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翅を失った蝶は天色の記憶に囚われるのか  作者: ゆうひかんな


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なんのことやらわかりません


「最初、あの計測装置が壊れてるのではと思ってました」

「壊れたもので計測するわけがないだろう? とはいえ、もう一台同じものが出てきたときには驚いたが」


当時の状況を思い出した私が呟くと、アレク様は苦笑いを浮かべた。


装置は高価であり、貴重なものだと聞いている。

それを壊れているのかもしれないからと、別の装置を使ってまで計測をし直すとは思わなかったわ。

まあ、もし結果が本当なら白色を示した人間が国内唯一というから仕方ないことなのだろうけどね。

たとえば家族全員の含有量が多いとされる王家でも金が最高位だというのだから、どれだけ稀なのか察して欲しい。


そして計測結果が確定したあと。

至極満足そうな表情をしたアレク様に、その足で精霊術を教える学校へと送り込まれたわけなのだが……。

内心は、はっきり言ってドン引きだった。


ナニコレ、新手の詐欺?


想定外の出来事が重なり、よからぬ陰謀に巻き込まれた可能性を疑っても無理はないのではなかろうか。

ただ詐欺にしては学費と生活費はアレク様持ちだったし、なんでかお小遣いまでいただけて、想定外の好待遇だったけれど……その代わり、一人になれる自由な時間はほとんどなかった。

平日はひたすら学校に通い座学と実技。

学校が終われば寄り道せず、王都にある辺境伯家の別邸でアレク様と座学の予習復習をした。

基礎学問である文字の綴りと計算は両親が教えてくれたけれど、そのほかは真っ白だったからだ。

そして疲れた体を引きずるように部屋へ戻れば、侍女さんが身の回りの世話をしてくれる上に、部屋の外にも見回りの兵士が常駐している。

休日だってアレク様か護衛の同行がなければ外出できないのだ。

今となっては私の身を守るためと理解できるが、当時は今までの反動で相当不満が溜まっていた。

……だから一度だけ、抜け出して一人で遊びに出かけたことがあったのよね。

精霊術を使えば抜け出すのは余裕だったし、貰ったお小遣いを使って適当に自由を満喫したらひっそりと帰るつもりだったのよ。


ところが、市場で買い食いをしているところを、いい笑顔のアレク様に捕まった。


あのときのアレク様、本当に怖かったわ。

思い出すと、今でも震えるくらいに怖かったの。

ただ、買い食い自体はいい思い出だ。

特に串焼きがおいしかった。

絶妙な塩加減とあふれる肉汁が最高だった。

あっさりと見つかってしまったのは予想を裏切る創造性が足りていなかっただけだろう。

次こそはバレないよう、奇想天外な脱出計画を練らなければ……。


「ね、ハンナ。君の計画はダダ漏れだってことにいい加減気がつこうか?」

「なんのことやらわかりません」


そう、心の中だけでひっそりと計画を立てているのだ、バレるわけがない。

アレク様の言っている計画とやらは別の何かに違いない。


「無駄なことするよね。まあ、いいけど」


呆れた顔をしつつ、アレク様がそれ以上は追求してこなかったので胸を撫で下ろす。

窮屈な王都生活を過ごして二年、ようやく全科目を修了し卒業と同時に帰省した。

ハンナは久しぶりに味わう母の手料理を堪能する。

ああ、やっぱり我が家が一番落ち着く。


「それで、これからハンナはどうなるのでしょうか?」


食卓を囲んでの賑やかな会食。

ある程度食べ終わったところで、母がアレク様に尋ねた。

父も心配していたようで盛んに頷いている。


「以前も話した通り、ハンナは辺境伯領付きの精霊師となる。もちろん無理にではなく、雇用条件を提示した上で本人にも承諾を得ているので、ご安心を。ただ彼女には誘拐等の危険があるから城に住んでもらうことになるだろう。それから二人については彼女の身を脅かすための材料とされる可能性があるので、できれば安全の確保しやすい領内の中心部に移住してもらいたいところなのだが……」


