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Faster than light  作者: オロチ丸
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反撃開始

pixivの方にも同じ内容で掲載しています。

https://www.pixiv.net/novel/series/9872020

1.  

2228年6月6日。ステーション・ワンの作戦室にはエランを中隊長とするローグ中隊のほかに、旧航路開発部のパイロットたちが集められていた。


「諸君、ついにこの日が来た。我々はエイリアンに対し、反撃に出る。」


レノックスが堂々と宣言する。


「本日をもって諸君らは第501大隊として編成される。早速だが、シールド貫通弾を用いた敵艦隊への攻撃を決行する。」


部屋の中がにわかにざわつく。今までは訓練だったが、ついに実戦に入る。彼らは高揚感を感じると同時に、自分が戦争に加担するという不安も抱いていた。


「本日の作戦は、ローグ中隊とセイバー中隊によって行う。また今回はセンチネルおよびシールド貫通弾の試験も兼ねているため、不測の事態が起きた際はすぐに作戦を中止する。何か質問はあるか?」


この時手を挙げるものはいなかった。皆興奮状態で、専門的知識を確かめるどころではなかったのだ。


「よろしい、では作戦を開始する。」


標準時間8時、ローグ中隊とセイバー中隊がステーション・ワンを発進した。偵察部隊からの情報で敵艦隊までの道中に障害物がないことが判明したため、直接ワープ航法で接近することになった。


エラン「ローグリーダーより各機、戦術リンク接続。」


エランの指示で、ローグ中隊の全機が電子的にリンクする。これによって各機の位置を相互に把握できる上、レーダーなどの効果も相乗的に上昇する。


エラン「全機、ワープ!」


ローグ中隊の5機がワープに突入する。ステーションの窓からはローグ中隊が虚空に消えたように見えた。セイバー中隊もこれに続いてワープした。

2.  

エランがワープから離脱すると、眼前には敵艦隊が見えた。着弾観測に任務で敵艦隊には何度も近づいていたが、今までは遠巻きに眺めるだけだった。だが今は、やつらに真正面から向かっている。興奮と不安が入り混じる中、エラン達は必死で変態を維持していた。


「ついにこの日が来たか……」

「何よあんた、ビビってんの?」

「ちげえよ。ただ俺は、恐怖してるんだ。」

「それって何か違うの?」

「お前らうるせえよ! 気が散るだろ!」

「グエン先輩、不安なのわかりますよ〜。」

「ちげえよ!」

「各機スタンバイ!」


敵艦隊との交戦距離に入った。敵艦隊との距離は5000mに縮まっていたが、相変わらず攻撃はなかった。エラン達はまず、標的を定めることにした。


「俺とデビッド先輩、シャーロット先輩で行きます。目標は、一番突出している300m級駆逐艦にします。シールド周波数解析開始!」


センチネルは原型機であるボイジャーから多くの要素を受け継いでいた。その一方で多くの科学機器が取り外されたが、カメラやレーダーは残された。また対艦攻撃をするためのレーダーセンサーや、シールド周波数を解析するためのセンサーが追加された。なおシリウス防衛軍ではエイリアン艦隊について、300m級を駆逐艦、400m級を巡洋艦、500m級を戦艦と区別した。


「周波数解析完了。弾頭同調開始。」


センチネルに懸下されたシールド貫通弾が一瞬青白い光を纏った。弾頭の表面にシールドが張られた証拠だ。エランとデビッド、シャーロットは標的にした敵艦に向けて急降下する。そして敵艦との距離が500mに迫ったところで、彼らは弾頭を切り離した。弾頭はロケットブースターで加速し、先端に装備されたセンサーに誘導によって目標まで飛んで行く。シールド貫通弾はこの戦い以降、貫通魚雷と呼ばれるようになった。

敵艦に突き刺さった弾頭が爆発し、ローグ中隊の眼下で恒星のように光った。弾頭には物質・反物質反応式爆破装置が採用され、21世紀の核兵器の500倍以上の威力を実現していた。


ジェシカ「わあっ、すごい光ですね〜。」

ミッチェル「なんつー威力だよ……」

「次は俺と、ジェシカ、グエン先輩で行きます! 目標、400m級巡洋艦! 攻撃態勢!」

「「了解!」」


エランの合図でデビッドとシャーロットが離れ、ジェシカとミッチェルが後ろにつく。彼らの次の目標は一回り以上大きな巡洋艦になった。


「やってやろうじゃねえか!」

「ごめんなさいね〜」


エラン、ジェシカ、ミッチェルは同時に魚雷を放った。この弾頭もすべて命中し、巡洋艦にも有効だと実証された。

その後、セイバー中隊も合流して敵艦隊への攻撃を続行した。この日だけでも彼らは10隻近くの敵艦を沈めることに成功した。


3.  

