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1章-2 愛しのギプソフィラ

「フィラ、愛してるわ」

毎朝の習慣。

私も母にお返しをする。

「かあたん、あいしてる」

母の頬にキスをする。

「その愛らしいピンクの瞳も、その真っ直ぐな真っ赤な髪も、その小鳥が歌うような軽やかな声も、この食べちゃいたいくらいすべすべもちもちなほっぺたも大好きよ」

母が私のほっぺたにキスをする。

朝目が覚めると必ずそこには母の顔があった。

優しいピンクの目が私を見つめてる。

そして、この一連のやりとりがなされる。

家にベッドは一つだけ。

父と母と私の3人で寝てる。

父はそんな私たち二人のやりとりを目を細めて微笑みながら見ていた。

その日、時間がたっぷりあれば私を抱きしめて、「俺も入れてくれ」といい、「愛してる」合戦が始まる。

ただ、父は忙しくて、ベッド脇の机について書類仕事をしてることがほとんどだった。そして、時々は家にもいなかった。

それでも、父が私たち家族のために働いてくれていたことは明白だ。

私は基本花屋の母がいつも一緒にいてくれたけど、時々父が私を冒険者ギルドや簡単なクエストに連れ出してくれた。


「ギプソフィラ。お手伝い頼めるかしら?」

朝食の準備中、3歳の私に必ずそう声をかける。

私はいつも「は〜い!かあたん」と答える。

そして自分の小さな手をじっと見つめて、出来ることの少なさを実感する。

早く大きくなれ。

私は心の中で呟く。

私は朝食をつくる母の近くに駆け寄る。

小さな私が走ってもこの家の床は軋む。

母が振り返る。

「フィラ、走らないで、歩こう。床さんも歩いてって言ってるよー」

私は慌てて走っていた足をとめる。

そして、小さな自分の足をみる。

100センチにも満たない私の歩みは遅い。

自分が小さな子供であることが悔しかった。

体さえ大きくなればなんでもお手伝いできるのに。

私は項垂れて母のところまで行く。

声をかける前に母が私の方に向いた。

私の視線の先に母の靴のつま先が見える。

「フィラ、どうして落ち込んでいるの?間違ってもいいんだよ。失敗してもいいんだよ。大丈夫だから顔をあげて」

私の頭に温かな母の手がのっている。

ゆっくりと頭を撫でられた。

「わたしがもっとおおきかったら、かあたんもとうたんもたくさんたすけられるのに、、、」

私はボソボソと少し泣きそうに呟いた。

母が腰を下ろして私の顔を包む。

母の笑顔が見えた。

「本当にギプソフィラは優しい子ね。大好きよ。私たちのこと助けようとしてくれて、ありがとう。でもね、今でもあなたは私たちを助けてくれてるのよ。フィラ、あなたが側にいてくれるだけで力が湧いてくるの。そして、笑顔になれるの。だから、ギプソフィラ、あなたはここに居てくれるだけで私たちのことを助けてくれているわ」

そう言って私を抱きしめてから、「さあ、ご飯の準備をしましょう」と明るく立ち上がる。

私は母から渡された木製のスプーンを持って机に向かう。椅子によじ登り、机の上にスプーンを並べていく。

私が全て並べ終わったころ。母がスープのお皿を机に並べ始める。

「フィラ、ゲオを呼んできて」

私は言われる前に寝室兼仕事部屋の方に向かい始めていた。

大人の足だとものの数秒のところが私の足だと1分くらいはかかる。私は走らないように隣の部屋に続くドアまで行き、2回ノックした。

「とおたん!ご飯できました」

私は父が出てくるまでそこで待つ。

父は程なくしてドアをあけた。

私たち3人は母が作ったスープと先日買っていたパンを食べる。

食卓は木で出来ている。

実は父の手作りだ。

今座っている椅子も父が作った。

父はなんでも器用にこなす。

万能型冒険者だった。

父も母も学があり、父も母も字が読め書ける。

私は父母の父母、つまりは祖父や祖母に会った事がない。家族3人だけで、時々近所の人や花屋のお客さん冒険者仲間ともちつもたれつで暮らしていた。

何か秘密があるみたいだったけど私には分からなかった。


私は父母との暮らしが好きだ。

そう思えるようになり、私に空いていた空洞がなくなるのを感じた。

もうすぐ4歳になろうとする秋の話だった。


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