横顔Ⅱ
ひゅぅぅぅぅ
「明日、惑星034に向かう。同行しろ」
「え」
帰ってくるや否やご当人に呼び出されたので、バトルのお告げだったら絶対に嫌だなと思いつつ、例の間に行ったらカナリ意外な任務を言い渡された。
ロイに……同行する?ってことは、長時間近くで彼を観察できるという事じゃないか!?
「……畏まりました。必ずや、デストロイ様のお役に立ってみせます」
「……」
嗚呼、なんてラッキーなタイミング。これはかなりのビックチャンスだ。よし、とりあえず早く寝よう。しっかり睡眠とって最高のコンディションで明日の任務に挑むんだ。あ、一回地球に戻ってレッド〇ルでも買ってくる?きっとハードな一日になるだろうから、カフェインの力は必須だ。
翌日。
「おはようございます、デストロイ様!」
「……」
ばっちりエナジーを注入してロイの間に向かうと、すでに機嫌の悪そうなラスボスが出来上がっていた。えー、朝からその顔?なんだか先が思いやられそうだ。でもま、そんなんじゃ怯まないけどね。翼をさずかった私は最強さ。仏頂面でも鉄仮面でも何でもきやがれコノヤロー!
スッ
「来い」
「あ、はい」
そんな私の闘志など何処吹く風で、親玉はコツコツと歩き出した。相変わらずマシーンのような奴だ。淡白極まりない背中にソソクサついて行くと、ほどなくして大きな扉の前に辿りついた。ここは……アクロスさん率いる科学班の研究室だ。
ギイッ
「お待ちしておりましたデストロイ様、準備は整っております。さ、アケミ殿も」
「?、はい」
何をするのか分からないけど、班長に促されて薬品棚が並ぶ室内を奥へ奥へと移動する。……ってゆうか凄いなアクロス班長。この前ロイに殺されかけたのに今までと変わらない態度で接することが出来るなんて。私は不死身だからアレだけど、そうじゃなかったら絶対無理だ。
ポチッ
ガガガガッ
「!」
と、心底班長に感心していると、いつの間にか部屋の突き当りに着いていた。そこには赤いボタンがあって、班長がそれを押すと壁がシャッターのように上がり始めた。その向こうには……
「こちらが最新型の宇宙船です」
「(!わあっ)」
「悪くない」
「ありがとうございます」
「(って……あれ?)」
そこには確かにメタリックで最新鋭っぽい銀色の宇宙船らしきものがあった。多分これで目的地に行くんだろう。うん。でもさ、でも……
「あの、他の方々は……」
「?、今回の任務は、デストロイ様とアケミ殿の二人だけでは……」
「え」
「そうだ。早く乗れ」
えええええー!?
目の前の乗り物が明らかに小さいからおかしいとは思ったけど、そうゆうこと!?親玉の出張だから、てっきり前みたいに珍獣たちがゾロゾロついてくるんだと思ってた……。マ、マジか。いきなりハードル高いな。いや、でもこれはミラクルチャンスだ。二人きりのこの機会に、ありとあらゆる質問をぶつけよう。
スタスタ……
バタンッ
「ハッチOK、エンジンOK、動作チェックOK……シルバーシャーク号、出発!」
ヴィィィィンッ
「!」
外にいる班長の掛け声で微妙にダサイ名前の船が宙に浮かぶ。おおっ、これはワクワクするぞっ。今までどこに行くにもパァァァっとテレポートしてたけど、こうやって移動するのも赴きがあっていいな。……あ、モグラ・イグアナ星の帰りにも乗ったか。でもあの時はバタバタしてて楽しめる余裕なかったからな、いま考えるとチョット勿体ないことしたな。
