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翅を失った蝶は天色の記憶に囚われるのか  作者: ゆうひかんな


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ねえ、私の賢者様?


光沢を帯びた黒い髪に、黒曜石のような黒い瞳。

三年ぶりに会った幼馴染みは変わらぬ端正な顔立ちをしている。

だが、その表情には翼人の国では見られなかった陰があった。

現実を突き付けられた、そんな表情だ。


なんとなく理解できる。

だって私も同じだったもの。


翼人の国という狭い場所しか知らなかった私達にとって、変化に富んだ地上世界は眩しい。

それは荒れ狂う風に翻弄されるかのようで、何もせずとも疲れを覚えるほど。


……お互いに頑張ったわね。


同じ地上に降りた者として彼の心境は共感できる。

労るような心持ちで微笑めば、タンガは片手で口元を覆うようにして視線を泳がせた。


警戒しているのかしら?

たしかに彼とは気持ちの良い別れ方をしたとは言えない。

でももうお互い過去のことと、そう思っていたのに。


「久しぶりね、タンガ。元気そうでよかったわ」


ようやく口を開いた私に、彼は表情を曇らせた。

眉根を寄せていて、見方によっては不愉快ともとれるような顔だ。


……そこまで嫌わなくてもいいのに。


突き放した覚えがあるのだから当然の反応ではあるけれど、時は過ぎたと甘く考えていた自分が愚かだった。

そうなると私の手を掴んだ彼の表情や声が熱を帯びていたというのは、アレク様の勘違いね。

幼なじみとしては寂しいけれど、今でも彼は私を嫌っている。


だが彼の言葉は私の予想を大きく覆すものだった。


「今までどこにいたんだ? ずっと探していたのに……」

「え、探していた? なんで?」


いきなり探していたと言われても、探される理由には全く心当たりがなかった。

思い当たる節がなくて首を傾げた私に、タンガはため息をつく。


「自由気ままなところは昔と変わらないな」


そう呟いて、私に触れようと手を伸ばした。

気安いのは幼なじみとしての感覚が残っているから。

彼の手が、当然と言わんばかりに私に触れる。


「やめて、姉さん! 他人の婚約者に手を出させるなんて、ふしだらよ!」

「婚約者以外の女性に許可なく触れようとする行為は野蛮だ。牢で再び頭を冷やすか?」


え、何それ?

話の展開についていけない私を置き去りにして、トウカとアレク様が同時に立ち上がった。

視界を遮るように立ち塞がるトウカの勢いに押され、体勢を崩した私をアレク様が支える。

タンガは慌てて手を引いて、彼のほうへと向き直したトウカに冷ややかな視線を向けた。


「トウカ。さっきから君は俺のことを婚約者と言っているが俺に覚えはない。どういうことだ?」

「ええと、うちの両親とタンガ様のご両親も含めた話し合いでそう決まったのです」


タンガのご両親とトウカの両親との間で婚約が結ばれていたらしい。

それを聞いた途端、タンガは不愉快とばかりに首を振った。


「ならば無効だ。俺は聞いていないし、承諾していない」

「ひどいわ、()()そんなこと言うなんて!」

「今更? そう言われる理由にも全く心当たりがないのだが?」

「まさかタンガ様が私を拒むなんて……きっと姉さんに誑かされたのね⁉︎」


最後は、きっちりと私のせいにする性格も昔から変わっていないのか。

ここまでくると呆れてしまって反論すら面倒と思うくらいだ。

トウカは、ぱっちりとした目元を潤ませ大粒の涙をこぼす。

状況が悪くなると泣いて縋るのが彼女の特技だ。

事情を知らない人が見れば、さぞかし可憐に映るに違いない。

だが、あいにくこの場にいる男性陣は真っ当だった。

知らないうちに結ばれた婚約相手が押し掛けてくるという混沌とした状況を想像したようで、ドン引きしている。

タンガを見るアレク様の視線にも少なくない同情の色が浮かんでいた。


そんな空気を読むことなく、泣きながらトウカはタンガとの婚約に至った経緯を説明する。


要約すれば、家同士が結んだ婚約ということかな?

