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3章-9 勇者塔の自室

私の勇者塔での部屋は3階だった。

3階は女性の部屋らしいけど、今は私しかいない。

リリーパルファが専属メイドとして一緒に引っ越してきたから勇者じゃないけどリリーもこの3階に自室がある。それが妙に嬉しかった。

リリーは決して友人ではない。どちらかと言えば親的な立場な気がするけれど、それでも、血の繋がりもない他人をこれほど信頼できる日が来るとは思わなかった。

リリーは何故か私を崇めてくれている。

そう、「崇めて」いるのだ。

特筆すべきはそれを私が受け入れている事。

以前は人が信じられず、人との距離がつかめないこの私が何故かリリーのことは信じられた。

私がテオドールの挨拶に行っている間にリリーが私の部屋を整えてくれていた。

クラーク領のアイザック邸の自室の様に綺麗でくつろげる空間になっていた。

「リリー、ありがとう」

私が部屋に入り感謝を伝えると、私の顔を見たリリーが満面の笑みで首を横に振った。

「喜んでもらえて本当に嬉しいです。でも、当然のことですから、感謝は必要ないですよ」

「それは無理よ」

私は即答してしまう。

リリーに感謝をするのは当然のことだ。

ザックも私の後ろから私の援護をしてくれる。

「リリーパルファ、主に礼をされたらそれもきちんと受け取るといい。当然のことに感謝したいという人間もいるということだ」

ザックの援護も何かが違っている。

「ザック、リリーがしてくれていることは『当然のこと』ではないと思うんです。私はザックが後ろ盾になってくれていますが、ザックの養子という訳ではありません。つまり、私は平民です。先ほどテオと話をして気付きました。私はこの髪のせいで色々複雑なところがありますが、それでも平民であることには変わりないと思うんです」

私が早口で平民であることを主張するとリリーがプッと噴き出した。

「本当にフィラ様はおかしな人ですね。こんな平民はいないですよ?」

リリーがザックに向かって「そう思いませんか」と同意を求める。

ザックは渋い顔をして「本当にな、よく平民として生きて来れたものだ。誰の目にも止まらず、、、こんなに輝いているのに、、、」

私こそ思わず噴き出した。

ザックが何か変だ。

リリーがうんうんと頷いている。

私は思わず頭を抱えた。

何で、こうなった?

「ザック、私が輝いて見えるの?」

私は恐る恐る尋ねる。

ザックは恥ずかしげもなく答えた。

「俺は君に心を捧げただろう。俺はそれだけ君が輝いて見えたからだ」

リリーしかこの場にいないからなのか、はっきりとした口調で断言された。

私の顔はみるみる赤くなっていく。

顔があつい。

私はザックの顔もリリーの顔も見ることが出来なくなって俯いた。

リリーが私の目の前に膝をついて座ってくれる。

下から顔を覗きこまれた。

「大丈夫ですか?ザック様はそれほどフィラ様を大切に思っておいでだということです。恥ずかしいことではないですよ」

私は頷く。

それでも、ザックをまともに見れない。

チラッとザックをみると、少し肩を落としているように思えた。

「フィラには迷惑だったか?騎士である俺には自然な事なんだが」

私は一生懸命恥ずかしい理由を探して言葉を紡ぐ。

「ザックが嫌なわけでも、迷惑な訳でもなくて、親族以外の男性に好意を示されたのが初めてで、恥ずかしくなったんです。娘のように思って下さっているのでしょうけど、、、それでも、『君が輝いて見えて』と言われてビックリしてしまったんです」

たどたどしくなってしまう言葉。

それでも嫌でこうなっている訳ではないことは伝わったのではないかと思う。

チラッとリリーを見て、チラッとザックを見る。

リリーは愛おしそうに私を見ていて、ザックは複雑な顔をして頭を掻いていた。

ザックのその姿に笑いがこみ上げてくる。

私は肩を揺らして笑った。

「ザックの頭を掻く癖をみると何だか安心します」

私が笑いながら告げると、ザックは今度は両手で頭をガシガシと掻き混ぜる。

私はもっと笑って、リリーもザックも笑顔になる。

勇者塔への引っ越し第1日目はとても穏やかに始まった。



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