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悪役と一緒。  作者: 道野ハル
そろそろ2クール目?
15/32

その手に



 ウーッ、ウーッ、ウーッ



『第三ブロックに侵入者発見、現在B地点を通過中。繰り返し報告する、第三ブロックに侵入者発見、現在……』

「え?なにこれヤバくないですか」


 赤星くんと別れてアジトにパァァしてみると、廊下に設置されたスピーカーから突然、緊急っぽいアナウンスが流れ始めた。え、こんなの初めてなんですけど。


「たまにあることだウィ。こないだもアケミが017に行ってる間に第二ブロックに宇宙海賊が入ったウィ」

「マジですか。ってゆうかそんなに何度も侵入されてるんですかウチは」


 それ結構問題ですよね?とバッタリ会ったカッシーに尋ねる。最初は上から目線で調子乗ってたからカッシーのことあんまり好きじゃなかったけど今はそんなことない。このアジトでリラックスして会話できる貴重な人げ……怪人だ。


「侵入者がいること自体は問題ないウィ。むしろそいつらを拷問して色んな情報を聞き出せるから好都合ウィ」

「(エグイ……)」

「それにデストロイ様がいる限り、どんな侵入者も必ず捕まるウィ!」

「え?」


 どうゆうこと?めちゃくちゃ強いってことなのかな?


「アケミはここに来て日が浅いから知らなウィだろうが、デストロ族の長ともなる御方は特殊能力を持ってるウィ」

「特殊能力?」

「半径10キロ以内なら、どんな血の臭いも嗅ぎ分けることができるんだウィ!」

「へ」


 なんだそれ。


「え、デストロ族ってもしかしてドラキュラなんですか?」

「そんなわけなウィ」

「あ、そうですか。でも、血の臭いが嗅ぎ分けられる事と侵入者の件となんの関係があるんですか?」

「どこにいるかが分かるウィ?」

「え?」

「だ・か・ら、いつも居る我々と違う臭いが飛び込んできたら、そいつがどこに居るのかスグに分かるウィ?」

「え。それってもしかして侵入者が怪我して血を流したら嗅ぎとれる……とかじゃなくて、そいつが健康でピンピンした状態でも、肌の下を流れる血の臭いが分かっちゃうってことですか?」

「その通ウィ!」

「!!」


 なるほど、それは便利だ!


「さっきの放送もデストロイ様の指示で流れてるウィ。だから捕まるのも時間の問題ウィ」

「へえ、実用的ですね~」

「ウィ。アケミは、最近どうウィ?」

「あ、私はですねー」


 それからしばらく、カッシーと立ったまま談笑した。近況報告などをして大変すね、頑張りましょう等々励まし合い、最後に謎のハイタッチをしてマブダチのように別れた。


 


 数十分後。



 ウーッ、ウーッ、ウーッ



『だ、第一ブロックに侵入者発見、E地点を……突破し、F通路に移動した模様、繰り返す。第一ブロックに……』

「(あれ?)」


 これ、さっきと同じ侵入者のこと?まだ捕まってなかったんだ……。


『て、訂正、訂正!侵入者は第二ブロックに出現、D地点を通過したとの目撃情報が……』


 アナウンスが明らかに動揺してる……。それに“目撃情報”?これってロイが血を嗅ぎ分けて指示出してる放送なんだよね?だったら目撃情報なんて必要ないんじゃ


「……」


 なんか、嫌な感じがする。もしかして不測の事態が起こったのでは……



 バタバタバタッ



「(!)」

「なぜデストロイ様からの指示が途切れたのだ!?」

「分からん!生体反応の確認はとれているが、扉の前で呼びかけても応答がないそうだ!」

「くそっ、一体なにが起こってるんだ!?」


 オペレーションルームの制服を着たオオカミとかヤマイヌみたいな構成員たちが限りなく困惑した様子で私の前を駆けて行く。あっちは……ロイの研究室がある方だ。やっぱり何かあったんだ。



 ……タッ



 気付かれないように少し離れて彼らを追う――ロイ部屋の前に着くと、そこには既にネコ科やイヌ科の珍獣たちがいて、扉を叩きながら内側に向かって必死に叫んでいた。


「デストロイ様!いかがされたのですか!?」

「ご指示をお願いします!!」

「このままではアジトが侵入者に……!」


 重厚な扉の前で悲痛な声を上げる動物たち。しかし、返事は一切ない。……ってゆうか、本当にロイってこの中にいるの?もしかして実は違う所にいましたみたいなオチだったりしないの?


「(入ってみるか……)」


 この部屋なら一回見たことあるから問題ないだろう。きっと、すんなり忍び込める。私はオペレーターチームから完全に見えない場所に移動して、できるだけ密やかにパァァっとした。




 コポコポコポッ


 ……カタッ



「(!よしっ)」


 不気味な液体、たくさんの本棚、床を埋め尽くす書類の山……見事、成功したみたいだ。ちなみに私は今、大きな棚の後ろにいる。すべては身の安全の為だ。だってもしロイがご在部屋だったら、どうやって入った?ってそれこそ拷問されそうだし、どう答えてもザシュられそうだもの。ま、不死身だから安全もナニもないけど。



 そろ~り



 なるべく音を立てずに低姿勢で棚から離れる。何だか私が侵入者みたいだ。いや侵入者だけど。とりあえずコポコポ以外の環境音は何も聞こえない。やっぱりここには居ないんじゃ……


「……」

「……」



 ……



 いた。普通に机に向かって座ってた。


「……なぜ貴様がここにいる」

「えっと、掃除しようかなって思って入ったんですけど、なんか出るタイミング失って今に至るって感じです」


 非現実的な言い訳を並べて私は直ぐさま身構えた。くる。絶対この後ザシュられる。


「……」

「(あれ?)」


 なんで動かないんだ?なんで座ったままなんだ?