5分後。
ゴォォォォ
……
石やら塵やらが浮かぶ宇宙空間をひたすら進んで行く。ちなみに、このシャーク号は自動運転らしい。なので乗っていれば勝手に034に到着してくれるそうだ。
「……」
「……」
さて、まだ目的地には着いていないけれど私のミッションは既に始まっている。この、隣に座る難関度エベレスト級の青年と交流を図るのだ。
「いやあ、やっぱり宇宙って広いですね。デストロイ様はお気に入りの星とかあるんですか?」
「そこの書類をよこせ」
完全スルーか。まあでも私の振り方も今イチだったな。これまでの様子を見てるとロイは無駄な会話は好まないって感じだ。人となりが分かるのって仕事の話よりもどうでもいい話だと思うんだけど、本人が話してくれないんじゃ仕方ない。ここは柔軟に作戦を変更しなければ……
「こちらですね?……あっ、ホチキスとかでとめましょうか?バラバラだと読みにく」
バッ
「……」
「(くっ!)」
無言で奪われた。ロイは私から奪取した書類を右手に持つと、青い瞳を紙面に落として黙々とそれらを読み始めた。
「デストロイ様、何かお手伝いしましょ……」
「黙れ」
「はい」
有無を言わさぬ低音が私の言葉をぶった切る。しょうがない、一旦引こう。初っ端から機嫌を損ねてもアレだし、きっとまだ時間はあるはずだ。
ゴォォォ……
「……」
「……」
自分の世界に没入するロイから顔を背けて、私は宇宙を流れていく星たちをぼんやり眺めることにした。
三時間後。
ピギュァァァァ
アギャァァァァ
「……」
シャーク号が降下を始めてプシュゥと止まったので、着いたのかな?と思ってハッチを開けると――そこは控えめにいってもジャングルだった。
「降りろ」
「あ、はい」
スタンッ
「奥地にある遺跡に向かう。俺の言う通りに前を歩け」
「え?」
「楯になれと言っている」
「!!」
楯条約きたー!
そうか、その為に不死身の私を連れて来たのか。まあそうゆう感じで約束したからいいっちゃいいけど、ホント人権というものを遠慮なく踏み潰してくるなコイツは。あ、でも待って。私を楯にするってことは、それくらい危険な場所に行くってことだよね?私は再生可能だけど、ロイはこれでも生身の人間(宇宙人)だ。いくら強くたってその命は一回きり。なら、
「あの、私一人で行きましょうか?メモすれば道分かると思いますし」
「……俺でなければ中に入れない」
「あ、なるほど」
そうゆうことね。
「進め。突き当たったら左だ」
「はい」
ザッ、ザッ、ザッ
慎ましくいってジャングルなこの森は草も木も普段私が目にしているものの何倍も大きかった。まるで自分が小人になったんじゃないかと錯覚するくらいだ。そして後ろから飛んでくるロイの指示で前に進めば進むほど、それらはどんどん深くなっていった。
「ゴルァァァァッ!」
「!」
歩き始めて一時間くらい経ったころ、突然目の前に熊とゴリラを合体させたようなビックな動物が現れた。え、え、どうしよ
グシャッ
あ、いま私一回死んだ。
むくっ
「デストロイ様、お下がりください!ここは私めにお任せをっ……あ」
「……」
生き返って振り向くと、ロイは既に離れた所に立っていた。……ま、いいけどさ。いいけどさ!
