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Faster than light  作者: オロチ丸
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反撃準備

pixivの方にも同じ内容で掲載しています。

https://www.pixiv.net/novel/series/9872020

1.  

「諸君、今日はよく集まってくれた。」


艦隊が壊滅した直後、マクガイアは連邦有数の科学者たちを統合幕僚本部に招集した。


「さっそくだが、これを見てほしい。」


マクガイアがそういうと、会議室の壁にホロ映像が投影された。そこにはエイリアン艦を体当たりで沈めるグルーウォームとその時のスキャンデータが映し出されていた。


ローガン「将軍、これは一体?」

「先の艦隊戦における、護衛艦グルーウォームの華々しい最期だ。だが諸君に注目してほしいのはその雄姿ではない。映像のとおり、グルーウォームは敵のシールドをすり抜け敵船体に接触している。従来の攻撃方法、即ちシールドを貫通する、もしくは連続した攻撃によって敵シールドシステムに負荷をかけオーバーロードさせる。この二つが効かない以上、グルーウォームに起きた現象を解明し攻撃に転用する必要がある。」

科学者「なるほど、その原理解析を我々にしろと仰るんですね?」

「その通りだ。我々の生存は、諸君の頭脳にかかっている。期待しているぞ。」



ローガンは統合幕僚本部を後にして繁華街に向かった。自動運転車に揺られる15分の間、彼はさきほど命じられた仕事のことは考えなかった。繁華街につくと、彼は行きつけのレストランに入った。


「おっ、来たなローガン。」

「久しぶりだな、エラン。」


大学以来の友人である彼らだが、互いに多忙であったため、実に三か月ぶりの再開となった。


「航路局員は戦時公務員徴用されたんだって?大変だな。」

「ほんとだよ。今のところ命の危険がないって言ってもな、危険手当ぐらい出してほしいもんだよ。」

「ははは。でもお役所の財布のひもがキツいのは、俺たち公務員が一番よく知ってるだろ。」

「そうはいってもなぁ……」


そういうとエランはエールビールをあおった。まだ席に着いたばかりのローガンは黒ビールを注文した。


「そういうお前こそ今日は軍に呼ばれたんだろ?」

「ああ、統合幕僚本部に呼ばれたよ。なんでもこの戦争の行く末にかかわる話だとよ。」

「へー、科学局が呼ばれたってことは新兵器でも作るのか?」

「まあそんなところだ。といっても、簡単ではなさそうだけどな。」


仕事の話はほどほどに、彼らは酒と食事を進め、学生時代の思い出話や趣味の話、そして女の話に華を咲かせた。日付も変わろうかという頃、彼らは解散しそれぞれの家路についた。



エランとの再会から1週間、ローガンは途方に暮れていた。幕僚本部からの催促が既に30回は来ていたが、彼はすでにメッセージを読むことすらしなくなった。


ローガン「俺の頭に連邦の命運がかかってるなんて言われてもなぁ……こんなに圧迫されるくらいなら、人類社会なんて滅んでしまえってもんだ。」


ローガンは極度のストレスを感じていた。彼の研究室は封鎖され、トイレに行くにも面倒な手続きを強いられていた。軟禁されてから早くも2日、彼は完全に精神をすり減らしていた。その時、彼は遠くから聞こえるサイレンを耳にした。その音の持ち主はローガンの研究室の前を通り過ぎ、再び離れていった。


ローガン「まったく、こんな時に聞くサイレンほど腹が立つものはないな!……待てよ。サイレン、音、周波数……まさか!」


ローガンはコンピュータでシミュレーションを行うと、すぐにマクガイアに連絡した。


2.  

「リード君、敵のシールドを突破する方法が見つかったというのは本当かね?」

「はい将軍、こちらをご覧ください。」


ローガンがそういうと、マクガイア達幕僚の目の前にホログラムが投影された。そこには複雑な数式やシミュレーションの再現モデルが表示されている。


「専門的な話はこの際省かせていただきます。敵のシールドを突破する方法、それはシールドをぶつけることです。」

「なんだと?詳しく説明してくれ、単にぶつかればいいというものではないのだろう?」

「はい。シールドにはそれぞれ固有の周波数があります。私はシールドの周波数に対して、対応する逆位相のエネルギーを投射することでこれを瞬間的に無力化できることを発見しました。」

「なるほど、素晴らしい発見だ。だが実際には、どのように敵のシールドを突破するのだ?」

「艦艇のビーム砲を調整することも可能ですが、ビームの周波数を現場で変更することは現実的ではありません。そこで私は、ビームよりも周波数の調整が容易な、シールドを纏った実弾兵器をご提案いたします。」

「実弾兵器だと?それではビーム以上に射程が短くなる。現実的とはいえんな。」

宇宙軍参謀「将軍、現在実施している一連の無人誘導弾攻撃は一定の成果を上げています。敵が音を上げるまでこれを続けてはいかがでしょうか?」

「うむ。リード君、君の尽力には感謝する。しかし君の案は採用できん。」

「将軍! お待ちください!」


その時、会議室のドアが開き若い将校が駆け込んできた。


「マクガイア将軍、大変です!」


3.  

