ズルイ女
翌日。
タタッ
「アケミくん、朗報だ!デストロイ様が持ち帰ったパワーストーンのお陰で、搭乗者の書き換えが出来るようになったよ!」
「え?」
次のシフトを考えながらプラプラ廊下を歩いていると、アクロス班長が息を弾ませて駆け寄ってきた。
で、なんて?何の話?
「あの、すみません、なんのことですか?」
「ああ、すまない!興奮してしまって……。昨日、惑星034から箱を持ち帰っただろう?あの中には特殊な化学反応を起こせる貴重な鉱石が入っていたんだ。その効能のお陰で、巨大ロボの搭乗者の書き換えが可能になったんだよ」
「えっ!」
そうか!ロイはそれがしたくて、あの遺跡に行ったのか。
「あっ、とゆうことは私以外の人も乗れるようになるんですか?」
「ああ、これからはデストロイ様がお乗りになる」
「え」
「アケミ殿……その節は命を救って頂いて本当にありがとう。中枢システムが復帰して、デストロイ様にもご満足いただけた。もう何も心配することは無いと思う。貴殿には、感謝しても感謝しきれない……」
「あ、いえ、そんな」
マズイ、マズイぞこれは。ロイが巨大ロボに乗るってことは、地球に行って赤星くんたちと直接闘うってことだよね?そんなことされたら、確実に死傷者が出る……。平和に事を進めるはずが真逆の結果になってしまった。え、どうしよう。どうすれば止められる!?
「と、ゆうことになってしまいました……」
「……」
前回教えてもらったLINEでアタルくんを公園に呼び出し、これまでのあらすじをババッと話した。時は夕刻。離れた場所では何人かの子供たちが遊具の周りでパラパラと戯れている。ああ、あっちとこっちの間はたかが数メートルなのに、なんか世界が全然違う。
アタルくんは両手を足の間で組み、伏し目がちに考え込んでいた。長い睫毛が色白の肌に影を落としている。私は判決を言い渡される被告人みたいな気持ちで彼の言葉を待った――しばらくすると、隣からかすれた声がした。
「……もし、デストロイが巨大ロボで地球にやってきたら、俺たちは戦うしかありません」
「……うん、そうだよね」
当然だ。だってアタルくんたちポリスメンズは地球を守るためにここに居るんだから。いや、例えヒーローじゃなくても自分たちを脅かす存在が現れたら、きっとほとんどの人が何とかしなきゃって立ち上がるだろう。そんな簡単なこと、最初から分かってたはずなのに……。ああ、アタルくんに悪いことしたな。答えは明確だったのに、言いにくいことを言わせてしまった。
「……山本さんは、デストロイのことをどう思ってるんですか?」
「え?」
「あ、深い意味はありません。単純に、どう思っているのかなと思いまして」
え、なんでそんな質問?今地球がどうなるかっていう超絶グローバルな話してたよね?なのに何でそんなことを……
「……」
「……」
アタルくんは黙ってジッとこちらを見ている。……とりあえず話すか。今の私はどうこう言える立場でも無いし。
「そうだな……なんか、真面目すぎるなって」
「真面目、過ぎる?」
「うん。あいつさ、誰にも頼らないの。いつも部下のことゴミみたいに扱うくせに、助けは一切求めないってゆうか。まあ他人を信用してないってことなんだろうけど、それだけじゃなくて……なんか、そう居るのが当たり前って思ってるみたいな」
「……」
「別にそれが間違ってるとは思わない。だって“当たり前”なんて人それぞれでしょ?住んでる場所とか親の影響で価値観なんて変わるし。でもさ、この地球……宇宙にたくさんの人がいる限り、誰にも頼らないで生きていくって、逆にきついと思うんだよね。だって望んでいてもいなくても、この世には自分以外の生物がごまんといるわけだから。だから、一人じゃない方が楽だと思うんだ。だから……なんてゆうか、押し付けるんじゃなくて、こうゆう考え方もあるよ?っていうのが伝えられたらいいのに、って」
そう、そうなんだ。私が度々感じるモヤモヤは主にこの類なんだ。銀河を闇で覆い尽くすために生まれてきたことは、もうしょうがない。だってそうゆう設定で、そうゆう役割を与えられちゃってるんだから。でも、できたら他のことも知りたくない?色んな考えとか気持ちを知って、それもアリだなって思えた方が人生豊かになる気がしない?