彼が賢者となるべく旅に出たあと、トウカは両親と彼の家族や親戚を口説き落として婚約した。

アレク様がいうには、ワムシャリア王国でも貴族社会では家同士の繋がりを強めるため政略結婚というものがあるらしい。

家同士の利益につながるとなれば本人の意思に関係なく婚約が成立するということもあるそうだ。

ただ今回のように本人が不在であることを幸いとばかりに決めてしまうのは政略とは呼べない気がするけれど……。

首を傾げる私にアレク様は苦笑いを浮かべた。


「そもそも政略結婚は互いが政治的な結びつきのためと理解していることが前提だからね」

「どうしてですか?」

「夫婦間に愛はないと割り切らなければ醜聞や刃傷沙汰になるからだよ」


私は愛しているのにどうして、みたいな展開かな?

貴族の場合、政略で結ばれても徐々に愛情が芽生えることもあるし、務めさえ果たせば愛人を囲うことも許される。

ただ、どちらも話し合って事前に合意していることが重要らしい。

トウカの場合、独占欲が強そうだから束縛されること間違いなしだ。

タンガが賢者となれば老若男女問わず話をしなければならないし、相手を制限されたら仕事にならない。

それに翼人同士の場合は恋愛から結婚に発展するパターンが多い。

私の両親は知らないけれど、タンガのご両親はそうだったはず。

家同士の繋がりよりも羽の種類や人柄など、相性を優先するからだ。

トウカの存在はタンガの行動範囲を狭めるものであることに彼の周囲は気がついていないのだろうか?

理想よりも自分達の利益を優先するような人間なら気にしないだろうが……タンガはそういう人間ではない。

実際、彼は深々とため息をついている。


「俺の両親は反対しなかった? 常々、俺が選んでいいと言っていたはずだけど?」

「反対なんてされませんでしたし、むしろ歓迎されましたよ! 姉さんとのことは説得されたから仕方なく許したけれど、タンガ様のご両親は本当のところ嫌だったそうです。それどころか、タンガ様がことあるごとに姉さんを庇うから、嫁に来る女性がいなくなったと諦めて受け入れたそうですよ? なので私が申し入れたら親族含め大喜びされていました! お義父様は『こんな健気な娘さんを放っておくなんて、うちの息子は女を見る目がない』と呻いてましたし、お義母様は『これこそが真実の愛ね!』と言ってました」


タンガの両親を義父母と呼んだトウカは、私に見せつけるかのように胸を張る。

……なんとも一方的な真実の愛だこと。

さすがに可哀想だと、苛立つタンガに同情した。

ちなみに二人の婚約祝いはタンガ不在のまま行われており、三日三晩続く盛大なものだったという。

タンガ、詰んだな。


「俺がいない間に、好き勝手しやがって……」


残念ながら内堀と外堀を一気に埋められたわね。

共同体において婚約は契約と同じ。

契約違反は場合によって死に直結するほど重い罪となる。


つまりタンガが賢者となりたければ、トウカと結婚するしかない。


だからさっきトウカは()()と言ったのか。

彼女はそういう雑事に気の回る性格ではないし、おそらくタンガのご両親がこの状況に追い込んだのだろう。

戻ればタンガが抵抗するとわかっているからこそ、対外的にも逃げられないような状況を作った。

さすがタンガのご両親、彼の性格をよく理解している。

ご夫婦揃って人の良さそうな顔をしていたが、なかなかの策士だ。

トウカもトウカで鷹の羽を持つからと周囲に優遇され、大抵の事は自分の思い通りになってきた。

自分との婚約がタンガ本人に拒否される未来など、微塵も想像していなかったに違いない。

だがタンガからすれば、自身の心意気を穢す行為に思えただろう。

そう、国のために身を尽くす覚悟を決めた賢者に対してあまりにも酷い仕打ちだ。


最初からこんなに溝があって夫婦生活は上手くいくのだろうか?

