艦隊決戦
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1.
防衛艦隊旗艦、USSタイタン。このブリッジで、ハリソン提督は参謀たちと対策を協議していた。
ハリソン「さて、将軍には見栄を張ったものの、どうするかな。諸君、なにかいい案はあるか?」
タイタン艦長「敵の亜光速性能がこちらと同等だと仮定すると、あと3日で惑星マーシャルに到達しますね。超光速技術を使われれば当然もっと早いです。」
参謀長「観測機が持ち帰ったスキャンデータによると、敵のビーム兵器およびシールドはどちらも我々のものより数段高性能ですね。これでは正面からの撃ち合いは難しいかと。」
ハリソン「なるほどな。ところで、参謀本部からの資料にもあったが、観測機ってなんのことだ?無人探査機でも飛ばしたのか?」
参謀長「いえ、シャンブロ星系外縁部を調査中だった宇宙航路局の探査機に、敵情視察をさせたとのことです。」
ハリソン「そんな無謀なことをする奴がいたのか。まあいい、本題に戻ろう。何か妙案がある奴はいるか?」
作戦部長「こちらの方が船体が小さいとのことですから、それを逆手にとって機動戦に持ち込めませんか?」
ハリソン「それはいいが、あちらさんもビーム兵器を持っているんだ。単に高速で近づくだけでは的になるだろう。」
タイタン艦長「では、接近する前にかく乱が必要ですね。」
参謀長「それなら、軌道上に放棄された人工衛星を使うのはいかがですか?」
ハリソン「参謀長、説明してくれ。」
参謀長「はい提督。まず現在使用されていない人工衛星にワープドライブを装備し、一斉に敵艦隊に向けて射出します。それらが衝突するタイミングで、我々が直上から接近し、敵を攻撃します。」
ハリソン「なるほど、攻撃を兼ねた陽動で本隊から注意をそらすということか。よし、それで行こう。」
一同「イエッサー」
彼らは惑星マーシャルの衛星軌道上に放棄されている無数の人工衛星を利用することにした。本作戦はスターダスト作戦と命名され、西暦2228年5月27日6時に決行された。
ハリソン「スターダスト作戦、発令!作戦第一段階開始!」
オペレーター「了解!無人突撃隊、エンジン点火!」
レーダー手「無人突撃隊、光速を突破!敵艦隊に接近中です!」
ハリソン「よし、我々も行くぞ!」
タイタン艦長「メインエンジン点火! 座標計算、開始!」
通信手「全艦異常無し!」
ハリソン「艦隊連動ワープ!」
操舵手「ワープ!」
ハリソンは戦術リンクを使って全艦の航法コンピュータを連動させ、すべての艦を同時にワープ航法に突入させた。艦橋の外に広がる星々が引き伸ばされて、次第に線になっていく。
ハリソン「状況報告!」
レーダー手「無人突撃隊、まもなく接触します!」
ハリソン「よし、我々もワープから出るぞ!」
操舵手「ワープアウト!」
ワープ速度から通常速度に戻ると、艦艇が次々と飛びだしてくる。ハリソン達はエイリアン艦隊の真上に出ることに成功した。眼下では超光速の人工衛星群がエイリアン艦隊にぶつかり、眩い光を放っている。だが命中したのはごく一部で、ほとんどはエイリアン艦隊をすり抜けてしまったようだ。
ハリソン「構わん、艦隊急降下!」
タイタン艦長「操舵手! 急降下だ!」
操舵手「ヨーソロー!」
ハリソンの指示に合わせて、艦隊は急速に体勢を変え、真下に針路をとった。といっても、宇宙で上とか下とかの概念を語るのは難しいのだが。防衛艦隊はそのままエイリアン艦隊に突撃する。
ハリソン「実体弾攻撃始め! 射程に入ったら主砲も使え!」
タイタン艦長「誘導弾攻撃始め!」
砲撃手「うちーかたー、始め!」
艦隊が一斉にミサイルを発射した。その光景は見方によっては、一斉に打ちあがる花火のようだった。しかし、ミサイルや魚雷は敵のシールドを突き破ることはできなかった。
ハリソン「敵の被害状況は!?」
オペレーター「誘導弾による被害なし!人工衛星爆弾による攻撃でも、敵に与えた被害は10%未満です!」
ハリソン「なんということだ……主砲打ち方用意!」