「諸君! 我々の英雄に拍手を!」


レノックスの声が格納庫に響きわたる。それに従って士官や整備兵、そして501の隊員たちが拍手する。歓声を上げるものや口笛を吹くものも多く、ローグ中隊とセイバー中隊のメンバーは格納庫にいた全員から歓迎された。一回の作戦で40隻の敵艦撃沈という成果は、この戦争が始まって以来最高のものだった。  


「今回の作戦によって、センチネルと貫通弾の有効性が実証された! ここから我々人類の反撃が始まるのだ!」

「さっさとくたばりやがれ、エイリアン!」

「派手にかましてくださいよ! ジャラス中隊長!」


士官や整備兵からも声が上がる。しかし当のエランは、まだ勝利の実感もないまま、周りに合わせて笑顔を作るしかなかった。

    


エラン達が大戦果をあげてから2週間が経った。エラン達をはじめとした爆撃部隊はすでに100隻以上の敵艦を沈めていた。一方敵艦隊は小惑星帯に逃げ込むような動きを見せており、幕僚本部はミサイル攻撃やセンチネルの襲撃を警戒しての行動だろうと分析していた。


シャーロット「しっかし張り合いないわねー。このままじゃ、敵さん全部沈めちゃうわよ?」

ジェシカ「抵抗ないところに魚雷撃ち込んでるから、悪い気がしてきますよ〜。」

デビッド「このまま勝てるといいだけどな。マーシャルじゃセンチネルの新規製造も急ピッチで進んでるらしい。なんでも艦隊再建より優先されてって話だぜ?」


ローグ中隊はこの日、割り当てられた部屋で待機していた。レノックスによってローテーションが組まれており、ローグ中隊は午後の攻撃を担当する。


「んで、今をときめく爆撃チームの中隊長様が、なんでそんな辛気臭い顔してんだよ。」


ミッチェルが、うつむき気味に座っていたエランに話しかけた。


「えっ、俺そんな顔してましたか……?」

「ああ、分かりやすすぎる位にな。」

「エラン、お前どうかしたのか?」

「いえ、まだ、戦争をしてるって実感が湧かなくて。」

「あ? 何言ってんだお前?」

「まだはっきりと敵のことはわからないけど、もし人間と同じような生命体だとしたら、故郷があって、家族がいて……それを奪ってるって気が、急にしてきて。」

「エラン先輩……」

「はっ、なんだそりゃ。いいかエラン、私に言わせればそんなもんはな……」

「みんな! ちょっと大変!」


ついさっき部屋をでたシャーロットがそう言いながら部屋に入ってきた。どうも様子がおかしい。


「シャーロット先輩、どうしたんですか?」

「私もよくわかんないんだけど、ハボック中隊が撃墜されたって!」


全員が呆気にとられた。今まで敵はセンチネルに対しては一切の攻撃を加えてこなかった。それがなぜ今になって?



「カトウ軍曹、さっそくだが悪いが事の顛末を話してくれ。」

「は、はい……」


カトウはハボック中隊唯一の生き残りだった。なんとかステーション・ワンに帰還した彼は、レノックスの執務室で詰問されていた。


「貴様らハボック中隊の任務は、小惑星帯に逃げ込んだ敵艦隊に対する攻撃だった。2週間前のローグ中隊とセイバー中隊の快挙以来、変わらない任務内容だ。まずここまでに相違はあるか?」

「いえっ、ありません。」

「そう、貴様らの任務は今まで通りだった。であるにも関わらず、ハボック中隊は貴様以外戦死。これはどういうことだ。」

「それは、敵の反撃にあったからです。」

「もっと詳細に報告しろ、軍曹。」


「最初は比較的小さな砲で撃ってきました。撃ってきたのは300m級ばかりで、複数の駆逐艦が1隻の巡洋艦や戦艦を囲むように配置されていました。」

「よろしい。その調子で続けてくれ。」

「はい。避けられないほどの弾幕ではありませんでしたが、小惑星が周りにありましたし、自分たちは密集して飛行しました。そして編隊が最も小さくまとまったときに、大型艦も含めて集中砲火を受けたんです。」