パチンパチンッ
ドォォォン
私はもはや自分のものにしつつある指パッチン攻撃をして、熊ゴリラの足元をちょちょいと爆発させた。すると彼(彼女?)はコルァァァ!と可哀そうな声をあげて、脱兎のごとく逃げていった。
「デストロイ様、敵は去りました。さあ!参りましょ……」
「右だ」
「あ、はい」
褒めもせず、台詞も最後まで言わせてくれないドライな親玉に心の中で舌打ちをしながら足を進める。その後も規格外動物たちが何度も行く手を阻み、その度に私は死んだり死ななかったりしながら、見事にロイの楯になった(と自負している)。しだいに辺りは暗くなり、やがて完全に夜になった。いつまで進み続けるんだと不安になったころ、ようやく彼の口から静止の言葉が出た。
……ザッ
「日が昇るまでここで待つ」
「!、はい。……え、ってゆうか、え、ここで?もしかして、野宿するんですか?」
「何が言いたい」
「いやっ、私はいいですけど、デストロイ様ともあろう御方がこんな所でいいんですか?」
「……」
「あ、別にバカにしてるんじゃないですからね。……なんかすいません」
眉間の皺がどんどん濃くなっているので、とりあえず謝っておこう。
「どうぞお休みになってください。変な動物が出てこないかちゃんと見張ってるんで」
「寝ろ」
「へ?」
「貴様たちは寝なければ活動できない」
「え?」
うん?あれ、いま何の話してるんだっけ?ロイは一切私を見ない。褐色の横顔をこちらに向けて、夜の闇を見つめている。
「……あの、もしかして、デストロイ様って寝ないんですか?」
「必要ない」
……必要ないってどうゆう意味だ?寝なくても平気なのか、寝たくないのか……どっちなの?
「あの、ちょっとでも睡眠とった方がいいんじゃないですか?寝なくてもいけるのかもしれませんけど、横になった方が身体にもいいかと」
「黙れ」
「……」
ちぇっ、それ言われたら何も言えないじゃん。ズルイぞちくしょう。もういいや、寝よう、命令だしね。朝も早かったしずっとサバイバルしてたから体は超絶疲れている。まあ、それこそ私は不死身だから寝なくても何とかなるとは思うけど。
「…………zz、……」
あ、瞼落ちてきた。これはすぐに夢の中だな……
「……zz……zz……」
「……」
……
眠りにおちる刹那、ロイの青い瞳がこちらを向いたのは……たぶん気のせいだ。
翌朝。
チチチッ……
チュンチュンッ
「さあ参りましょうデストロイ様!右ですか左ですか!?」
「……左だ」
「アイアイサ!」
ズンッ、ズンッ
健康優良女子の私は一晩寝たらすっかり元気だ。自分たちを取り巻くこのジュ〇シックパークにだいぶ慣れたこともあり、昨日より確実に広い歩幅で奥へ奥へと足を進めた。
ロイは相変わらず不機嫌な声で背後から道案内の指示を飛ばしてくる。ずっとこんな調子だから、もしかしたら機嫌が悪いとかじゃなくてこれが素なのかもしれない。いや分かんないけど。とりあえず深く気にすることは一旦やめて、今は己のテンションをガンガン上げておくことにした。
「だいぶ奥まできましたね~、結構ハイペースで歩いてますけど、デストロイ様大丈夫です?どこかでお休みになられます?」
「黙って進め」
「ハイ!」
またしても会話禁止が発令されてしまった。くそっ、これ何とか回避できないかな?まあ喋ってザシュられたとしてもそんなに支障ないけど楯条約破棄されたら厄介だもんな。まずは大人しく言う事を聞いて任務を成功させた方がいい。……あ、ってゆうか今更だけど、これって何の任務?遺跡に行くって言ってたけど……
「右だ」
「ハイ」
聞かない方がいいか。喋ったらキレられそうだし、万が一答えてくれたとしても貴様が知る必要はない、で終わりそうだ。
……ザッ
とかなんとか考えていたら、遂にその遺跡に辿りついた。
「(おおーっ!)」
サワァァァッ
……
それは深い森の中に隠れるようにあった。太古の昔に作られたような石で出来た宮殿……あちこちに這いまわる蔦や苔が長い歴史を物語っている。そして少し左に視線をずらすと、何かを塞ぐような感じでドドンと大きな岩が鎮座していた。その表面には文字なのか記号なのかよく分からない細かいものが刻まれている。
サクッ、サクッ……サクッ
ロイは私の後ろを離れると、岩の前でピタリと足を止めた。
スッ
「ルーテ・ラトバリチ・ウルシ・アリアロシ・バリ・ネトリーレ……」
「!」
彼は褐色の指で岩肌に触れると、低い声で天空の城すれすれの呪文を唱え出した。……え、なになに?なにが起こるの?ロボットが動き出して、ラ〇ュタの場所とか分かっちゃう!?