ハリソンがそう指示したのと同時に敵の艦砲が火を噴いた。ハリソン達の艦隊は未だ主砲の射程圏外なのに、一方的な虐殺が始まったのだ。敵の主砲は射程距離でも勝る上、防衛艦隊のシールドを容易に貫通する。ハリソン指揮下の艦艇は次々と撃ち落されていった。
ハリソン「こんなバカな話があるか! 全艦、回避行動!」
防衛艦隊の被害は止まらなかったが、それでも彼らは止まらなかった。主砲を当てれば勝ち目があると信じて疑わなかったからだ。
砲撃手「全艦、射程に入りました!」
ハリソン「撃てー!」
ハリソンの号令と共に防衛艦隊が砲火を浴びせる。しかしそれでも、敵艦隊のシールドを破ることは叶わなかった。このままでは、艦隊は壊滅するだろう。
ハリソン「将軍にあんな見栄を張っておきながらこのザマとは……各艦へ! 敵艦隊を通り抜けたらそのまま退却だ!」
通信手「タイタンから各艦へ! 提督命令により……」
通信手が艦隊全体へ、ハリソンの指示を伝える。しかし艦隊の損耗率はすでに3割を超えており、勝敗はすでに明らかだった。
護衛艦グローウォームのスターリング艦長は、現在の状況を冷静に見ていた。自軍と敵軍の間には圧倒的な技術格差があり、このままでは有効打はさほど与えられないだろう。しかし軍人として、このまま引き下がる、もしくはただ散るだけでいいのだろうか。
スターリング「こういう時は、故事に習うのが一番だよな。」
そういうとスターリングは艦内放送用のマイクを手に取った。
スターリング「艦長から各員へ。本艦はこれより、敵艦への特攻を仕掛ける。総員離船準備!」
副長「艦長、今なんと!?」
スターリング「命令の通りだ、副長。カミカゼ・アタックってやつだ。知らないか?」
副長「しかし、それでも敵シールドに衝突して終わるだけでは……」
スターリング「それでも構わん。だがこれは俺の自己満足だからな。貴官らは降りろ。」
副長「……できません。私は残りますよ。」
スターリング「なんだと? 馬鹿なことを言うな!」
操舵手「自分も残ります!」
砲撃手「私もです!」
結局、ブリッジクルーは全員が残留を表明した。またその後、スターリングの指示で全クルーに離船意思の調査が実施されたが、すべての部署長から全員残留との答えが返ってきた。
スターリング「よし、ではひと花咲かせるか。操舵手! 戦闘回避パターン、デルタ-4で突進! 砲撃手は好きに撃て! 通信手、旗艦タイタンにつないでくれ。」
ブリッジのメインモニターにハリソン提督の顔が映し出される。
ハリソン「こちらタイタンのハリソンだ、どうしたスターリング?」
スターリング「ハリソン提督、本艦はこれより敵艦に特攻を仕掛けます。戦列を離れること、あなたの命令を無視すること、国家の財産を私の判断で破損させることをお許しください。」
ハリソン「なにを馬鹿なことを!?やめろスターリング!」
スターリング「ははは、その命令だけは聞けませんな。提督、どうか生き延びてください。それでは。」
スターリングはそういうと、一方的に通信を切った。それからのグローウォームは敵の砲火の中をかいくぐり、次第に敵に近づいていった。多少の被弾をしたが、どれも奇跡的に致命傷にはならなかった。そしてついに、グローウォームは敵の眼前にまで迫った。
スターリング「シリウス連邦万歳!人類万歳!」
その直後、グローウォームは「敵のシールドを貫通」し、その身でもってエイリアン艦を沈めた。
ハリソン「くそっ! スターリングの馬鹿者め……オペレーター! どうなった!?」
オペレーター「はい! それが、グローウォームは敵のシールドに阻まれず、敵艦を沈めたようです!」
ハリソン「なんだと!? スキャンデータは保存しているか!?」
オペレーター「はい提督!」
タイタン艦長「提督! まもなく敵艦隊をすり抜けます!」
ハリソン「よし、全艦回頭! マーシャルに撤退する! 我に続け!」
こうして、のちにグローウォームの戦いと呼ばれる戦いは終わった。結果としてシリウス連邦防衛艦隊は壊滅という結果になったが、この戦いから人類の反撃の第一歩が生まれた。
2.