「つまり敵が対センチネル戦術を生み出した、ということか。」

「その状況で隊長から撤退命令が出たので、自分はそこから必死に離脱しました。」

「そして貴様だけが生き残ったというのだな。わかった軍曹、下がってくれ。」


レノックスは報告を書面にして幕僚本部に送信した後、カトウ軍曹を偵察隊に異動させる手続きをとった。そしてすぐに、マクガイア将軍に通信を入れた。


「将軍。突然のご連絡、申し訳ありません。」

「構わん大佐。それよりも報告を頼む。」

「はい、敵が早くも爆撃戦術が開発した可能性が極めて高いかと。」

「うむ、報告書にはすでに目を通している。敵が主力艦の主砲よりも小口径のビーム砲で爆撃隊を撃墜したそうだな。貴官はこれをどう見る?」

「まず第一に、敵が我々の戦術に対する対抗策を確立したものと思われます。小惑星帯に逃げ込んだのも、爆撃機の高速飛行を困難にするためかと。また、敵のシステムがアップデートされた可能性もあります。」

「どういうことだ、大佐。」

「今まで敵の反撃がなかった原因として、我々は敵に機銃などの対小型宇宙艇装備がないためと考えていましたが、そもそも敵には亜光速攻撃であるビーム砲があります。これを用いればワープ状態でもない限り爆撃機を迎撃できたはずです。ようやくそれを実施してきたということは、敵がこの2週間で小型機を狙えるようにシステム面の改造を施したためと愚考します。」

「なるほどな……では大佐、敵への新たな対抗戦術を策定しろ。すべて貴官に一任する。」

「了解しました。将軍閣下。」


レノックスが敬礼すると、通信が終了した。


「老人め……厄介ごとは全て私に押し付けるつもりか。」


レノックスは執務室で、だれにも聞かれたくない本心を吐露した。しかし彼はすぐにデスクに向かい、たった今命じられた仕事にとりかかろうとしていた。


4.  

(みな)、よく集まってくれた。早速だが本題に入ろう。」


ハボック中隊の壊滅から一夜が明け、501大隊の面々は作戦室に集められていた。二週間前にこの部屋に集められてから、彼らは何度もこの部屋に足を踏み入れている。しかしこの日は、陰鬱な雰囲気が立ち込めていた。


「すでに各々が知るところだと思うが、敵が我々への対抗戦術を開発し、それによってハボック中隊が壊滅した。」


ある者はどよめき、ある者はため息をついた。


「だが我々が行動を止めるわけにはいかない。今まで以上の訓練と多角化された戦術を用いて……」


レノックスがここまで口にしたところで、ステーション内に警報が鳴り響いた。レノックスはすぐにステーションの司令室に回線を繋いだ。


「指令、何事ですか!?」

「先ほど、エイリアン艦隊から大出力のビームが発射された! ビームはステーションを逸れたが、マーシャルの地表に直撃しすでに大きな被害を出している!」

「なんですって!? 小惑星帯からここまで最大で10光年もあるのに!」

「監視衛星からの映像がある。それをそちらのモニターに表示する!」


作戦室前面のモニターにエイリアン艦隊の映像が映し出される。大小さまざまな艦艇が、同時に一点にビームを照射し、エネルギーを集積している。最後に500m級戦艦群がビームを発射すると、集積された全てのエネルギーは眩い光を放ちながら、極太の閃光として発射された。これがエイリアン艦隊が持つ、最も強力な遠距離攻撃手段だった。予想もしなかった光景に、レノックスも501大隊も、ほかの誰も声を出すことができなかった。


マクガイア「レノックス大佐! 聞こえているか!?」


真っ先に我に返ったのは、突然上司の声を聴いたレノックスだった。


「マクガイア将軍!? はっ! 聞こえております!」

「今しがたマーシャルに直撃したビームのことは把握しているな!?」

「もちろんであります!」

「今、敵のビームが落着した地区では大気が燃え、地殻へのダメージも確認されている! よって、貴官に緊急命令を出す。 ただちに第501大隊を発進させ、敵の超遠距離攻撃を無力化しろ! こちらの分析が正しければ、500m級戦艦を全て沈めればあの攻撃はできないはずだ!」

