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2章-6 ウィルス王国

ザックが騎士団長の仕事のためにクラーク邸を出発してから数日。

私は家庭教師に色々な事を教わっていた。

貴族の立居振る舞いは勿論のこと、知識としてウィルス王国の成り立ちや今の世界情勢について。


まず、このウィルス王国について。

家庭教師は年配の男性だ。

私のために王都から呼び出されたらしい。

彼はティーテクト・アンバー・ジョナスと名乗った。

アンバーは母親の名前でミドルネームにもらったらしい。

ミドルネームは真ん中の名前で自分で変える事も出来るし、無くても良いものだそうだ。

ティーテクトは銀髪を後ろに撫で付け広くない額を出している。中肉中背の体格で眼鏡をかけていそうな雰囲気だ。

私はこちらで未だに眼鏡をかけている人を見たことがないから、目が悪くならないのか、眼鏡がないかのどちらかだろう。

ティーテクトはまず名前の大切さを説いた。

「ウィルス王国において名前は重要な事です。ファミリーネームは氏を表し、先祖に遡ると血の繋がりがあったことが分かります。また、平民にはファミリーネームはございません。貴族であることの誇りでもあるのです。また、ミドルネームは自分でもつけることが出来ますし、父親、母親またはご先祖の名前を尊敬の念をもってつけることがあります。このミドルネームに関しては例外もございます。王族です。王族はミドルネームをご自分でつけることはございません。降下され臣下に下る際にご自分でミドルネームをつけられた元王族の方は数多くいらっしゃましたが、、、ファーストネームはギプソフィラ様もご存知でしょうが、その子自身に贈られる名前です。ギプソフィラ様も素敵なお名前をご両親から頂かれておられますね」

ティーテクトは私の名前を褒めてくれた。

私自身はこの名前の意味を知らない。

「私の名前はティーテクトですが、これは教え導く人という意味で贈られたそうです。両親の思惑の通り私はこのように教え導く仕事をさせて頂いています。ギプソフィラは花の名です。小さな花が一つの株に沢山咲きます。白や薄いピンクが有名でございます。この花は人々を癒す力があります。ギプソフィラ様はきっと人を癒す力がおありなのだと思いますよ」

初めて知った。

ギプソフィラという名の花があることを。

母さんの花屋さんでも見たことがない。

「ギプソフィラという花は珍しい花なのですか?」

「そうですね。我が国においては珍しい花ではございません。しかし、他国においては珍しいでしょう。30年前にわが国で色々な花を品種改良した結果生まれた花ですから」

私の名は母が付けたものだと分かった。


ティーテクトはさらにウィルス王国について話を進める。

彼の声は深みがあり、小さくも大きくもなく聴きやすい。

「400年前に大陸の東にあったナイヤス帝国が魔物に襲われました。その時にナイヤス帝国民を数100名連れて勇者が大陸の西に逃げ、今のウィルス王国を建国されました。当時は今よりも魔物の力が強く人類も魔物の脅威に耐えうる魔法をもっていませんでした。ですので、国は大きくなる前に魔物に攻め込まれ蹂躙され滅ぼされたのです。今この世界で一番古い歴史を持つ国はホー帝国で1000年と言われています。我が国は2番目に古い国で今年建国398年になります。その他にアレキーサ王国にある一つの町が800年続く町だという噂もありますが、、、魔物に襲われず800年続くということ自体が非常に珍しいもので本当かどうかアレキーサ王国に調査依頼を出しているところです」

目をキラキラさせながら魔物に襲われていない町の話をするティーテクト。

彼はハッとしたように私を見て、咳ばらいをした。

「話が脱線してしまいました。ウィルス王国についての話ですね」

「その前の帝国、ナ、、、帝国?この帝国はなくなったのですか?」

「えぇ、ナイヤス帝国は崩壊しました。遷都という形をとっても良かったのかもしれませんが、我がウィルス王国の初代王は新たに国を興されました。ナイヤス帝国は今も跡地が残っています。王都にはナイヤス帝国博物館がございまして、当時の遺産を展示しております。少し落ち着かれたら博物館の方に訪れてみて下さい。跡地もありますが、魔物が多くいる場所ですので、観光をするには適しておりませんから」

ウィルス王国とその前のナイヤス帝国、この世界で一番長い歴史のあるホー帝国と私たち家族が住んでいたもう一つの国、この世界にはどれほどの国が存在するのだろう?

私は今更ながらにティーテクトが地図を広げていない事に気付いた。

社会の授業を受ける時、小学校でも地図を見ながら説明があった。

私はティーテクトをジッと見つめてみる。

ティーテクトは私が何か言いたいことがあることに気付いてくれた。

「何か?」

少し硬い口調だった。

私は声を抑えて小さな声で聴いてみる。

冒険者をしていた父でさえ、そういえば地図を出して見ているところを見たことがないことに気付いたからだ。この世界で地図は貴重品なのだろうか?

「地図はないのでしょうか?」

彼は動きをぴたりと止めた。

数秒が経過した。

「なんのことでしょうか?」

彼は何事もなかったかの様に動き出し、顔色を変えることなく、抑揚のない声で答えた。

私は「地図」という言葉さえも使えないのだと知る。

地図がなくてどのように隣国に赴くのだろうか?

地図がなくてどのようにして誰がどの土地を収めていると知るのだろうか?

ザックならば何か教えてくれるだろうか?

私が一人で色々と考え事をしているとティーテクトが少し大きめの声で場の雰囲気を変えるように声を出す。

「さて、この国の貴族について話をしましょう」

貴族にも階級がある事。

自領をもつ貴族と王都にのみ屋敷をもつ貴族がいる事。

貴族は血の繋がりを大事し、脈々と血を繋いできている事。

貴族は一夫多妻制が用いられている事。

貴族同士の結婚は家の結びつきを意味し、恋だの愛だので結婚を決めることはない事。

全てにおいて、勿論例外は存在するようだけど、これが概ね貴族の常識らしい。

「王族はこの国において絶対的存在です。次いで大きな力を持つ貴族が公爵です。こちらのクラーク様のご実家はこの公爵位を持たれる貴族です。そして次が侯爵で、アイザック様はクラーク公爵の次男様であり、騎士団長という大役を賜った際に同時にアイザック様個人に侯爵位とこちらの領地をも授けられました。これは破格の扱いでございます。勿論、アイザック様の功績が認められてのことですが、、、」

そこで、一旦言葉を切ると続いて伯爵、次に子爵であり、ティーテクトがこの子爵に当たることを説明してくれた。最後が男爵であり、ティーテクトの弟はこの男爵位を賜って今は王城に務めていることを教えてくれる。

彼は貴族である自分に誇りを持っているようだった。

貴族は血であるが、己が血だけでなく、その血に恥じない行いをしてこそ貴族なのだと。

「卑しい血の生まれであったとしてもその行いが貴族然としていれば大丈夫でしょう。なんといってもアイザック・クラーク侯爵が後見者としてお立ちになるのでしょうから。男子は中々卑しい血で貴族になった例はありませんが、女子は貴族の男児に見初められ教育され貴族の一員となったものも少なからずいます。貴女がそのような存在かどうかは存じ上げませんが、それでも教養と立ち居振る舞いは貴女を助ける手立てとなってくれます。しっかりと、学びなさいませ」

私はティーテクトの言葉に頷く。

彼の言葉にはどこか説得力があった。

「卑しい血」と言う言葉を使われているのに貶されている感じもしない。

彼が私を平民の子だと思っているにも関わらず丁寧に関わってくれていたことにほんわかと心が温かくなった。





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