政略結婚に理解のあるはずのアレク様も微妙な表情をしている。

こんなものは政略とは呼べない。

声にならない彼の心の声が聞こえたような気がした。

だけどトウカは、タンガの沈黙を自分にとって都合の良いものと解釈したらしい。


「ふふ、私の深い愛情に感激して言葉もないようですね! そうです、私がここにいるのは未来の旦那様を迎えにきたからです。だから、ちょっとくらい掟を破ったとしても許してくれますよね?」


あまりにも自分勝手な台詞に、場の空気が凍りつく。

それと同時に、タンガを取り巻く周囲の状況に同情した。

彼の職責と立場を理解しようとしない人間のなんと多いことか。

トウカは嬉しそうにタンガへと近づくと自分の腕を絡める。

そして表情の抜け落ちてしまったタンガに上目遣いで甘く微笑み、恥ずかしそうに頬を染めた。


「ねえ、()()賢者様?」


私は天を仰いだ。

自ら地雷を踏みにいくなんて、馬鹿じゃないの?

あまりにも悪びれないトウカの態度に、とうとうタンガがキレた。


「そうやって君達は俺の大切にしてきたものを悪意なく損なうのだな!」

「タ、タンガ様?」

「破っていいと思えるくらい軽くなってしまったモノを、もう掟とは呼べないというのに!」


絡みついたトウカの腕をタンガは振り払う。

トウカはビクリと肩を震わせた。

タンガは整った顔立ちだけに、怒ると迫力が増すのよ。


「俺は君と結婚する気はない。鷹の羽を持つ者との密接な繋がりは賢者にとって邪魔なだけだ。そんな枷を俺が望むわけがないし、家族や君の望みを叶えるために都合よく賢者としての権利を行使させるつもりなら余計にお断りだ」


私の、だと?

民のために存在する賢者を何だと思っているのか?

タンガは冷たい口調でトウカの言葉を切り捨てた。


「そんなっ!タンガ様が意地悪を言うなんて……地上で辛い思いをされて、性格まで捻くれてしまわれたのですね!」

「捻くれた性格は昔からだ、今に始まったことじゃない」


タンガは私にちらりと視線を投げる。

……この状況で話を振らなくてもいいじゃない。

トウカはそれも不満らしく私を睨みつけた。


喧嘩に巻き込まないでよ、もう。


「誤解しないで。私はタンガが()()()()()()()という事実を知っていて、賢者候補に選ばれるために()()()()()()()()を演じてきたことを知っているというだけよ」


誰も彼もがタンガを甘く見過ぎだ。

彼の家族や周囲にいた者は、タンガの作り上げた外面にまんまと騙されていたのだろう。

だから勝手に婚約を決めても粛々と受け入れると思っていたのだろうが、ただの良い子に賢者が務まると思っているのだろうか?

彼は賢者になるという願いを叶えるため、幼いころからずっと反骨精神を飼い慣らしていただけなのに。

タンガは私を通じて翼人の持つ残酷な一面を誰よりも多く見ている。

警戒して、なるべく軋轢をかわすように立ち回ろうとするのは当然のことじゃない。

本当のところ、彼には翼人に対する信頼よりも不信感のほうが強いのだ。

だから嘘や偽りには人一倍敏感で、丸め込もうとするような狡賢い人間を何よりも嫌う。

そしてそれは昔も今も変わらない。


「だったら俺は国へ戻らないよ。この地上で人々のために尽くすことにする」


翼人には愛想が尽きた。

トウカは未知の言語を聞いた時のように、理解できないという顔をしている。

そんなに不思議な事だろうか?

タンガをよく知っている私からすれば、そちらの方が私には不思議だ。


だって尽力する相手が翼人から地上の人々に代わったというだけのことなのだから。

立場が弱く、虐げられている人はこの世界にも存在する。

それに今までの賢者候補は誰も戻らなかったのだ、彼だって戻らないという可能性は十分に想定されるだろう。

ご両親は欲に目が眩んだのか、良かれと思って余計な手出しをしたのか、そこはわからない。

けれどトウカも、トウカの両親も、タンガの両親も、親族も、お祝いに駆けつけたという者も……。


なぜタンガが必ず戻ると信じているのか?