……
「……実は最近、宇宙警察の科学研究所が一定期間惑星を隠すことができるコズミックヴェールを開発したんです」
「えっ?コズ??」
おおう、どうした?いきなり中二病っぽい物が出てきたぞ。ってゆうか今日のアタルくんはやけに唐突に話題を変えるな。……何か考えてるのかな。
「ほら、忍者が壁と同じ布を張って身を隠す術があるでしょう?簡単にいうとあれと同じです。宇宙と同じ柄の大きな布で星を覆って見えなくするんです。でも、すごくデリケートな素材なのでタイムリミットがあって……三週間経つと、ヴェールが劣化して消滅してしまうんです」
「はあ……」
ちょっと話がデカすぎて理解が追いつかない……。で、つまりそれが何なんだ?アタルくんは何でこのビックアイテムの話を出したんだ??と全身でハテナを醸し出していると、彼は一度控えめに笑ってから改まった口調で言った。
「つまり、そのヴェールを使って地球を隠せば、三週間この星は誰の目にも見えなくなる。その間に山本さんがデストロイに働きかけるというのはどうでしょう?」
「!」
えっと、地球を隠してる間に、ロイの気持ちを変えるってこと……?
「デストロイの目的は星を滅ぼすことなんですよね?自分が手を下していないのに突然地球が消えたとなったら、さすがの彼も動揺するはずです。それは――チャンスです。その隙をついて山本さんが彼に話し掛ければ、いつもは届かない言葉も響くかもしれない」
「……」
「ズルイやり方かもしれませんが、今は」
「いやナイスアイディアだよ」
「……」
「あ、でもそのヴェールって簡単に使える物なの?」
「実証試験はまだなので、それを地球でやってもらうように申請すればいけると思います。デストロイに目をつけられていることは上も把握してるので」
「なるほど」
「申請……してみますか?」
「うん、お願い!あ、でもアタルくんの負担にならなければだけど」
「俺の方は問題ありません」
「じゃ、よろしく!」
私がこめかみにビシッと手をやると、アタルくんは遠慮がちに微笑んでから同じポーズをしてくれた。
翌夜。
「デ、デストロイ様!オペレーター室の監視レーダーから惑星017が消失しました!!」
「なに?」
事は起こった。私がロイの間の外で張り込んでいると(用がなければ入れてもらえないのでドア脇がマイポジションだ)インカムを付けたシベリアンハスキー的な職員が慌てた様子で室内に転がり込んで行った。
「モニターの故障かと思い、方々確認したのですが全く異常はなく……本当に017が突然消えてしまったんです!!」
「……」
ガタッ
カッ、カッ、カッ
ロイは椅子から立ち上がると黙ってツカツカ歩き始めた。たぶんオペレーター室に行って自分の目で確かめるんだろう――私は息を殺して彼が離れて行くのを待った。そしてその後ろ姿が豆粒みたいに小さくなった頃合いをみて、静かに後を追い掛けた。
「……」
「い、いかがでしょう?」
オペレーター室から怪物レベルの超重い空気が漏れている(またしても中には入れないので外で聞き耳を立ててるなう。あ、なうって懐かしいな)。これ、その場にいる職員絶対キツイよね。心臓バックンバックンいってるよね……と彼らに対して後ろめたい気持ちを抱えていると、ふいに誰かがこちらに向かってくる気配がした。
……
スッ
「!」
「……」
出てきたのはロイだった。いつもコツコツ、カツカツいわせながら歩いてるから、まさか彼だと思わなかった。
油断して隠れるのを忘れていたのでバレた!?と焦ったけれど……青い瞳は一切私を映すことなく無表情で去って行った。




