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悪役と一緒。  作者: 道野ハル
そろそろ2クール目?
14/32

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 三日後。



 ひらっ、ひらひらひら~



「……」

「……」

 

 最近、ロイの様子が変だ。外観はいつもと変わらぬクールフェイスだけど、なんかちょっとおかしい。だって今もハラハラ書類落としてるのに全く気付いてないもの。いや一枚落とすとかは前にもあったけど、それどころじゃないからね、桜のように舞ってるからね。



 ササッ、サササッ



「デストロイ様!書類、落としてますよー!」

「!」


 散った紙たちを回収して声をかけると、ロイはビデオの一時停止のようにピタリと止まった。そして私が小走りで近づくと、緩慢な動作で首から上だけをこちらに向けた。


「どうぞ!」

「……」

「あのー……」

「……」

「大丈夫ですか?体調でも悪……」



 バッ


 コツ、コツ、コツ……



「……」


 おかしい。やっぱりおかしい。結局最後はいつもみたく力づくで奪われたけど、そこに至るまで時間が掛かり過ぎだ。十八番のコツコツ歩きも覇気がないし……。顔は変わらないけどね。行動とか反応が鈍いっていうかボケてるっていうか。


 これはやっぱり、地球が見えなくなった事と関係あるのだろうか。




「うむ……そうだろうな」

「あ、やっぱり班長もそう思います?」


 思い込みだったらアレなので周りの意見を伺うべく、私はもはや茶飲み友達になりつつあるアクロス班長を訪ねた――班長は神妙な面持ちをしながらモフモフの手でコーヒーカップを口に運んでいる。よくコレで取っ手もてるな。


「惑星017はデストロイ様が特に力を入れていた星だからな……。自分が手を下すことなく消えたとなれば、衝撃も大きいだろう」

「……」


 ここで重要な役職についている班長が言うんだから、きっとそうなんだろう。推測は当たってたみたいだ。


「あの……破壊しようと思ってた星が無くなるのって、そんなにショックな事なんですか?手間が省けてラッキーってことは……」

「それは違う。デストロイ様の目的は自分の手で星を破壊し、宇宙に闇をつくることだ。誰かがやったり、自然現象で消えたのでは意味がない」


 あ、ヤバ。ちょっとこの先聞きたくな……


「調査報告を基に自ら研究し、効率的に星を破壊できる方法を見つける。その努力が実り、みごと星を破壊できた時にデストロイ様は満たされる」

「……」

「自分の力でなければ、意味がないのだよ」

「……」

「分かるかな?」

「……ええ」


 うわあ、最悪だ。ダメージを回避しようとして逆に深手負っちゃった感じ?ズルイ考えだけど、こうゆうの聞きたくなかった。だって、自分の力でやり遂げたいって結構多くの人が思ってることじゃん。むしろそうゆう姿勢は「努力してるね」とか「夢があっていいね」とか褒められる傾向にある。


 でもロイの行動は、どうやっても“悪”と呼ばれてしまう。


 いやでも彼の野望に太鼓判を押すことはできない。だってそれは多くの人生を奪うことに直結してるから。頑張るのは悪くないけど、誰かに迷惑かけるのはダメだ。死、なんて絶対ダメ。ダメダメダメ、だめ、なんだけど……


 なんだろう、このわだかまりは。


「ダーッ!」

「!?、アケミくん……?」

「あ、すみません。独り言です」

「そ、そうか……」


 くそっ、ゴチャゴチャだ。頭の中が大運動会……とか思っていたら、お尻でスマホがヴーンと鳴った――そろそろ出勤時刻だ。嗚呼、どんな状況でも時は進むし、庶民は稼がなければならない。


 とゆうことで、ちょっと固まっている班長にペコリして、私は地球に向かった。





 カサカサッ



「きゃっ、また出た!山本さんお願い!」

「あ、はあ」



 ダンッ!


 クシャッ



「ありがとう~、助かった~!」

「いえいえ」



 ポイッ



 数秒前まで生きていたGの亡骸をティッシュごとゴミ箱に捨てる。最近、暑くなってきたせいか店内で彼(彼女)らを見掛けることが多くなった。バックヤードならまだしもホールに居るのはまずい。お客様の目に触れる前に殲滅しなければならない。



 カサッ



「あっ、また!山本さ……」



 バシッ!



