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令嬢に策あり

 アンネマリーの策とは、王国で禁止されたり王子の婚約者が読むにふさわしくない本――いかがわしい本であったり禁書の類いを買いあさることであった。


 この件が露見し、王子の婚約者として思想的に失格だと見なされれば、マティアスとアリーチェに害無く、自身が咎を受けるのみですむ。

 

 アンネマリーは本屋で一生読むつもりもない、縁がないであろう書物を買い漁った。

 禁書の内容は具体的に言うと、異教・異端の聖典や論文、国が認めていない錬金術についての本や、神を侮辱する類いのものなどである。



「読まれないのですか、その本? 」

 

 後日、買い物に付き合ってくれたシルヴィアが、部屋に積まれている本たちに目線を当てながら主に聞いら。なお、彼女はこの本の山がどういうものなのかは知らない。

 

「今は忙しいから後で」


 とは言うが、読む気は全くしない。なぜならば、元より興味がないし買った。という事実だけが必要なのだから。

あとはいかがわしい本を買ったと()()()()()密告をすればいい。


 卒業式に届くように密告の文章を学校と実家に郵便で送り、この手紙が卒業式の日までこの文章が握りつぶされたり、届かなかったりしたらどうしよう。と悶々とした日々をアンネマリーは数日過ごしたが、杞憂であった。

 

 卒業式が終わり、卒業パーティの日、同級生と歓談しているアンネマリーの元に2人の男が話をかけて来た。


 赤毛のジークハルト・クロンベルクと黒毛のレオンハルト・バーデン。ダブルハルトとあだ名される仲良しかつ二人とも優れた武術の使い手だ。


「校長がお呼びです」

 

 レオンハルトが私に声をかける。


「なぜかしら」


 私はとぼけながらワインに口を付ける。


「申し訳ございませんが、校長からは何も」


 ジークハルトが苦笑いをしながら答える。


「わかりました。シルヴィア、少し席を外します」


 かしこまりました、という返事を背に私はダブルハルトと共に校長室へと向かう。


 卒業パーティに使われていた施設から5分ほど歩き、校長室の前までついた。レオンハルトがドアをノックする。


「入りなさい」

「失礼いたします」


 レオンハルトがドアを開け、私が先に入り、後からジークハルトとレオンハルトが入室する。


「げっ! 」


 とアンネマリーがつい口から品の無い言葉が出そうになるほどの衝撃が目の前に()()

 校長の椅子に座っていたのが、いつもの椅子の主――王立学校校長であるエメリッヒ伯でなく、彼女の父であり、王国諸侯に謀反の兆しがないか監視する役を任されているハンス・バッハラント公爵だったからだ。


 だが呼び寄せたのは彼女自身である。彼女が禁書を買っていると密告したのは誰でも無いアンネマリー自身なのだ。しかし、卒業式に学校に直接父親が乗り込んでくるとは思ってもいなかった。


 精々帰宅後に怪文章の事実を問い詰められて、事実だと白状する。というのが彼女のシナリオだったのだが、目論見が潰えてしまった。


 動転している気持ちを表情に出すまいと冷静な表情を必死に作っていると、校長の机の前右側に直立しているエメリッヒが口を開いた。


「アンネマリー殿、実はタレコミがございまして」

「はぁ、タレコミ」


 絶望する気持ちを抑え、アンネマリーは卒業式まで自室で練習した、“驚いて目を開く”演技をしながら復唱する。


「アンネマリー殿が、いかがわしい本を大量に買い、読み耽っているというタレコミがございまして、確認のためにお呼び致したのですが……」


「は、はぁ……」

 次は困惑した演技。眉間に皺を寄せ、目線を下に落とす。父が乗り込んでくるというイレギュラーはあったが我ながら順調だ。いや、順調だった。

 

「部屋を改めたところこういうものが出てきた」

 

「えっ?」


 ハンスの唐突な一言に理解が追いつかずキョトンとしているアンネマリーをよそに、ハンスはエメリッヒに目配せをする。一瞬苦渋した顔をしたエメリッヒが右に一歩後退すると、机に彼女が買い漁った禁書が全部積まれていた。


「――――――――」

 

 アンネマリーは絶句して声が出ない。禁書購入について問い詰められはするだろうと思っていたが、了承も無く公爵令嬢である自分の部屋が改められるとは思いもよらなかったからだ。

 

「この惑星ほしは太陽を中心に回っている、落ちたモノは何に引き寄せられているのか? 、神秘への入門、怪我には馬糞でも塗っておけ、メイドと公爵の身分違いの恋……」


 ハンスが淡々とアンネマリーが買った本のタイトルを読む。読んだことはないが、自身が買った本を暴かれる恥ずかしさで顔が真っ赤になっているアンネマリーを、ハンスは睨み付け、

 

「看破出来ぬ」


 と淡々と叱責した。

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