それは将来の話
ニグム様の異母妹であったラフィーフのために、研究中の祝石を全種類提供して夏季休暇を終えてフラーシュ王国を去った。
一か月後――
「ラフィーフから手紙が来たよ」
「本当ですか!? いかがでしたか!?」
「まだ読んでいない。一緒に読もう」
「はい!」
サロンではなく放課後、二人きりになれるカフェに向かった。
コキアとハゼランを後ろに控えさせ、ニグム様はアリヌスを背後に……なのでまあ、実際には二人きりというわけではないけれど……。
「はい、これ」
「ありがとうございます!」
ニグム様が差し出してくれた手紙をありがたく受け取り、開く。
ラフィーフ王女からのお手紙には無事に成人の儀を乗り越えることができた、という報告と私への感謝の言葉、賞賛の言葉で埋め尽くされていた。
私の研究が私と同じくアレルギーで苦しんでいる誰かの助けになったことが、本当に嬉しい。
ニコニコと手紙を読んでいると、ニグム様のにっこりとした顔を視界の端に捉えて急に恥ずかしくなった。
「なんですか?」
「いいや、別に。可愛い顔をして読んでいるな、と思っただけだ」
「そ、そういうことは思っていても言わなくていいんです」
もおおお、この人は~!
恥ずかしいことをさらりとおっしゃる~~~!
それに、最近気がついたのだけれどたった一年で背が伸びたし顔つきも一気に大人びた気がする。
出会った頃の幼さが少しずつなくなり、色香のようなものが増した。
恐ろしいことに、これでまだ十七歳になったばかり。
来年には十八歳。卒業。
卒業したら、結婚……。
「結婚式の話なのだが」
「ひゅわ……! は、はい、なんでしょうか?」
「中央部ではウェディングドレスとタキシードで、幻魔神殿で愛を誓い合うとか」
「あ、は、はい。そうですね。でも、フラーシュ王国は王都の外の別荘から花嫁の姿が見えない神輿で王宮へパレードを行うのですよね?」
「ああ。王太子妃と王妃として嫁ぐ花嫁は国民に顔を見せる神輿の上だ。神殿ではなく守護獣フラーシュへお披露目をしたあと、夫と花嫁が同じ神輿に乗って新居に入り、一ヵ月間二人で蜜月を過ごす」
「………………」
それはもう、私はわかりやすく顔を背けたと思う。
いやー、国によって文化が違うとはいえ、一ヵ月間引きこもって二人で過ごすなんて……とんでもない風習よね。
恥ずかしくて顔を合わせられない。
そんな私の様子にニグム様が甘く微笑む。
「君の花粉症の症状が祝石で問題ないのであれば、俺は花真王国で結婚式を行ってもいいと思っている。もちろん、フラーシュ王国でも結婚式はしなければいけないと思うけれど……」
「え!? 私の故郷で、ですか!?」
「ああ。君は故郷をとても愛しているのに、体質的に国に帰れなかったのだろう? 祝石で問題なく過ごせるのであれば、君の祖国でも結婚式を行えればいいと思う。君の家族も国民も、君の花嫁姿を見たいだろうし――俺も君の花嫁姿をできるうる限り何度でも見たい」
「な……な……ッ!?」
こ、この人なんてことをシレっと……!?
でも、提案自体はものすごく嬉しくて、うっかり泣きそうになってしまった。
私の気持ちを本当に思い遣ってくれて、私の故郷や家族への気持ちも汲んでくれる。
こんなに優しい人が、私を選んでくれているというのが改めて現実味がないというか……本当に私なんかでいいのだろうか?
結婚後も私の研究室を新居の中に作ってくれるというし……っていうか、新居って。
ええ、まあ、王族は結婚する時に新居と別荘をそれぞれ造るというのは本当に驚いた。
それが王族が結婚する時の条件の一つ。
平民や貴族も結婚したら新居を用意するものなんだって。
それが男の甲斐性であり、男尊女卑が進んだあの国で開催される男の見栄の張り合い――というやつらしい。
王族ならそのくらいはしなければ、他の男に馬鹿にされる。
よくわからないけれど、ニグム様も「一国の王女である君を娶るのだから」とおっしゃるし。
「では、結婚式の日程は卒業後先に花真王国に滞在し、結婚式を行ってからフラーシュ王国での結婚披露宴とお披露目、という流れでいいか? そのつもりで予定と予算を組むぞ?」
「う……は、はい。わかりました」
「フラーシュ王国の招待客は俺の方で決めるとして――花真王国での結婚式の招待客は君の方で決めてもらってもいいか? 同じ人間を両方の結婚式に招待する必要はないだろうけれど、ユーフィア姫は君の結婚式には全部出たがりそうだから要相談しておいてほしい」
「あ、ああ……」
ほんの一年半で、ニグム様はユーフィアの性格をよくよくご理解なさって……。
「なにか結婚式でやりたい演出などあるか? この花は花粉症の原因になりそうだから使いたくない、とか、アレルギーが出そうだからこの食材は使いたくない、とか……フィエラ?」
「あ……いえ、あの……ほ、本当に……ニグム様はなにからなにまで私を最優先してくださるな、と……」
結婚式の話をどんどん進めていくニグム様。
私はこの人と、あと一年と数ヵ月後に結婚するのだ、と……じわじわと実感していく。
不安は少なく、でも、やっぱり変な感じがして……。
「当然だろう。俺は君を愛しているのだから」
「……ッ」
微笑んで、そうさらりと言う。
ああ、もう……私はこの先、この人に勝てる日はくるのだろうか?
私も、少しくらいこの人になにか返せたらいいのに――
『フィエラシーラ姫はニグムのことどう思ってるん?』
「おい、フラーシュ」
「もちろん、お慕いしておりますよ」
「ッッッ!? ふ、不意打ちはズルいぞ」
終
どうも、古森です。
『転生姫は国外に嫁ぎたい〜だって花の国は花粉症には厳しすぎるのよ〜』を最後まで閲覧いただきありがとうございます~!
タイトル先行で書いてみましたが、結婚式まで書く予定だったんですけどダルくなりそうだったのでここで完結にいたしました。
まあ今のところコンテストとかに出す予定もないしええやろ……。
もしコンテストに出す時はきっと十万文字以上とかそういう条件の時に加筆すれば、うん。
こんなタイトルなんですけど古森、花粉症じゃないんですよね。
花粉症の人の様子を見聞きして、想像で書いてます。
なんか間違ってたらすまない……。
そんな感じで改めまして『転生姫は国外に嫁ぎたい〜だって花の国は花粉症には厳しすぎるのよ〜』最後まで閲覧ありがとうございました!
古森でした。