「(!あ)」

「はい、いっちょあがり!」

「赤星くんありがとう~!さすが男の子!」

「へへっ、任せてください」

「また出たらよろしくね!」

「ハイッ!」



 タタッ♪



 悲鳴を上げていた副店長が安心した様子で去って行く。あー、今日赤星くんも出勤なんだ。シフト被るの久しぶりだな。



 くるっ



「山本さんも俺のこと呼んでいいからね」

「え?」

「虫、嫌いなんでしょ?」

「!」


 大きな黒目がまっすぐこちらを見る。……さすが赤星くん。妙にするどい。するどいっていうか、たぶん本能で分かるんだろうな。


「あー、虫がイヤとか恐いとかじゃないんだ。あ、もちろん好きでもないけど」

「えっ、そうなの?」

「うん。これまで普通にバシバシ殺してたし。だから誰かに頼まれても全然平気で潰してたんだけど、ちょっと今、センチメンタルでね……」

「え、ゴキブリが?」

「いや私が」


 なんでGの方やねん。……あ、でもそうゆうとこだよな。そうゆうところが既に見下しちゃってるんだよな。だってGだって生きてるし、必死にカサカサしてるわけだし……


「山本さん、バイトのあと時間ある?」

「え?」

「アイスおごるから公園寄ろうぜ。センチメートル解決しよ!」

「!、……センチメンタルだよ」


 なんなのよ君は……。眩しい。もういろいろ眩しくてオバサン直視できない。と、涙ぐみそうになるのをググッと堪えながら、私は赤星くんにお礼を言った。





 スッ



「はい、これ赤星くんのぶん」

「なんか悪いなー、でも、ありがとう!」

「とんでもない」


 お店を出るともう太陽の姿はなく、夜の手前の青い世界がスンと広がっていた。赤星くんは奢ってくれると言ったけれど、一回り以上も下の子にお金を出させるのは流石に忍びないので、今回は私が強引に奢らせて頂いた。


 ちなみにガ〇ガリ君じゃないよ。パ〇ムだから。


「うまっ!やっぱ暑い日はアイスだよな~!!」

「労働した後は尚うまいよね」

「マジでそう!くあ~!しみる~!!」


 100ウン十円でここまで喜んでくれるとは……。と、無邪気なリアクションに心を洗われていると、アイスを食べてる口から唐突に本題が切り出された。


「ふぇ、山本ふぁんはなんふぇセンチメタルはぁの?」

「食べ終わってからでいいよ?そしてセンチメンタルね」


 真剣な眼差しでレッド感を発揮する赤星くん。そういえば、前にもリュウくんにカタカナの言い間違いを指摘されてたな。きっと横文字が苦手な設定なんだろう。



 モグモグ……


 ゴックン!



「で、どうしてセンチメーテル?」

「銀河鉄道?まあいいや……。えっと、なんか、命ってなんだろうって考えてて……」

「え?」

「いや、ほら、人の命は地球より重い、とか言うじゃない?命は重さなのかなーとか、なんかそんなことを悶々とね」


 歯切れの悪い私の言葉に赤星くんがハテナマークを浮かべる。そうだよね、自分でもふわっとしたこと言ってるなって思うもん。でも、内容が内容なだけに正統派主人公にはちょっと言いにくいっていうか……。


「山本さん、なんか隠してない?」

「えっ?」

「いや、なんか歯に皮着せた言い方されてるってゆうか、痒いところに指が届かなくてムズムズするみたいな!?」


 ……誤魔化せないか。単語は色々間違ってるけど、やっぱり赤星くんはこうゆうところ敏感だよなあ。


「ちゃんと話してよ、友達だろ!?」

「!」

「俺、頭悪いけど聞くことはできるよ!」



 ……



 大きな瞳が揺れながら訴える。信じてくれ、信じてくれって、言葉はないけどそう言ってる……。すごいな、そんな目で見られたら言わないわけにいかないや。言っても、いいかな?立場とか歳とか関係なく、一人の友だちに話すみたいに。


