横顔
ニ時間後。
「えっと、以上です。なにか質問ありますか?」
「……」
ファミレスのバックヤードで自分の正体をカミングアウトした私は、30分後に例の公園でアタルくんと再び会う約束をした。そして先ほど赤星くんたちと別れた彼が私の元に現れたので、とりあえずコンビニで買った三〇矢サイダーを渡し、ベンチでこれまでの経緯を全て話した。もうホントに全部。あの図書館やゆで卵やエンディングチェンジ的なことまで洗いざらい、ぜーんぶ話した。そして今に至る。
隣のアタルくんは、白い指をコメカミに当ててひどく困惑している様子だ。うん、そりゃパニクるよね。私だって未だに消化しきれてないもん。ツッコミ始めたらキリがないから、もうあんまり考えないけど。
「……その……正直なかなか信じ難いし、全部は理解できてないんですけど……ざっくりまとめると、山本さんは別の次元からきた普通の人間で、この世界の未来を変えるために“神”と名乗る者達に、たまたまデストロイザーにさせられた……ってことですか?」
「!そうっ、そうだよ、さすがだね!!」
「はあ……」
いやあ飲み込みが早いってホントありがたいな!いまだに困っておられるけど。でも、誰かに話すっていいな。ちょっと気持ちが楽になったし、相手に伝えようとすることで自分の頭も整理できた気がする。ま、整ったところでカオスな状況は変わらないけれど。
「……山本さんは、これからどうするつもりなんですか?」
「?なにを」
「この世界をどう変えようと思っているんですか」
「へ?」
アタルくんが緊張した面持ちで私を見つめる。……なぜ?あっ、なんか大それたことでもしてがすと思ってるのかな?
「いや、私は平和に最終回を迎えたいと思ってるよ?だから戦う時も安全第一でやるし、そもそも争い自体起こらないようにしたい」
「……最終回って、いつなんですか」
「えっと、50話くらいって言ってたからあと……」
「それって話数で決まってるんですか?」
「え?」
「あ、いや……なんか今までの話聞いてると、話数じゃなくて“どんな結末を迎えるか”っていうのがゴールなんじゃないかと思って……」
「!」
その発想は無かった……。でも確かに回数は聞いたけど、そこまでいったら終わりとは一言もいわれてないような。ってことはなに?悪役っぽくふるまってるだけじゃこの話は終わらないってこと?時が来れば帰れる方式じゃなくて、私が何か積極的にアクションしないと……
ヴーッ、ヴーッ
「!、電話きた!!」
「え、その神から!?」
「たぶん!とりあえずズピーカーにするわっ」
ピッ
「もしも……」
「「「そうだよー!」」」
「え?」
「そこのグリーンの彼が推測した通り、それなりの結末を迎えなければキミは帰れないのであーる!」
!!、マ、マジかー!
「こほんっ……しかし我々も鬼ではない。なるべく本来の話数に近いところで、まあ妥当だなと思えればそこを最終回にしたいと考えているのだよ」
「あ、じゃあ一生帰れないなんてことは」
「ないない!キミの世界のバランスもあるでごわすからな!モブといえども長期間の不在はさすがに物語に支障をきたすでごわす!」
「(なんかムカツク)」
「しかし面白いことになってきたであーる♪」
「うむ、赤でも青でもなく、緑に正体をバラすとわな!」
「かつてない展開でごわす!」
「「「期待してるよー!」」」
ブツッ
ツー、ツー……
「……」
「……何だか妙にリアルでイラつく奴らでしたね」
「そうなのよ、悔しいけど何処となく神っぽいのよ。あいつらの手のひらで踊らされてる感が否めないってゆうか」
よく漫画とかで“世界はある者たちによって動かされている”的なアレがあるけど、ひょっとしたら卵たちはそんな感じなのかもしれない。腹立つけど。
「……えっと、じゃあやっぱり、それらしい結末が必要ってことですよね?」
「うん、そうみだいだね」
「どうするんですか」
「もちろんハッピーエンドだよね!誰も傷つかず、死人も出ず……」
「それ、難しくないですか」
「え?」
ふいに聞こえた低い声に顔を向けると、硬い表情のアタルくんが地面を見つめていた。……何か、言いにくいことを言おうとしてくれてるのかな。
「……俺は、世の中に敵対している者がいる限り、平和って訪れないと思うんです。一方が完全に降伏するか、いなくならない限り必ず争いが起こる」
「……」
「そうゆうのが嫌で、宇宙警察に入ったんです。警察になれば、どちらかを裁くことが出来る……褒められた考えでないことは分かっています。でも、今の俺にはその方法しか思いつかない。ユウジなんかは、話せば分かり合えるって言うと思うけど俺は違う。分かり合えない相手は、絶対にいると思います」
「……」
高校生らしからぬ確固たる横顔に、胸の奥がギュッと痛んだ。きっとアタルくんは、赤星くんとリュウくんだけじゃなくて、今まで色んな人達の間に立ってきたんだろうな。
「つまり現状に置き換えると、うちの組織とポリスメンズってことだね?」
「……はい」
