狂戦士
よろしくお願いします。
それから2ヶ月もの時間をかけて魔界の49階層を攻略した。
マルカもシンディもクラスアップはしているものの、既に力不足だ。
ペーターは超級クラスということもあり、ついてくるが、どうやらクラス的にも短期決戦型らしく長時間の戦闘だと魔力が足りない。
ここらで帰ってはくれないだろうか...
次はかつてのデュランが初めての敗北をしたというフロアなのだ
49階層で苦戦する奴はキツイだろう。
今の俺でも厳しいかもしれない。
それでも行く
俺はかつてのデュランを超えなければならないのだから。
一度帰還して魔力の回復に努める
いくら俺でも強敵を前に準備不足はしない。
国王の計らいで週に一度、食料や回復薬などの補充が島に到着する。
必要物資を補充して明日に備えて寝る。
思えば3日間睡眠をとっていなかったな...
ーーー目覚めると周辺に居たはずのマルカ達が居なかった。
おかしい
マルカ達は散々無茶だの無謀だの言いつつ決して俺から目を離さなかった。
それが誰もいない。
俺はハッと気付く
まさか...
まさか!!
すぐさま地下50階層に辿り着くと確信に変わる。
魔獣がいないし魔力の痕跡がまだ残っている。
3人だけで攻略しようと思ったのだろう、3人の力では決して攻略できない、けれど力をあわせて策を練れば...と
俺抜きでの3人で攻略すれば俺が見直すかもしれないと。
そう思ったのだろう。
馬鹿が!
全速力で走ると...
ボスフロアは閉まっていた。
途中乱入は出来ない。
かつてのデュランが敗北した相手になんて事を...
俺はまたなにも出来ないのか。
また誰かが死ぬのを見るだけなのか...
いいや!
この扉を破壊すればいいだけの事!
あの時の俺とは違う、今はスキルも魔術も学んだ。
力もつけた。
目標にはまだまだ辿り着かないが、それでも!
全身に闘気を巡らせる
強化魔術を片っ端からかける
剣にうっすらと光る聖気が宿る
デュラン程ではないが俺も聖騎士だ、多少は聖気を纏える。
全闘気を剣に集中させ、風の魔術の上級を併せてて放つ
「聖風・飛斬!」
扉は...破壊出来なかった。
ただ、その横の壁に小さな穴を空ける事に成功する。
みるみるうちに壁は再生していくが何度でもぶつければいい。
俺は力の限り壁に向かい全力で技をぶつける
間に合え、間に合え、間に合え!
もうあんな思いは...
唐突に扉が開いた。
開けたのはシンディだ。
「先程からうるさいですわよ。慌てなくとも倒せましたから安心なさいな。」
「は?おま...50層だぞ?無理だろ?」
「無理ならワタクシは幽霊でして?おかしいとは思ってましたが既にジークの頭は壊れていましたか。」
「茶化すな!...どうやってやった。」
「いつも通りですわ。マルカの作戦にワタクシ達がのった。それだけですわ。」
「49階層であんなに苦戦してたお前らが勝てるわけないだろう!」
「事実勝ってるではありませんの。いいですの?今まで苦戦してたのは誰かさんが勝手に特攻して、それのフォローをしてたからですわ。全員で力をあわせればこんなにも簡単にクリアできるのにも関わらず、本当に馬鹿な人もいるものですわね?」
「ぐっ...どうやったか聞いてもいいか?」
「まず、認めなさいな。1人よりも4人の方が強いと。その上で皆に謝罪なさい。この5年逆らって反抗して拗ねていじけて申し訳ありませんでした、と。地べたに額を擦り付けて。ワタクシはそれを見てからでないと許しませんわ。」
コイツ...