エラン「エラン・ジャラス、ただいま戻りました。」
戦時動員によってエイリアン艦隊偵察任務に就いていたエランは、航路開発部のオフィスに戻ってきた。
ヘニング「おうエラン、戻ったか。」
エラン「ヘニング課長。ありがとうございます、なんとか五体満足ですよ。」
防衛軍艦隊が壊滅した直後、惑星マーシャルには非常態勢が敷かれた。しかし、軍が想定していたような即座の本星侵攻は起こらなかった。なぜならエイリアン艦隊の亜光速航行技術は光速の1%にも満たなかったのだ。加えてエイリアン艦隊は、不可解にも急出現した際の技術を使わなかったので、本星侵攻までに時間がかかるという結論に至った。
ヘニング「それにしても、小型宇宙船乗りに敵の近くまで行ってこいとはなぁ。なんて言ったっけ?お前が任されてる任務、えっと……」
エラン「着弾観測ですよ、課長。」
グローウォームの戦いの後、軍はワープドライブを搭載した大型ミサイルを主体とした遅滞戦術をとった。先の戦いで得られた数少ない戦訓、それは超光速で移動する物体の衝突はいくら強固なシールドを持つエイリアン艦でも防ぎきれないということだった。そこで軍は対小惑星ミサイル、デブリ、果ては小惑星にまでワープドライブを装着し、ひたすらエイリアン艦隊にぶつけ続けていた。また先の戦いではほとんどの人工衛星爆弾(これは後世の歴史書での呼ばれ方である)が命中しなかったことから、軍は公用の小型宇宙船およびそのパイロットを徴用し、着弾観測の任務に就かせていた。これはエランからの報告を受けた軍が、敵に小型機に対する攻撃手段無しと判断したためだった。
ヘニング「俺たちはあくまで地図屋なのになぁ。まったくエイリアンには困ったもんだぜ。」
シャーロット「本当ですよ、お給料は変わらないってのに。」
エランの同僚、シャーロットとデビットがオフィスに帰ってきた。
デビット「中世の地球じゃ、エイリアンは友達って言われてたらしいけどな。」
エラン「古典映画にはエイリアンが侵略してくる話も多いですよ、ウィリアムズ先輩。」
デビッド「なんだ、そうなのか?」
ミッチェル「お前ら、よくムービーなんか見れるよな。私は90分もあれば、VRにダイブする方が好きだぜ。」
ジェシカ「でもグエン先輩だって、何時間もクラシック聞いてるじゃないですか~。」
ミッチェル「音楽はいいんだよ、人類最高の文化だからな。」
オフィスのソファーでくつろいでいたミッチェルとジェシカも会話に混ざってきた。エランの所属する航路開発部は1課から9課まで存在し、それぞれが少数精鋭として働いていた。今では1課から6課までが軍事任務、残りの7課から9課が潜在的航路開発の任務についていた。
デビッド「でもよお、なんで敵さんは俺らが近づいても撃ってこないんだ?」
シャーロット「私たちの機体が小さすぎて狙えないとか?でもあれだけの技術水準でそんなことあるのかしら。」
ヘニング「なんにしてもだ、お前らが無事に戻ってきてくれてよかった!明日に備えて休んでくれ。」
しばらくして、エランはオフィスを後にした。科学局に勤める友人、ローガンと飲みに行くためだ。エランにとって、彼に会うのは約三か月ぶりのことだ。
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ちなみに、タイタンの接頭辞であるUSSは“United States of Sirius”の略です。