途端に黙り込んだ二人の様子を見て、アレク様は苦笑いを浮かべる。

私も彼も父と母が代々受け継いだこの地を離れるのは嫌がるだろうと予測していたのよね。


「仕方ない。ハンナ、アレをお渡しして?」

「はい、そんな父さんと母さんに私からの贈り物よ」


それぞれに腕輪型の呪具(じゅぐ)を手渡す。

呪具は精霊術における(まじな)いの効果を付与したもの。

魔術のように契約で相手を縛るものではなく、体内に満ちる力を使いながら緩やかに契約者を手助けする(たぐい)ものだ。

呪具というものを初めて見たのだろう、父と母は渡された腕輪を困惑した表情で眺めていた。

定番素材である銀を使い、父のものは少し太めに、母のものは華奢に造られている。


「二人ともに付与された効果はほぼ同じなの。防御結界、攻撃の反転、解毒と魔法抵抗向上。さらに父さんは剛力、母さんには癒やしの効果をオマケに付与してあるわ」


母と同じようなデザインの呪具を手首にはめていたので、それを掲げて彼らにみせる。

剛力は力仕事を補助するもので、癒やしは軽微な体調不良や怪我の回復を手助けするもの。

ただ呪具に施された剛力や癒やしの効果は、日常生活を補助する程度のものにしたから、岩を砕くことも、人を生き返らせることもできない。

……そこまでできてしまうと今度は両親に別の危険が生じてしまうからね。

ちなみに試作品の第一号は、なぜかアレク様の腕に輝いている。

効果は守護だったかな?

不恰好だからとお断りしたのに、熱心におねだりされたので渡した。

いつもつけてくれているけれど、装飾品が欲しいなら私みたいな素人が作った試作品ではなく、装飾品の扱いにも長けた銀精霊師へ依頼すればいいのに。


『君のはじめてだから』って、どういうことだろう?


アレク様は、困惑したような表情の両親に呪具を手首にはめる。

これで仕上げに祝福を施せば、当人が望まない限り外れない。

ああそうか、両親の困惑した表情の原因は装着の仕方がわからなかったということね。

うっかり説明省いて、ごめんなさい。

申し訳ないという表情で謝ると母は首を振り、父は無言で頭を撫でてくれた。

ふふ、うちの両親は優しいな。


「ハンナの作ったこの呪具を装着し、家の周辺に警護する兵士を複数名置く。それを承諾していただけるならば、このままこの場所に住んでもらってかまわない」

「警備なんて、貴重な戦力である兵士の皆様のお手を煩わせるわけには……」

「ああ、兵士達は野営の訓練を兼ねているので放っておいてかまわないよ? 自給自足が原則だし、景色のひとつとでも思ってもらえばいい」

「そこまでしていただいて……よろしいのですか?」


呆然としたような父の言葉にアレク様は苦笑いを浮かべる。


「我が領地は国境に面しているために、大小様々な争いごとなんて日常茶飯事だ。そんな我が領地に稀なる白精霊師が現れたのは幸いなこと。彼女の能力の高さは王都の精霊師お墨付きだし、この地に快く留まってもらえるなら便宜を図るのは当然だ」


アレク様は、にこりと笑う。

ハンナは呆れるよりも感嘆した。

……なんとまあ上手に本当の目的を包み隠すものだわ。

純粋な両親は私が認められたと喜んでいるけれど、彼が口にしたのは表向きの理由に過ぎない。

両親を保護するのと同時に、私が裏切らないための監視も兼ねているのだ。

アレク様を裏切るつもりは元からないし、彼らの安全を保障するものでもあるから反対はしないけれど、それほどに白精霊師が貴重であり、一方で危険とみなされる存在の証でもある。