翼人の国から出てから、彼を取り巻く状況は大きく変わっている。

彼には三年間を地上で暮らしたという実績があった。

つまり翼人の国しか知らないトウカ達と違い、望むのならば、この広大な大陸のどこでも暮らせるのだ。

悪意はなかったとしても彼らがタンガにしたことは実のところ悪手だった。

国を出た賢者候補達は新たな居住地で人間関係を築き、新たな職を得て、……恋をして。

世界を知れば知るほど、若く順応性の高い賢者候補が、古くからの思考に凝り固まったような翼人の国へ望んで戻りたいと思うだろうか?


今の賢者様以降の賢者候補達が誰一人戻らなかった要因は、たぶんここにある。


「でも、それではタンガ様はあれほどなりたいと願っていた賢者になれなくなるのですよ……?」

「かまわない。元々、レンカの虐げられる様子を見て立場の弱い人間のために国を変えたいと望んだ地位だ。君達の都合いいように操られることが目的じゃない」


トウカの顔色が悪くなる。

周囲の者が余計な介入をしたせいで担ぎ上げる神輿そのものを失う羽目になりそうね。

タンガの家族や親族の社会的な地位も変わるだろう。

大きく損なわれることはないが、発言力が低下することは避けられない。


ふと、脳裏にタンガのご両親の顔が浮かぶ。

自慢の息子が帰らないと知れば、彼らはとても悲しむだろう。

タンガの賢者になりたいという願いを知っているからか、私に意地悪をしてきた記憶はない。

なんの利益にもならないのに、時々、余り物を分けてくれる事もあったと思う。

同じ疎まれていても、実害の有無は与える印象が大きく違う。

きっと悪い人達ではないのだろうけどな……浮かない表情をした私に気付いたのか、タンガは微笑んだ。


「両親には、なんらかの手段で連絡をするようにするよ。」

「思っていたことが、顔に出てた?」

「うん。理解してもらえるように話すつもりだけど翼人の国と地上の両方を比較できない人達には、たぶん理解できないと思う」


タンガは少しだけ寂しそうに微笑んだ。

彼の視線や言葉に二人同じ罪を背負ったかのような錯覚を覚える。

夕暮れの中で二人が最後に向かい合った、あのときみたいに……。

ほんのわずかに、胸が騒ぐ。


「どうして姉さんにだけ、そんな顔をするの!」

「当然じゃないか、俺にとって彼女は君よりも価値のある人だから」

「嘘よ! そんなの認めないっ!」


愛らしい外面をかなぐり捨てて、トウカが叫ぶ。

そう、タンガは大切なもの以外を全て平等に扱う。

自分にだけ優しいように見えて、当たり障りなく同じように接しているだけのこと。

彼の大切な人になれなければ決して愛されることはない。

相手が誰だろうと関係なく、彼にとっての大切な人になれなかった時点でトウカが愛されることはないのだ。

昔から残酷な人なんだよ、あなたが婚約者に望んだ男は。


「それに残念だけど、()()()()俺はレンカにしか求婚する気はないよ」


あのさタンガ、私の立ち位置が気を許せる幼馴染みとはいってもね……。

その一言は明らかに余計だ。


バキリ。

後ろでペンが折れる音がする。

目の前に立つ兵士の顔色は真っ青通り越して真っ白で、視線が泳いでいた。


……ああ、振り向きたくない。


溢れ出る闘気。

耐性のないトウカが真っ青な顔で肩を震わせる。

このままだとこの子が気絶するんじゃないかしら……それも面倒よね。

一方、タンガは彼の闘気を受けても、わずかに眉を顰めただけだった。

それに気がついたアレク様は皮肉げに唇を歪めた。


「なるほど、耐性があるということか……ただボサっと生きてきたというわけではないらしい」

「アレク様、少しは自重なさってください」


タンガは賢者候補になれるような人だから、たぶん色々と普通じゃない。

とにかくアレク様をなだめようと彼の胸元を軽く叩く。

アレク様はタンガの視線を受け止めると、彼へ見せつけるように私の耳元に囁いた。


「君は私のものだ、それを忘れないで?」


さきほどの出来事を思い出した私は頬を染めた。

含み笑いとともに、闘気が薄れる。

圧力に耐えかねて座り込んでいたトウカは、我に返ると私を睨みつけた。


「なんで姉さんばっかり……タンガ様は私のものなのよ! それに、アレク様も騙されてはいけません! 姉は無意識に人を狂わせる悪女なんです! 目を覚ましてください!」


本当に私、あなたに何かした?