チェン議長「それでは、これより緊急国防委員会を始めます。」


連邦元老院の会議室に呼ばれたマクガイアは苦虫を?み潰したような表情をしていた。


「テイラー事務次官、改めて今回の事案の説明を。」

「はい。本日統一標準時11時ごろ、エイリアン艦隊に向けて発射された超光速ミサイルが目標を外れ資源小惑星N-3DSに衝突。同小惑星でレアメタル採掘に従事していた約500名全員の死亡が確認されました。」

「ありがとうございます。さて将軍、本件の問題点は明確です。軍が撃ったミサイルが連邦市民の命を奪った。これは大事になりますよ。」


「しかしですな議長。超光速誘導弾は現状我々が採れる、唯一といっていいほどの対抗策ですぞ。これを禁止されれば、まともな抵抗ができなくなる。」

「それは承知しております。ですがこの事件を無視すれば、連邦政府やあなた方軍は市民からの信頼を失うことになります。そのことはご承知でしょう?」

「ううむ……」

「超光速ミサイル等を用いた攻撃に関しては、まもなく大統領から直々の中止が出るでしょう。代替案については、軍の方で検討していただきたい。」



マクガイア「自分勝手な政治家どもめ!勝手を言いよって……」

レノックス「しかし将軍、政府や議会の決定を我々が無視するわけにはいきません。」

「ではなんだ、貴様には妙案でもあるというのか!?」

「恐れながら、一つだけ。リード博士の案を採用するのです。」

「シールドを使った実体弾という話か?しかし、実体弾は射程が短いではないか。」

「射程が短いのであれば、こちらから持っていけばいいのです。」


「どういうことだ。まさか爆撃機でも作れと?」

「仰る通りです、将軍。敵は一人乗りサイズの小型宇宙船に対する攻撃手段を持ち合わせていないものと思われれます。であれば、今が好機かと。」

「貴様は、あの探査機のことをいっているのか?」

「はい将軍。あのボイジャー探査機を改修し、シールド貫通兵器を装備するのです。あの機体であれば、接近し敵のシールド周波数を探ることもできます。」

「なるほど……既存機の改修であれば費用も安く済むし、なによりパイロットの調達が楽だな……よろしい大佐を貴官に特命を任ずる! 爆撃機およびシールド貫通兵器の開発、その試験運用を指揮せよ!」

「はっ!」


こうして超光速戦闘爆撃機計画、ラピッドファイア作戦が始まった。


4.  

ラピッドファイア計画が始動するとすぐに、航路開発部のオフィスは陸軍憲兵隊によって占領された。機体は宇宙軍に接収され、職員の身柄はステーション・ワンに移された。


エラン「一体何がなんなんですか!? いい加減説明してくださいよ!」

兵士「しばらくこの部屋でお待ちください。」

「くそっ、なんなんだよ!」

「まあまあエラン先輩、落ち着いてくださいよ〜。」

「ジェシカは落ち着きすぎだよ。はぁ……」

デビッド「エラン、お前の気持ちはもちろんわかるぜ。だがな、軍の連中はブラスター持ってんだ。いくら抵抗したって無意味だ。」


「手荒な真似をして申し訳ない。私は統合幕僚本部のレノックスだ。階級は大佐、よろしく頼む。」


しばらくすると、レノックスがオフィスに入ってきた。


「あれ、あなたって確か……」

「君はシャンブロの情報を持ち帰ってくれた観測員だったな。その節はありがとう。」

「そんで、大佐さんが私らに何の用だよ。」


ミッチェルが睨みつけながら尋ねる。


「簡潔に説明する。君たちはこれから、正式に軍に編入される。」

「はあ!? ちょっと待て、軍に編入ってどういうことだ!?」

シャーロット「そうよ! それは説明が雑すぎるんじゃないの!?」

「わかった、では順を追って話そう。現在連邦領域を侵犯しているエイリアン艦隊に対抗するため、我が軍は新兵器を開発中だ。しかしこれ単体では効果を発揮しきれないので、諸君らの力を貸してほしいのだ。」