「……人の命は重いってよくいうよね?それはそう、命は何にも代えられない大切なものだと思う。でもさ、動物とか、虫とかはどうなのって」

「……」

「命があることは同じなのに、肉が食べたいから豚は殺すし、気持ち悪いと思った虫は殺すよね?逆に猫とか天然記念物は愛護団体がついてたり、国が保護して守ろうとするよね?なんかそれって……なんなのかなって」


 いや、こんなこと言ってるけど私もそうだ。美味しいから豚丼食べるし、痒いのイヤだから蚊を見たら即行で叩き潰す。でも、子供の時から頭の隅でちょっと思ってた。自分が虫とか動物だったら、そうゆうのたまんないなって……。


「……結局、命の重さって、人間がなんとなく決めた順位なのかなって……」


 そう考えると、ロイの行動も一概に間違ってるとは言えない気がする。気に食わないから排除する、目的のために生を奪う。……私たちだってそうなんじゃない?みんな自分の都合で何かを取りあげて……


「基本的に、みんな勝手だよな」

「え?」

「自分が大事だし、友達とか家族の方が他人より大切だったりするじゃん?だから、もしかしたら虫とか動物もそうかもよ?」

「へ?」

「いや博士じゃないから分かんないけど、あいつらも自分の都合で動いてんじゃね?って。なんか自分の置かれた境遇?で、よかれと思ってカサカサしてるんじゃないかなって」

「あ、うん」


 あれ、なんか違う感じに伝わっちゃったかな?矛先が生物の思考になってる?うーん、どうしよう。でも良かれと思って言ってくれてるわけだから、ここは一旦話を合わせて……


「ダーッ!!」

「!?、どしたっ」

「ダメだっ、日本語が喋れねえ!!」

「いや日本語は喋れてるよ?」

「いやそうなんだけど!そうじゃなくて!なんっつーか、結局気持ちで動くしかなくね!?」

「!」

「ほら、みんな気持ちもってんだから、勝手で当たり前なんだよ!だから嫌なこと言ったり、殴ったりする、でもさ、そんなことない方が絶対いいじゃん!だから俺は皆が笑顔でいられる世の中にしたいっ!!」


 赤星くんはそう言い切ると、バッ!と立ち上がって拳を天に突き上げた。


「幸せだったら周りがよく見えると思うんだ!それで皆が相手のこと思いやってさ、そしたら犯罪とか戦争とか、きっと無くなる!」

「……」

「だから俺は、ぜったい宇宙警察庁長官になる!!」


 あ、それ私に言っちゃダメなやつじゃない?ま、いっか。本人気付いてなさそうだし。


「あ、なんか違う?俺めちゃくちゃ脱線した!?」

「ううん、そんなことないよ」


 確かに多少脱線はした。でも、とても大切なことを教わった。そう、結局気持ちなんだ。私もロイもポリスメンズも、皆それで動いてる。


「うん、スッキリした。ゴキブリを殺すのは可哀そうだけど、衛生的にも危険だから店内で見つけたら迷わず潰す、そして心の中で謝罪する!」

「おっ、おう!」

「豚を殺すのは可哀そうだけどお肉は美味しいし元気が出るからこれからも食べる、でも絶対に残さない!」

「おうっ!!」


 小学生の学級目標みたいな細やかな決意を大声で口にする。イタイ、私ってば超イタイ30代だ。でも言葉にすることで想いに輪郭がつく。そして聞いてもらうことで頑張らなきゃって強く思える。ありがとう赤星くん、乗ってくれて更にありがとう。



 ぐぎゅるる~



「あ゛」

「よしっ、帰ろう!」

「うわあ~、俺マジでだせえええっ」


 その後、久しぶりに赤星くんと駅まで歩いて電車に乗った。ギリギリのギリまでバイトのこととかテレビのこととか本当に普通の話をして、またね、って笑って別れた。



 プシュウッ


 ガタンゴトン、ガタンゴトン……


 ……



 こうゆう感じ暫くぶりだなってホッコリしたその後に――青い瞳が脳裏に浮かんだ。




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