3/15
千人殺し 3
取調室はドラマで見るよりずっと狭く、暗かった。これで刑事は五人目である。青年は質問には全く答えずに、君、何歳、とか、腹減ったんだけど、とか、勝手なことを言うばかりで、警察の人間が躍起になればなる程に、その無駄口は多くなった。
「千人も殺してないのに、千人殺しなんて気の毒ですね」
女にしては低い声だった。
「はあ」
「さて、……人殺しをどのようにお考えで?」
目線はしばらく虚空を漂う。
「犯行時、どのような気持だったかと聞いています」
「どのようなって」足をぶらつかせる。「特に何も」
「何か、思ったことはあるでしょう」
「あんたは息するときにさ、何か考えたりするの」
その日はそれで終わった。結局彼女は答えられなかった。
彼女が去った後も、あの空気だけが残っていた。井上は残してきた次の仕事を考えた。仕事云々よりもまず、あの女刑事の喉を切りたく思った。