「だから、もっと具体的に、私らに何をさせたいのか言えよ。」

「うむ。その新兵器というのは簡単に言えば爆弾でな。それを運び、敵艦にぶつけてほしいのだ。」


「つまり空爆する、ってことですか?」

「なんだ、エラン。そのクウバクって?」

「地球がまだ統一されていなかった時代、航空機を使って敵に対して爆弾を落としていたんです。航空機っていうのは、今でいうエアシャトルみたいな乗り物です。」

「説明をありがとう、ジャラス君。その通り、君たちに参加してもらうラピッドファイア作戦は、正式名称を超光速戦闘爆撃機計画という。」


その後、レノックスから今後の訓練予定や待遇についての説明があった。この時、編入後の給与について尋ねたのはシャーロットだけだった。


5.  

レノックス「こちらパラディン、これより編隊爆撃訓練を開始する。中隊長、点呼を取れ。」

エラン「りょ、了解!ローグリーダーより各機、機体状態を報告せよ!」

デビッド「ローグ2、グリーン。」

ミッチェル「ローグ3、グリーンだ。」

シャーロット「ローグ4、グリーン。」

ジェシカ「ローグ5、グリーンです〜。」


航路開発部1課の面々がステーション・ワンに移されてから三日が経った。ボイジャーの改装が早くも完了したため、さっそく慣熟訓練が始まっていた。主な改装として、機体下部に武装ラックが追加された。また各所にスラスターが増設され、エンジン出力も3割増となった。改装されたボイジャーはFA-80“センチネル”と呼ばれることになった。

この日エラン達ローグ中隊は小惑星を目標にして、編隊を維持したまま爆撃する訓練を実施していた。


レノックス「ローグ3、速度を出しすぎた!ローグ5、まっすぐ飛べ!」

エラン「そろって飛ぶなんて、今までやったことないのに……!」


エラン達は連邦内でも屈指の小型機パイロットだったが、それでも編隊飛行には苦戦していた。彼らは確かに腕利きだったが、それまで単独での航路探査任務ばかりしていたため他の機体と同調して飛行することに慣れていなかったのだ。


「これで使い物になるのだろうか……」


レノックスは焦りを感じていた。いくらエイリアン艦隊の足が遅いとはいえ、予想ではあと2ヶ月でマーシャルに到達する。航路開発部は1課から9課までの全ての部署が軍に吸収されそのうち旧1課から6課までが戦闘訓練を実施していたが、どの部隊も設定された水準に達していなかった。この作戦の可否は、レノックス個人にとっては軍人としての出世にも影響するものだった。だが幸運の女神とは、いつ訪れるかわからないものだ。


士官「大佐!やっと来ました!」



エラン「ふうー、疲れたぁ……」

デビッド「情けねえなぁエラン、俺が鍛えてやろうか?」

シャーロット「中隊長なんだから、しっかりしてよね。」


訓練を終えたエランが格納庫に帰還すると、そこには見慣れた顔があった。


エラン「ローガン!? なんでここにいるんだ!?」

ローガン「エラン!? お前こそ何でここに……ああそうか! お前、招集されたのか!」


格納庫でエランは旧友であるローガンに出会った。科学局に勤める彼は、今頃マーシャルの研究室にいるべき人物だ。


「そうか……俺のせいでお前まで巻き込んじまったのか。」

「どういうことだ? なんの話だ?」

「お前、爆撃機のパイロットとして呼ばれたんだろ?」

「ああ、そうだけど……なんで科学局員のお前がそんなことわかるんだ?」

「正直に言うよ。お前が戦闘機に乗せて運ぶ爆弾ってのは、俺が開発したんだ。」


「なんだって!? じゃあ、お前がエイリアンのシールドを破る方法を見つけたのか?」

「その通りだ。すまない、俺のせいでお前を戦争に巻き込んじまって……」

「いやいや、なんでお前が謝るんだよ! 悪いのは全部エイリアンだろ!」

「エラン……」

「俺はディアナで、あいつらが何をしたか見た。同じことをマーシャルにさせてたまるかって思ってる。それに、戦争なんか続いたら地球に行くのが後回しになっちまうだろ? お前の新兵器を使って、俺がさっさとケリをつけてやる。」

「それは頼もしい限りだな、ジャラス中尉。」

「あ、大佐。」

「ご歓談中のところ申し訳ありません、リード博士。ですが、さっそく弾頭の最終調整をお願いします。」


この時、ローガンは完成したばかりのシールド貫通弾をステーション・ワンに運んできたところだった。そしてここに、人類の反撃の火ぶたが切って落とされようとしていた。


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