「シンディ、その辺にしとけよ。ジークの気持ちもわかるからついてきたんだろ?」
全身血だらけのペーターがこちらに歩み寄る
「ペーターは相変わらずお優しいですわね。けれどワタクシは決して譲りませんわ。この5年、苦しかったのは自分だけだと、俺だけが苦しめばいいのだと勘違いを拗らせた子供は相応の謝罪をせねばなりませんわ。」
マルカもペーターの後ろにいるがなにもいわない。
「いいですこと?苦しかったのはジークだけですか?パーティメンバーを失い、力不足だからとその場に居ることさえできなかった者はどのような気持ちで過ごしてきたかおわかりになって?ワタクシは...どれだけ無力だったか。どれだけ悔しかったか!!今度こそ、ワタクシは力になる。そう決めたんですの。ジークがそれでもワタクシをいらないというなら、独自で魔王を討伐してみせますの。その覚悟はありますわ!」
俺はなにも言えなかった。
「ワタクシ達が必要と思うなら謝罪なさい。不要と思うならそのまま進みなさい。選ぶのは貴方ですわ。」
俺は...
土下座した。
「今まですまなかった。こんな馬鹿な俺だけど、もう一度一緒に戦ってくれないか?」
「ああ!勿論だ「ダメですわ。やり直しですの。」」
ペーターの声を遮りシンディが言う。
「この5年は安くありませんの。さあ言いなさいな。愚かな自分を救って頂いて感謝してます。これからは心を入れ替えて僕となるのでどうかお赦し下さい。さぁどうぞ?」
「愚かな自分を救って頂いて感謝してます。これからは心を入れ替えて僕となるのでどうかお赦し下さい。...これでいいか?」
「不満は残りますが、まあいいでしょう。少し気持ちが晴れましたわ。」
ペーターが後ろで「鬼だ...」と呟いている。
鬼はお前だけどな。
マルカは合流しても一言も話さなかった。
そんなマルカを見て何度も謝罪したが許してはくれなかった。
一体どうすれば...
そこで仲介にペーターに頼んだ。
「マルカか、まあ相当悩んでいたからな。すぐには解決しそうもないってんなら間に入ってもいいが、うまくいくとは限らねえぞ?」
「それでも俺が悪かったから。それにシンディが作戦内容はマルカに聞けで教えてくれん。」
「それはまあ...俺から言ってもいいが聞くか?」
「ペーターのフィルターを通すと細部が違う事になりそうだからやだ。」
「おまっ!...んじゃマルカ呼んでくっからよ。待ってろ。」
ペーターがマルカに声をかける
マルカがこちらに1人でくる...
あれ?ペーターは?
「ペーター君には私で対応すると伝えましたぁ。作戦の内容ですねぇ?お伝えしましょう。」
そこから50層の戦いは語られる。
50層のボスは巨大な龍だ。
ワイバーンなどとは格が違う。
豊富な魔力に頑強な闘気の壁。
そしてデュランはわからなかったみたいだが龍気という種族特有の気もあり攻防ともに最強クラスの種族なんだとか。
倒すには龍気を突破できる攻撃力が必要。
そこでペーターには邪気と闘気を一点に集中させてコアを破壊する担当
シンディはその隙をつくるための撹乱担当
マルカは強化を一点型にしてペーターにつけるのと、ペーターを守る結界担当
ゴーが壁役でシンディを守る担当だったそうだ。
話しだけ聞くと割とシンプルに聞こえるが、コアの位置の割り出しから撹乱一つとっても危険な行為に変わりない。
「私達の何を見てきたんですかぁ?」
「なにを...?」
「私達も同じ時間同じように努力してきましたぁ。あの頃とは違いますぅ。」
「あぁ。俺の想定より強くなったみたいだな。」
「それはパーティプレイを想定して、それぞれを特化させてきたからですぅ。私達ではデュラン君になれませんからぁ。」