「承知しました! 総員、これより作戦ブリーフィングを行う!」


レノックスはそういうと、ここまでの戦果が最も多いサンダー中隊と次点のセイバー中隊、そして残りの中隊から中隊長たちを選抜して臨時結成したキング中隊で攻撃にあたると発表した。


エラン「俺たちが、選ばれちまった……」

デビッド「責任重大、だな。」

シャーロット「あんなの次撃たれたらやばいもんね。このステーションに当たったらひとたまりもないし。」


サンダー中隊の面々が話していると、セイバー中隊のスコット隊長が近づいてきた。


「ジャラス、二週間前と同じ組み合わせだな。今回も頼むぞ。」

「ライアンは落ち着いてるなぁ。そうだな、よろしく頼むよ。」

「何言ってんだ、俺たちがやらなきゃ負けちまう。そうだろう?」

「それもそうだな……」


エランが顔を上げると、頭を抱えているミッチェルが目に入った。隣のジェシカは明らかに取り乱している。何事かと思ったエランがふと周りを見渡すと、作戦室のあちこちで同じ光景が見られた。ただ事ではないと察したエランはミッチェルとジェシカに近づいた。


「グエン先輩、大丈夫ですか? ジェシカ、何事だ?」

「あ、エラン先輩……それが、さっき入ってきた続報だと、ビームが直撃したのが、グエン先輩の地元だったみたいで……」


呆気に取られたエランは、口に出す言葉を思いつかなかった。ミッチェルの故郷、エル・テソロはマーシャルの原生林が残る連邦有数の観光地だった。エランにとっても何度も家族と共に訪れた美しい場所が今では大気ごと燃えている。マクガイアやレノックスの勢いに乗せられて忘れかけていた恐怖や喪失感が501大隊のメンバーたちの心中に急に湧き出てきた。


「えっと、グエン先輩、その……」

「いいよエラン、私なら大丈夫だ。さっさと格納庫に行くぞ。」

「でも……」

「大丈夫だっていってるだろ!?」    


怒鳴りながら立ち上がったミッチェルをすぐ隣に立っていたジェシカが抱きしめた。エランは出撃前にレノックスと話すことにした。幸い、彼は作戦室を出たばかりだった。


「レノックス大佐、少しよろしいでしょうか。」

「ジャラス中隊長か。どうした、なにか問題か?」

「はい大佐。今回の任務で、グエンおよびキムの両名を外す許可をください。欠員に関しては、他中隊からの補充を願います。」

「グエン少尉とキム准尉をか?その二人は君の中隊でも特に相性のいい二人だろう。彼女らを外すという上申は非合理的ではないかね。」

「グエン少尉は先ほどのビーム攻撃の被害を受けた地区出身の人間で、故郷のことを耳にしたせいで混乱しています。現状では任務遂行は困難です。」

「まずグエン少尉の事情は理解した。だが貴官がキム准尉まで外したがるのはどういう訳だ?彼女も大隊屈指のパイロットだぞ。」


「彼女はグエン少尉と親しいため、一緒に基地に残したいと考えています。グエン少尉のメンタルケアのためです。」

「許可できないな。さきほどの攻撃で多くの犠牲が出たのは私も理解している。だが兵士の故郷が戦火に見舞われるというのは戦争の中で起こりえることだ。両名の基地待機は許可できない。」

「しかし!」

「ジャラス中尉、私の判断はすでに決している。これは命令だ。」

「いいよエラン、私は大丈夫だ。」


作戦室からミッチェルが出てきた。先ほどとは打って変わって落ち着いた雰囲気だ。


「レノックス大佐、小官は任務遂行になんの問題もありません。ご安心ください。」

「グエン先輩!」

「エラン、ミッチェルはもう大丈夫だ。」

「そうよーエラン君、私たちみんなでミッチェルちゃんの故郷の敵討ちしちゃいましょ!」

「デビッド先輩、シャルロット先輩……」

「エラン先輩。グエン先輩も、いま必死に頑張ってるんです。だから、今は信じてあげてください。」

「ジェシカ……わかった。大佐、失礼いたしました。ローグ中隊は出撃準備に入ります。」 

「よろしい、諸君らの戦果に期待している。」 

「イエッサー!」


ローグ中隊は全員でレノックスに敬礼をした。そしてすぐに直ると、全員で足踏みをそろえて格納庫に向かった。                                            


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