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千人殺し 2
取調べというのは、手を替え品を替えて、やけに長く続けられるものだ。この後の刑罰などよりも、余っ程苦痛を与える時間になる……と、井上もぼんやり考える。
千人殺しという大袈裟な渾名が頭を巡っていた。警察なのか世間なのか、名前も知らない誰かに勝手に付けられたのが広まり、また、彼が本名を言わないのもあって、取調べの間も繰り返しそう呼ばれた。
次に入って来たのは、若い細身の女だった。
彼女の周りには、同業者から感じるものと同じ空気が漂っているように感じられた。どこか胸騒ぎをおぼえつつ、井上は平然を装った。