両親のためにも頑張って仕事しないと。

ハンナは机の下で拳を握りしめた。


「それでは早速城に戻って手配しておこう」


食事が終わったところでアレク様が席を立つ。

ちょっとだけ寂しい気持ちで私も同じように席を立った。

城内に部屋を与えられる私は、これから両親と離れて暮らすことになる。

せっかく戻ってきたのに……。

同じ領内にいるとはいえ、離れて暮らすのは寂しい。

眉を下げて、思わず両親に手を伸ばした。


「まあ、甘えちゃって」


嬉しそうに笑う母と、無言で微笑む父に抱きついた。

二人の全身から私を愛してくれる感情が伝わってくる。

……懐かしい、大地とおひさまの匂いだ。

瞳を閉じた私を父と母が優しく抱き返す。


「仕事、頑張れよ?」

「うん、父さんも無理しないようにね」

「体にだけは気をつけて」

「ありがとう、母さんもね」


柔らかく包み込む、優しい空気。

これこそハンナが失いたくないものだ。

アレク様は私の肩に手を置くと、両親に微笑んだ。


「次期辺境伯の名にかけてハンナの身の安全を保証する。それから彼女には適宜休暇が与えられるから、あなた達に会いにくるだろう。できるだけ希望に沿うようにはするし、必ず無事に帰すと約束しよう」


最後の言葉は私と両親の双方に向けたものだ。

互いに離れがたく思う気持ちを察してくださったのだろう。

アレク様に冷酷な一面があると知りながらも許してしまうのは、領地を発展させようと努力する彼の熱意と、こんなふうに垣間見せる小さな優しさがあるから。


「ありがとうございます。娘をよろしくお願いします」


安堵したような父の言葉に、母も私も一緒になって頭を垂れた。


私はアレク様に促され、馬車へと向かう。

差し出した彼の手を取って馬車に乗り込む。

仕草だけなら、まさに絵に描いたような王子様の姿だ。

それを離れた場所から眺めていた母の瞳がキラキラしていた。

……母よ、あなたの心はいまだに乙女なんだね。

馬車は軽やかな音を立て、再び動き出した。


「母君の手料理、とても美味しいよね。次にここへ来るときは私にも声を掛けてよ」

「雇用主であるという立ち位置を忘れず、節度ある態度で接していただけるならば大歓迎です」

「母君からは紳士だと言われたけれど、もの足りない?」

「むしろ逆ですね。本性を知った今は、いつ母の幻想を打ち砕くかと不安になる未来しか想像できません」

「ふふ、それは残念だ! 大抵の女性は騙されてくれるのだけどね。好ましい君に通じないということは、私もまだまだ修行が足りないようだ」

「冗談ばっかり」


私の頬をなぞるアレク様の手を軽く打ち払う。

不躾に払われたのにも関わらず、彼は楽しそうに笑っていた。


人目のない場所でのアレク様の口調は気安い。

キラキラした見た目と違い、普段の彼は口が悪く、人をからかうのが大好きだ。

それを隠さないということは、彼にとって私は気を使う必要のない相手という証拠でもある。

はっきり言おう。

アレク様はモテるのだ。

国内の高位貴族のお嬢様だけでなく、王女様が望んで降嫁されるという噂もあるくらいだ。

対する私は平民。

彼の台詞を額面通りに受け取ったら、それこそ不敬罪だ。

わかっているからこそ、私はいつもの冗談と受け流す。


「そういう台詞は婚約者候補のお嬢様方に言うべきものでしょう」


向かいに座る私が皮肉を込めて言い返した、そのとき。

御者席から合図の音が聞こえ、馬車が急停車した。

跳ね上がった私の体をアレク様が片腕で引き、抱き寄せる。


「怪我はない?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


私の身を侍女に預けると素早く扉を開け、馬車の外へと飛び出した。

アレク様の纏う空気が一気に変わる。


「どうした!」


鋭く叫ぶと甲冑を身に纏う兵士が真っ直ぐに彼の元へと駆けつける。


「ここから程近い場所に住む領民から通報がありました。上空を飛ぶ不審な人影があるとのことです」

「そう、それで?」

「兵士が矢で射落とそうとしましたが身が軽く躱されてしまいます。速やかな事態の解決が困難と判断し、ご指示を仰ぎたいとのことでした」

「私に応援要請があったわけだね」

「はい。ですがそれだけでなく、もう一つ新たに判明した情報がありまして……」


普段から表情を変えないよう訓練されているはずの兵士が、珍しくとまどうような表情を浮かべた。


「どうやらその者の背には、翼が生えているようなのです。」




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