「あの~」

「……」

「怒らないんですか?」


 我ながら小学生みたいな質問だ。あ、この問いを投げたことで、やっぱりザシュられるという流れに


「どうでもいい」

「へ?」


 それだけ言うと彼は机の上の書類に目を落とした。な、なんだ?よく分かんないけど、おかしいぞ。そしてロイは本当に目を落としてるだけだった。読んでない。だって眼球が動いてないもの。無表情で固まってる。



 ドン、ドン!

 


「デストロイ様!どうかご指示を!」

「このままでは中枢に侵入されてしまいます!!」

「(!)」


 そうだ、暫しの間完全に忘れてたけど今は緊急事態なんだった。ロイが臭いを嗅ぎ分けて彼らに教えてあげないとココが大変なことになってしまう。


 が、


「……」

「……」


 ロイの端正な口は一向に動かない。机の端にボタンのついた卓上マイクがあるから多分あれでオペレーションルームに指示を出すんだろうけど、そちらを向く気配もない……。なんでだ?もしかして状況分かってないとか?


「あのデストロイ様、先ほどアジトに誰か侵入したみたいで皆が行方を捜しているのですが、それってご存知ですか?」

「……」

「……あの、もしかして具合悪いですか?医療班お呼びしましょうか?」



 ……



 しーん、だ。親玉はピクリとも動かない。これは本当にどこか悪いんじゃないか?



 ……スタ、スタ



 ちょっと恐いけど近付いてみる。散乱してる紙たちを踏まないように慎重に歩いて行く。私がそうやって距離を縮めている間も、ロイは動かなかった――さすがに心配になり、机の前にくるや否や腰を屈めてそっと顔を覗き込んだ。


「あのデストロイさ、!!」

「……」


 ……なんて目をしてるんだ。


「いかがされたのですか?」

「……」

「……私の声、聞こえます?」


 彼の目は虚ろだった。冷たいとかそんなんじゃない。ずっと続く真っ暗な穴のような、深い深い空洞。そこには何も映らない。怒りも、悲しみも、私の姿も。想像を遥かに超えるその様子に続ける言葉が見つからない……。声も体も固まったまま、私はただただロイを見つめた。


 しばらくすると、薄い唇が開いて掠れた声が聞こえた。


「わからない」

「え?」

「何をすればいい」



 ズキッ



“調査報告を基に自ら研究し、効率的に星を破壊できる方法を見つける。その努力が実り、みごと星を破壊できた時にデストロイ様は満たされる”



 班長の言葉が頭の中で強制的に再生される――



“自分の力でなければ、意味がないのだよ”



「……」

「……」


 ジャングル星で触れたロイの熱い体、呪文を暗記する横顔、いつも手に持ってるたくさんの書類……いろんな瞬間が次々と勝手に蘇ってくる。そうだ、そうだよ、私は知ってるんだ。彼が目的のためにどんなに努力してきたか。


 誰にも頼らないで、真っすぐで、本当は悪い事なんてしていない。


 最悪だ。私は最悪のことをしている。そんな彼を傷つけると分かって事を起こした。ロイよりも私の方がずっとずっと悪役だ。


 でも……



 ガシッ



「デストロイ様」


 机に置かれた細い腕を掴む。ロイは無反応だけど、私は構わず続けた。


「あなたが壊そうと努力していた017は消えました」

「……」

「目指していたものが無くなるのは、つらい。心にぽっかり穴が空いて全然ふさがらない……そこから抜け出すのは大変だし、もしかしたらずっと抜け出せないかもしれない」

「……」

「でもちゃんと見てください。その手に何が残ったのか、を」



 ふ……



 青い瞳が微かに動いた。腹に力を入れて、彼に真っ直ぐ届くように私は続けた。


「上手くいくことも、いかないこともある。結果ってそんな不確かなものだと思うんです。でも、そこにいたるまでの努力とか気持ちは絶対確かじゃないですか。それは紛れもなく自分が得たもの、今後の自分を変えていくものだと思うんです。だから無駄じゃない。あなたがやったことに、なに一つ無駄なんてないんです」


 本当にどの口が言ってるんだと思う。詐欺師も犯罪者も非難できない。だけどやっぱり私はロイに誰も殺して欲しくなくて、そんなことをしない楽しい毎日を送って欲しい。汚くてもズルくても構わない。私はこいつに幸せになって欲しい。



 ……すっ



 ロイの顔がゆっくり動く。目が合った。すると、彼はふいに子供みたいに目を丸くした。


「なぜ、泣いている……」

「え?あー、心の汗です」


 ……中村雅俊か。ちょ、自分で答えて超ハズかしいんですけど。くそっ、穴掘りたい。穴掘ってそこに入りたい。なんだよもう結構シリアスな流れだったのにっ!と色んな意味で泣いていると、ロイの目元がくしゃっとした。


「変な奴だ」

「!!」


 いま、笑った……?


「出て行け、邪魔だ」

「あ、はい、すいません」



 スタ、スタ……



「オペレーションルームに告ぐ。侵入者は第一ブッロクに入り、B地点に向かっている」

『!!、か、畏まりました!!』

「……」


 ロイはマイクに向かってそう言うと、再び書類に目を落とした。今度は読んでる。コバルトブルーがちゃんと右から左に動いている。……もう、大丈夫かな。



 スタ、スタ、スタ


 ギィッ……パタン



 言われた通りに部屋を出る。さっきまで騒がしかった廊下には誰の影もなかった。


「……」


 無性に、室内に戻りたくなった。後ろ姿でもなんでもいいから、奴のことを見ていたい気がした。

 



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