「滲み出す混乱の紋章、不遜なる狂気の蓋、湧き上がり・否定し・痺れ・煌めき眠りを妨げる……」
「……」
あれ、日本語になった。ってゆうかこれBLE〇CHじゃない?〇染隊長のアレじゃない??
ぐらっ……
「!(え)」
「……イクスペクト・パトローナム、エィンガーディアム・リビオーサ、ラーモス、エクスペリアーメス……」
今度はハ〇ポタすれすれの呪文を……って違う違うそこじゃない。今、この人グラッってしなかった?一瞬体傾かなかった?
「イバダ ケダブラ、カルーシオ、インペリウ……」
「……」
涼しい顔で許されざる呪文に突入したロイ。一見なんでもないような気がするけど、心なしか息が上がってて、しんどそうな気がする。これ、大丈夫なの?
ふらっ……
「!、デストロイ様!」
ガシッ
「!!(うわっ)」
「……」
腕の中に倒れてきた体はビックリするくらい火照っていた。背中も首筋も、汗でびっしょり濡れてる……熱?ロイ、体調悪かったの?一体いつから……
「……離せ」
「いや……」
バッ
「レディクラス、ステューピヒァイ、ペトリフィカシ・トタルス、フィネストレ……」
「……」
彼は私の手を払いのけると再び自らの両足で立って、呪文を唱え始めた。でも相変わらず息は上がっていて、額には汗が浮かんでいる。
「セクタムセンプレ、ドィフィンド、プラテゴ……」
なんでよ……。なんで誰にも頼らないのよ。こうゆう時こそ私をこき使えばいいじゃん。イライラするって八つ当たりしたり、椅子になれって命令したり……何で一人でやってんの?苦しいのに涼しい顔して、近寄るなみたいなオーラ出しちゃって、なんで、なんで、
……すっ
「!、触るな」
「気にしないで続けてください」
「……なに?」
「支えがあった方が楽でしょう?使えるものは使ったほうがいいんじゃないですか」
「……」
「……」
「……オブリビエイタ、レジリミンス、コンホァンド、ルビコーパス……」
なんでこんなに、一生懸命なんだろう。
ギギギッ……
数分後、著作権ギリギリの超長い呪文を唱え終わると大きな岩は横にずれ、その内側を露わにした。そこにはケーキボックスくらいの古めかしい木の箱があり、ロイはそれを私に持たせると、スタスタと来た道を戻り始めた。
ゴォォォォ
謎の箱をゲットした私たちは速やかに宇宙船に乗り込み、帰路についた。本当なら帰り道中に色々聞けたら良かったんだけど、体調悪そうな人にガンガン話しかけるのもアレなので(本人は常にポーカーフェイスだったけど)、結局ほとんど会話することなくアジトの近くまで来てしまった。たぶん、あと数分で到着だ。
……
ロイは私から顔を背けて、ずっと窓の外を見ている。なに考えてんのかな?次の作戦とか外交のことを計算したりして……
ひらっ
「あ、デストロイ様、落ちま……!」
細い指からこぼれた一枚の紙を拾い上げると、そこには見たことの……いや、聞いたことのある文字がズラリと並んでいた。……あの超長い呪文たちだ。もしかして、行く時もこれをずっと暗記してたのかな?
ちらっ……
「!(あっ)」
「……」
怒りを買わないようにそっと様子を窺うと、なんと青い瞳が閉じられていた。……え、うそ、寝てる?半ば信じられない気持ちで耳を澄ます。すると、微かだけど静かな寝息が聞こえた。
……寝ないわけじゃなかったんだ。つまり、あの時は寝ないようにしてたのか。その理由はなんだろう?私が信用できないから?呪文を暗記したかったから?分からない。こいつの思考は本当によく分からない。でも、
「……」
「……」
今、こうして隣で寝てくれていることを嬉しいと感じる自分のことは、なんだかんだでよく分かった。




