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プロローグ



 目が痛痒い。体がだるい。鼻水が止まらない。肌が痒い。目玉を取り外して丸洗いしたい。

 憎い。憎い。憎い……!

 花粉が! 憎い!

 この世の花粉、全部滅びろ!

 ああ……こんな都会でも花粉がこんなにまとわりつく。

 国民がこんなに苦しんでいるんだから、最低限杉の木だけでも切り倒しなさいよ!

 せめてこの時期だけでも、リモートワークを許してよ!

 

「はあ……はあ……」

 

 マスクの中は大惨事。

 もはや大洪水の災害真っ只中。

 体は絶不調で、気怠さから意識もそぞろ。

 駅のホームまで来たけどもう帰りたい。

 今から休みの連絡入れようかな?

 今日は熱も出てるっぽいんだよね……。

 

「う……あ……!」

 

 たまたま、一番前に並んでいたからだろうか。

 電車がホームに入ります、という放送が遠くで聞こえて溜息を吐いた時、意識が朦朧としてきた。

 まずい、と思った時にはもう体が修正不可能なレベルで傾く。

 眩しい。目が開けてられない。

 

 ――グチャ

 

 落ちていく意識の中で理解した。

 私は花粉症が原因で電車に激突して死んだ。

 小学生の頃から重い花粉症で、薬も市販のものから病院まで試してそれでもダメだった。

 私の人生、花粉症でぐちゃぐちゃにされたのについに命まで……。

 ひどい。

 ひどいよ。

 私がなにしたっていうの?

 神様、どうか次に生まれる時は、花粉症とは無縁の世界で健康で花粉耐性最強の体にしてください。

 二度と花粉症に悩まされないような、そんな環境と体にしてよ。

 お願い……お願い!

 

「おぎゃー!」

「おおおお! 生まれた! 生まれましたぞ! ご長女様です、王妃様!」

 

 は? お、王妃様? なに? なんなの? 今どうなっているのー!?

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 フィエラシーラ・花真(かしん)

 それが私の、今世の名前。

 花の王国、花真(かしん)王国の第一王女。

 前世花粉症のせいで死亡し、花粉症が憎くてたまらない。

 だというのに、私の生まれた国は――花の王国。

 

「ぶえーーーっくしょんッ!! ぶえっくしゅん! えっくし! はっくしゅ!! ぶえっくしゅーーー!!」

「ああ、姫様……お可哀想に……」

「本当に、どうしたらいいのかしら……」

 

 春の花粉症は杉、ヒノキ。

 夏の花粉症は稲。

 秋の花粉症はブタクサ、ヨモギ。

 冬の花粉症は杉。

 猫・犬アレルギーも発症。

 侍女のコキア、ハゼランが頬に手を添えて、顔を見合わせる。

 どんなに部屋から出ず、掃除も一日に何度もしてもらっても鼻はいつでもずびずび。

 涙も止まらないので水分補給のために水を何度も呑む。

 産まれて六年間、ずーーーっと、こう!

 転生しても花粉症の微熱で第一王女としての教育もまともに受けられない。

 

「フィエラ様、国王陛下が面会できないかといらしておられるのですが」

「ふ、え……? お、お父様……?」

 

 いつの間にか部屋を出ていたハゼランが私のベッドに戻ってくる。

 顔面を最低限整えて、隣室で待っていたお父様のところに向かう。

 でも、すぐに鼻水が垂れてくる。

 そんな私の顔にすぐに一瞬嬉しそうにしていた父は、すぐにしおしお……と眉尻を下げて悲しそうにしてしまう。

 

「ああ、フィエラ……こんなに小さいのに起きてきてくれてありがとう。許されればパパが寝室に行ったのに」

「だ、だめでしゅ。乙女の部屋にこないで!」

「そ、そうか」

 

 ベッドは私の鼻水と涙と汗でぐしょぐしょなのよ。

 そんな寝室に国で一番偉いお父様を招くなんて冗談じゃないわよ!

 ふくれっ面の私の機嫌を取ろうと、しゃがんで目線を合わせて頭を撫でるお父様。

 そして、急に真顔になる。

 

「パパ、考えたんだがフィエラはこの国ではない国で生きた方がいいんじゃないかと思ったんだ。”花粉症”というのだろう?」

「は、はい……え?」

「パパは花粉症というものがよくわからないが、フィエラがそんな様子なのを見ているのは、パパもママもつらいんだフィエラは自分の体について色々自分なりに調べていたんだろう? 本当なら親であるパパがやらなければいけないことだったのに、フィエラは本当にすごいね」

「あ……」

 

 この国に花粉症やアレルギーの概念がなかった。

 だから私は前世の記憶を紙に書き止め、なんとか自分なりに治療ができないものかと調べていたのだ。

 どうやらその資料を侍女のコキア、ハゼランが薬師に手渡して相談していてくれたみたい。

 あと、その資料を私が自分で”調べた”と思われてたのか……あながち間違ではない、のかなぁ?

 私の資料を見たお父様は、私のアレルギーがこの国にいては治まらない――と知ったのだという。

 待ってほしい。

 なんでシレっと国王陛下のところまで私のよれた文字の資料がいってるの!?

 うおおお! なに勝手なことをしてるんだぁーー――!?

 

「それでね、フィエラが望むなら隣国の大国サービールの王都に屋敷を買って、そこで住んだらいいんじゃないかな、と思っているんだ。十二歳になればあの国の国立学園初等部に留学生として通うことができる。そこで婚約者を探して、この国ではない国に嫁に行けば……」

 

 お父様はそこまで言うと急にボロボロと泣き始めて私はギョッとした。

 いや、私だけじゃない。

 使用人や従者たちや騎士たちも目を見開いてギョッとしている。

 

「うわああああああああん! やっぱりフィエラが他の国に嫁ぐのはヤダアアアアアアアア!」

「お、お父様、気が早いです」

「でもでもだってぇぇぇ……!パパ、全然フィエラに父親らしいことしてあげていないぃぃ……!まだ六つのフィエラに外国で生きろなんて、い、い、い、言いたくないぃぃい!!」

「ッ……」

 

 お父様の言っていることを理解して、目を見開く。

 あ、そうか。

 この国を出て他国で生きるって、お父様やお母様がいるこの国に――私、帰ってこれないんだ。

 離れて暮らすしかないんだ。

 この国にいると私はずっと憎い花粉症でまともな生活が送れない。

 だから――

 

「お父様……」

 

 びゃ、と一瞬涙が溢れる。

 お母様は今、私の二人目の弟を妊娠中。

 二人目の弟にも、会えないかもしれない。

 花粉症によるものじゃ、ない。

 

「う、うっ、うううう……!!」

「フィエラ……!」

 

 この国から出る。

 両親にも、もう数年に一度会えるかどうか――

 お父様がボロボロに泣きながら私の体を抱き締める。

 苦しい。

 でも、私、この国にいたら、私……!

 

「わた、わたし……こ、このくに、に、お、おとうさま、おかあさまたちと……はなれだぐ……ないぃぃい!!」

「うん、うん……!」


 花粉症嫌い嫌い、大嫌い。

 また私の人生をめちゃくちゃにしやがった。

 いつか必ずお前をやっつける薬を開発してやるんだ。

 そして、またこの国に帰ってこれるように……。




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― 新着の感想 ―
[一言] めちゃめちゃ同感です。 花粉の時期は、できることなら外国で暮らしたいと常に思っています。 オールシーズン花粉は厳しいですね。 他国でも家族のいる国寄りのギリギリ他国の被害がない場所に別荘を作…
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