持ちっていうのは考えにくい。だって心がありますから」
「心だと」
「デストロイ様もあるでしょう?私にイラついたり殺すぞって思ったり、目的とは違うところで動いてるものがあるでしょう?」
「……」
「今、034の王はデストロイ様の報復を恐れて後悔しています。こんな危機的状況になってしまって、民に申し訳ないと……そこに付け込むのです」
「……ほう?」
ここにきて初めてロイのほう?が出た。うしっ、ラストスパートだ。
「人の心は弱いもの。弱っている時に手を差し伸べられれば多くの者が恩を感じるでしょう。そして恩というのは理屈を超える。いつか何かあった時に思いがけぬかたちでデストロイ様のお役に立つかもしれません。ですから、こちらから動いて変えるのです。後悔している裏切り者に手を差し伸べ、善良な部下に変える。そうすれば物品も恒久的に手に入り、駒も増えます。まさに一石二鳥ではないでしょうか」
……
コバルトブルーが瞬きもせずにこちらを見つめる。私は意思を込めてその目を見返した。……数十秒の沈黙後、端正な唇が静かに動いた。
「……悪くない」
「!、はいっ!!」
よっしゃー!!プレゼン成功だ!!思わず大きな笑みがこぼれる。って落ち着け自分、もういい歳なんだから。でもでもやっぱりニヤけてしまう。だってこれでモグさんイグさんが助か……
「やめろ」
「へ?」
「その顔をやめろ」
「……」
ひどくない?そんなにキモかったって?そりゃもう笑顔が可愛い歳じゃないけどさ、ちょっとは大目に見てくれたっていいじゃん。とかなんとか心の中で抗議している間に親玉は淡々と席を立ち、部屋の奥に消えようとしていた。
……コツ
「二度とするな」
「へ?」
「あの顔を」
「……」
急に立ち止まって何を言うのかと思ったら……そんなに気に入らなかったのか。ああ、ダメダメ気にしちゃダメだ。なんか違うこと考えよ。……と頭では思うのだけれど、脳みそとは裏腹に心はどんどん萎んでいく。
「どうすればいいか分からなくなる」
「は?」
「不快だ」
コツ、コツ、コツ……
そう言って奴は去って行った。
……。
どうゆうこと?




