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千人殺し 4
人殺しに抵抗はなかった。
仕事っすから、と言っていつも片付けてきた。自分と同じところで働いている人間は皆同じようにそう言った。仕事だからと。
警察のところにいて三日過ぎた。
取調べはまだ、あの女刑事がやっている。
三日目にやっと聞き覚えのある足音を、どこか遠くの廊下に聞いた。
ほんの少し、右足に偏った重心のかけ方。
来たな。
そう感じ取った瞬間、取調室のドアが自分に向かって吹き飛んだので、流石に身じろぐ。が、すぐに袖に隠した小型のナイフで拘束を素早く解くと、そのまま駆け出した。
刑事はしばらく呆然としていたが、また殺気を纏わせて動き出す。
血が床を染めた。声を上げる間もなく、右腕を抑えてうずくまる。
長髪の女が井上の手を引いた。
「真紀さぁん」
白水真紀ーー正確かつ最速の仕事を得意とするナイフ使い。「氷」と称される冷酷さで恐れられる女だ。
「早く」
細く、弱そうな彼女の指は、とても殺し屋とは思えなかった。二年前と何ら変わらない白い腕が、井上の少し骨ばってきた手を強く引っ張る。
仕事道具を握りしめて、井上はただただ脚を動かした。