呆然とする私にアレク様が憐れむような視線を向ける。

正直なところ、ここまで私を悪役にしたがる理由が知りたいわ。

どうせ自分が一番じゃないと気が済まないとか、しょうもない理由なんでしょうけど……。

私は深くため息をついた。


「とにかく落ち着きなさい、トウカ。それにタンガもよ? この面談はアレク様に状況を説明してもらうために設けた場なの。痴話喧嘩は後にしてちょうだい。」

「そんな突き放すような冷たい言い方しないで! 妹の世話を焼くのは姉の務めでしょう⁉︎」

「私のことを家族でははないと言った人が務めを果たせとは、ずいぶんと勝手な事を言うのね? それに国外追放の()()を作り出した貴女が言っていい台詞じゃないわよ?」


トウカが、ぐっと言葉に詰まって黙り込む。

あなたのせいで傷を負い、国外追放になったのを忘れたとは言わせないわ。

睨み返す私の前で、なぜか突然タンガが頭を垂れた。

相手の前で頭を下げるのは謝罪の意を表す仕草。

突然の行動に私は呆気に取られ、自分のために頭を下げたと思ったのかトウカは瞳を輝かせた。


「君の国外追放は鴉の羽を持つ我々が決めたことだ。あのときは、本当にすまなかった」

「……そのことね、それはもういいわよ。どうしようもなかったのでしょうから」


素っ気ない私の反応に、タンガの表情が歪む。

私の処分については賢者候補である彼も検討段階で関わっていたことは容易に想像がつく。

冤罪だということは知っていて、でも国の上層部を納得させるには国外追放しか選択肢がなかった。

それでも今の今まで決定を気に病んでいたのかも知れない。

だけど元々国を出て行く気だったから、それはどうでもいいことだ。


ただ翅を奪われる原因となったトウカの行動に関して、タンガは無関係。

間違いなく彼は知らないのだろう……トウカが私に何をしたのか、を。

私が許せないのは、そちらのほうだ。


頭下げて済むような事じゃないもの。

私がいい笑顔で微笑むと、トウカは若干怯えたような表情を浮かべる。

それでも負けずに言い返すのが彼女の得意技だ。


「本当、昔から性悪だったけど国外に追放されて反省したかと思えば全く変わってないじゃない! 妹に対する気遣いの欠片もなくて、底意地の悪さに磨きが掛かっているって救いようもないわね!」

「話を逸らそうとしないで。私が聞きたいのは貴女が私を()()()まで追い出したあとに、一体何が起きたか、よ。」

「そ、そんなっ、陥れたなんて嘘よ! そうやってまた私を虐めるのね!」

「……あら、忘れたの? この場であのとき何があったかをもう一度説明してあげた方がいいかしら?」


心底面倒になって、わざとらしく肩を震わせたトウカの耳元に私は唇を寄せた。

タンガは訝しげに眉を顰め、事情を知るアレク様は皮肉げに口元を歪める。


「過ぎたことを根に持って……性格悪過ぎでしょうよ!」


勝気なトウカは思わずといった様子で叫んだ。

言われたらすぐに言い返すなんて、ここまでくると肉体に刷り込まれた条件反射なのね。


「私からすれば、あれだけのことをしておいて許されると思っているほうが驚きだわ」

「そんな! 私はただ姉さんによって翼人が狂わされていくのを止めたいだけなの!」


トウカは心底怯えた様子で唇を震わせた。

部屋の中に、またかという空気が流れる。

この子が私を貶める台詞には変化に乏しく具体性がない。


だから何度も言うけど、どうしてそこで私が悪者になるのよ……!





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