「確かに、難しい……でもさ、だから私がここに来たと思うんだ」
「え?」
自分の発言に自分でもちょっとびっくりした。でも、そうだ。捕らわれてちゃダメなんだ。歴史とか王道とかテンプレとか、そうゆうのをぶち破って今までになかった結末を迎えるために私は投入されたんだから。
もちろん綺麗事ですませずに、ちゃんと考えなきゃいけない。でもそれは行き止まるためにやるんじゃない。固定概念をとっぱらって、希望に近づくためにするんだ。
「私は、アタルくんも赤星くんもリュウくんもホントに良い奴だと思ってる。だから皆に楽しい毎日を送って欲しい。だけどうちの親玉……ロイも、無下には出来ない。そりゃ失敗した部下を簡単に殺そうとするイカれた奴だけど、でもそれは多分そうやって生まれたからそうなっちゃってるだけで、だからなんか、私たちの道徳心的なものだけでジャッジしちゃうのは違う気がするんだ」
「……」
「分かり合うのは難しい、ってゆうかアタルくんの言う通り、ずっと分かり合えないかもしれない。でも、だからダメなんじゃなくて、じゃあどうすればいいかってことを私は考えていきたい」
「……」
「それでさ、それで思ったんだけど……なんか趣味とか見つけられないかな?」
「へ?」
真剣だったアタルくんの目がキョトンと丸くなる。あ、主語が抜けたから?いや、あまりに陳腐なワードを出したからか。でもしょうがない、だって今思い浮かんだ希望はコレなんだもの。
「ほらっ、あいつ、“星を滅ぼすために生まれてきた”って言ってたから、なんか替わりになる物ないかなって!インプットされちゃってるから中々難しいとは思うけど、その目的を越えられる魅力的な何かがあれば、もしかしたら変わるかなって」
「……例えば?」
「えー……う、宇宙旅行とか、なんかの研究に打ち込むとか……?」
「……」
「すいません、わからないです」
そうだ。今まで何度かロイの調査を試みたけど、けっきょく毎回なんらかの壁にぶつかって、ほとんど謎のままだ。まったく、この数話分なにやってたんだよ自分。
「……まあ、探ってみる価値はあるかもしれませんね」
「え?」
「その人のこと」
「!」
ま、まさかアタルくんが前向きにとらえてくれるとは!小学生もびっくりのグダグダのプレゼンだったのに……。と驚きを一切隠さずに整った顔を凝視していると、イケメンはプッと噴き出した。
「最初は意味不明でしたけど、そうゆうことなら……。俺も相手を傷付けずにすむなら、それが一番いいですし」
「(あっ)」
そっか……そうだよね。ポリスメンズだって戦いたくて変身してるわけじゃないんだ。誰も傷付いて欲しくないから、自ら体を張って必死に皆のことを守ってるんだ。
「やる……。何とかやってみる」
「あ、でも」
「?」
「“無理はしないで”下さいね」
ニコッ
ずきゅーーーん!!
なんだそれー!私が退勤時に言ったことを敢えて引用し爽やかに微笑むなんてそんな神業っ、オバハン爆発してしまうがな!!
「……ヨ、ヨーシッ!こうなったら楯条約利用して、とことん接近してくるわっ」
「?、“楯条約”って何ですか?」
動揺を掻き消そうと、ちょっとテンション高めに言ったら、すかさずアタルくんが小首を傾げた。あ、これはまだ伝えてなかったっけ?
「ほら、わたし不死身って言ったでしょ?その特性を活かして親玉に危険が迫ったら楯になるって契約したの。あいつは他人に興味ゼロだけど、メリットがあれば受け入れるからさ。ロイの安全は保障されるし、私は近くで観察できるし、まさにウィンウィンな条約なのよ!」
「……」
「(あれ?)」
「山本さんは、」
「うん?」
「……いえ。確かに、それだったら彼に働きかける機会は増えそうですね」
「でしょ!なる早でコミュニケーションとってくるわ」
「よろしくお願いします」
「おうよっ」
「あの山本さん、もし差し支えなければ、連絡先教えてもらってもいいですか?」
「!もちろん大丈夫だよ、LINEでいい?」
「はい」
スッ、スッ……ピコピコッ
あっ、ヱヴァ〇ゲリヲンのスタンプきた。
「ありがとうございます。俺も、ちょっと動いてみます。何かあったら連絡するので、山本さんも連絡ください」
「!、うん、ありがとう」
「物語の結末に関することじゃなくても、何でも気軽に言ってください。……“この世界”では、俺のほうが先輩なんで」
ふっ……
!おふっ……爽やかスマイルの次は癒しの微笑みかい……。もうなんなのこのコ、スーパーか。スーパーグリーンか。ああ、でも有難いなぁ。ここまでずっとバタバタしてたから全然気付かなかったけど、よくよく考えれば私って超ロンリープレイヤーだよね。いや、赤星くんという心の師匠はいたけど……全部は話せなかったしね。
「ありがとう……。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ニコリと笑ったアタルくんに再び密かにトキメキながら、無駄に大きく手を振って私は公園を後にした。




