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第二話:「理由」

「理由」。


それは・・・。











俺は・・・神崎さんに嫌われているんだ。


あの人の迷惑になっちゃいけないと思ってずっと境界線を引いていたんだ。


それに仮にも受験シーズンだったし。


でもやっぱり好みのど真ん中の人を好きにならないはずが無くて。


俺はあの人にどんどん惹きこまれていったんだ。





「嫌われている」というのは本人から聞いたわけではない。


だからいつも綾奈には被害妄想だと馬鹿にされ。


なぜか智也からは激しく共感されていた。


ただ・・・。


メールをしても楽しそうな雰囲気はまるで無い。


向こうからメールが来た事も一度も無い。


こちらからメールを送ってみても返ってくるのは二通に一通。


それに。






嫌がられていたんだ。


俺と同じA高校である事を。





俺が通っていた塾は集団であるが人数は10人いるかいないか。


幸か不幸かその塾のシステムでは成績の良い順に前から座っていくもので。


俺と神埼さんは比較的成績に差が無かったため近くになる事はよくあった。


気軽に話しかけたり、だとかは出来なかったが・・・。




ある日の事だ。


俺が塾が終わった後、友達と軽く話をしていた。


すると隣の席にいた神崎さんとその友達の会話が多少聞こえてしまった。


別に聞き耳を立てていたわけではない。


あの人達は大声で騒いだりするタイプでは無いので小さな声だったが。





「そういえばさ。綾香、A高校受かったら片桐と同じ高校だよね。」


「うん。・・・嫌だなぁ。」




そう。


俺は確かに聞いてしまったんだ。







・・・嫌だなぁ。






この一言を。


俺は正面から一気に刀で切られたような気持ちになった。






やっぱり、嫌われてたんだ・・・。






その時俺はこの事を知ってしまった。


受け入れたくは無い「事実」を・・・。

















そんな事を考えていると急に頭に激痛が走った。



バシッ。



「痛っ!」


我に返ったかのように辺りをキョロキョロとする。




「ねぇ、話聞いてるの?!」




今の痛みは綾奈が読んでいた雑誌の角で俺の頭を強打したからであった。


「悪い・・・。で、何?」


頭をさすりながら不機嫌そうに俺は言った。



「何じゃないわよ、もう。で、その後神崎さんとは何かあったの?」


「まぁまぁ。綾奈ももう少し落ち着いて・・・。」


智也が必死になだめようとする。




「うーん・・。卒アル、一言書いて貰おうと思ったら軽く嫌がられた。」


「えっ! もっとよく聞かせてよ。」


綾奈が興味を示している。


「わかったよ。」










___________________________







そうだ。


俺、また嫌がられてたんだ。


塾のメンバーにもだいぶお世話になったため、皆から一言ずつ貰おうと卒業アルバムを持っていった。


もちろん神崎さんにも書いてもらうために。


気心知れた面子に書いて貰う事は容易かった。


だが神崎さんに頼む事は俺にとっては鬼門である。


なんとも無い相手には気軽に話せる。


が、相手は神崎さんだ。


どうしても目を見てうまく話が出来ない。


ひどい時は敬語になる。





・・・また嫌がられるんだろうな。


そう思いながら勇気を出して言ってみた。










「神崎さん。あの、なんでも良いんで一言・・お願いします。」




___緊張しすぎてまた敬語になっている。


しかも噛みまくってるし。





「え・・・。」




やっぱり。


予想した通り、戸惑ってる。


驚いた様子で隣にいた友達に目配せしている。




「あっ。麻倉あさくらさんもお願いします。」


麻倉というのは神崎さんの友達の事だ。


いつも神崎さんと一緒にいる。


顔は良いのに性格がキツく男嫌いなため綾奈と被る。


正直、俺がこの塾で一番苦手な人だ。


この人と話す時はなぜか必ず敬語になってしまう。


ちなみにこの人にも俺は嫌われているらしい。


でも、皆に書いて貰ってこの人にだけ書いて貰わないってのも悪い。






「私、書く事無いし・・。」


麻倉さんはなんで私が?とでも言いたげな顔をしている。


・・・頼むんじゃなかった。


やっぱりこの人は苦手だ。



「じゃあ先、綾。書いてよ。」


「えっ。私?」



いきなり振られたからかキョトンとしている。


やっぱり可愛い。


って・・今はそんな事言っている場合じゃない。




「あ、じゃ・・「いいよ、じゃあ私書くから。」




言葉を遮られてしまった。


なんとも情けない姿だ。


そんな事を思っているうちに麻倉さんは書き終えていた。



「卒業おめでと。」



一言。


まぁあの人らしい。


別にいいけどさ。




ところで肝心の神崎さんは・・・。








まだ書くのに悩んでいた。


麻倉さんは早くしてよ、と言わんばかりにその様子を黙って見ている。


やっぱり、ダメかな。


そう思った俺はこう言ったんだ。





「あ・・・嫌なら無理に書かなくても、いいよ?」



本当は書いて欲しかったけれど。


多少自暴自棄になりかけていたのかもしれない。







「じゃあ・・・嫌だ。」





笑いながらだったが、確かにそう言われたんだ。


その笑顔もまた可愛くて嫌いになれない自分が憎かった。


彼女がふざけて言ったのか本気で言ったのかはわからなかった。


でも俺は・・やっぱり悲しかったんだ。


俺も必死で笑いを作りながら謝ろうとした。


その時だった。




「えー!ひどーい! 書いてあげなよー。」




いきなりの高い声。


気が付くと麻倉さんの横に先ほど一言書いて貰った女子が。




「だって・・・私、字汚いんだもん。」


また笑いながら言うと書き始めてくれた。






「高校でも頑張って!」



同じく一言だった。


どこが汚い字なのだろう。


女の子らしい可愛い字だった。


・・・これで汚かったら俺の字なんて象形文字だ。


まぁ書いて貰えただけ良いんだ。


軽く顔がにやけそうになるのを必死で堪えた。




「二人ともありがとうね! じゃあ!」



そういって俺は塾を後にしたんだ。




「ちょっと〜! 私は〜?!」




そんな声がしたがその時の俺は書いて貰えた嬉しさと嫌がられた悲しさでごちゃごちゃだった。
















___________________________












「・・・そんな事があったんだ。」


智也と綾奈は複雑そうな顔をする。


「で、でもさ。書いて貰えたんだからよかったじゃん!」


智也が必死に慰めようとしてくれる。





「私が思うに。麻倉って子には確実に嫌われてるわね。神崎さんは微妙だけど・・・。」


「ちょ、ちょっと綾奈〜。俊の事ももう少し・・。」


「でもやっぱり嫌われてるんでしょうね。」



綾奈のその言葉に思わず俺は激怒してしまった。


自分でよくわかっているからこそ・・・。






「なんだよお前は! わかったつもりで! ふざけんじゃねえ!」


「何よ。本当の事を言ったまでじゃない。」


「うるさい! お前に俺の何がわかる!」


綾奈に痛い所をつかれて俺はそれを認めたくなかった。



「二人とも・・・「うるさいのはそっちでしょ?!」


綾奈の高い声が智也を遮って響く。



「いつまでもいつまでも嫌われた嫌われたって! 女々しいだけじゃない!


男ならもっとしっかりしてなさいよ!」



「もういい! 帰れ!」


今の俺にはそう言う事しか出来なかった。


「言われなくとも帰りますよ! さ、智也!」


「ちょ、ちょっと〜・・・。」









俺だって。


俺だってわかってるんだよ。


女々しいって事くらい。


嫌われてるって事くらい・・・。





___________________________






「ねぇ。綾奈〜。ほんとによかったの?」


「うるさいわね。あいつにはあれくらい言った方が良いのよ。」


「で、でも。これじゃ綾奈が俊に・・」


「うるさいうるさい! もういいのよ!」








こうして意味有り気な言葉を残したまま二人は家路に着くのだった。

一話一話が長くて大変申し訳ないです^^;

どうしても切りどころがわからなくて・・・。

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