「...あぁ。知ってたさ。」
「ジーク君はジーク君であってデュラン君ではない。」
「知ってる、つもりだったんだけどな。」
「ジーク君の作戦は間違っていなかった。ジーク君が作戦を提案をしなければぁ全員死んでましたぁ。デュラン君の魂も魔王に奪われていました。」
それには答えられない。
俺はただ、デュランに伝えれば良かっただけなんだ。
「だから、足りなかったとしたら力だけ。単純に力が足りなかった...もう一度、今度こそ私達と一緒にパーティを組んでくれませんかぁ?」
「あぁ。こちらこそ頼むよ。」
「わかりました。...それでは!罰則という事で30程設けますのでこなして下さいねぇ。まずは...」
マルカは笑顔でそう言った。
なんでかな
マルカが笑うと少し気持ちが晴れるよ。
「マルカ、今までありがとう。これからよろしくな。」
「はい。どういたしましてぇ。」
「では早速今後の方針などを決めて行きたいと思いますぅ。皆さん一緒に考えていきましょう!」
「せめて会議中はこの罰則13の逆立ちは無しにしないか?」
「罰則は罰則ですぅ。以後単独プレイはしないようにしっかりと罰則をこなして下さいねぇ。」
マルカは笑顔だ。
やっぱコイツら鬼だわ。
「マルカ!方針も大事だが、まずはパーティ名決めねえか?後はリーダーと規則とかさ!やっぱ名無しはダサいぜ!」
「うーん...そうですわね。ならばワタクシは[ヴァルキュリィ]を提案しますわ!美しく強いワタクシにピッタリのパーティ名ですわ!」
「却下。」
「まだ土下座したりないんですの?」
「ある意味じゃ土下座よりキツイ格好してる俺を見ても尚言うか?」
「うーん...パーティ名ですかぁ、正直私はそういうのは疎くてですねぇ。すぐには思いつきそうもないですぅ。」
「んじゃ俺が言うな!俺は[赤き流星群]どうだ?かっけえだろ?」
通常の3倍は速そうだ。
「却下。別に俺たち赤くないし。」
「ならジークも言ってみろよ。」
「俺か?なら...[狂戦士]でどうだ?」
「狂戦士...デュラン君が聞いたら怒りそうですねぇ。」
「あぁ。悪くないだろ?」
「かっけぇ!!俺らがいつか「あ、あのバーサーカーのペーターさんですか?」とか言われるんだろ?いいんじゃねえか?」
「悪いですわよ!イメージがかなり悪すぎですわ!」
「私はぁ別にいいと思いますよぉ。覚えやすいですしぃ。」
「マルカ!いいんですの?」
「はいぃ。他の2つよりは良いと思いますよぉ。物騒な名前なら沢山ありますしぃ。」
「んじゃ仮でそうしとくか。王都に戻るまでにもっといい名前があればそれでって事で。」
「ワタクシが必ず素敵な名前をつけますわよ...」
パーティ名は仮だが狂戦士になった。
デュランの奴が聞いたら怒りそうだから丁度いいさ。
「ではぁ次にリーダーですかぁ?だれか推したい人などいますかぁ?」
「これはマルカ一択だろ。」
「ですわね。」
「そうだな。」
マルカは驚いた表情をして
「えぇ!?私でいいんですかぁ?」
「お前以外にこのメンツを制御できる奴はいない。諦めろ。」
マルカがリーダーに決定だ。
これは仮ではない。
「大体いつも仕切ってんだろ?今更じゃん。」
「それはそうですけどぉ、位で言えばシンディさん。戦闘力で言えばペーター君でも。」
「なぜそこに俺が出ない?」
「それは当然ですぅ。」
あたりが強い。
まあいいか。
確かに5年前はこんなノリだった。
懐かしい...
ジークはパーティの輪に戻った。
ソロプレイで50層攻略は勝算が低かった
マルカはジークを死なせないために無茶をした。
その無茶がしばらく後に問題になる。
この時はまだ、誰も知らない。
こんな暑い日にスーツだなんて...
せめてシャツにネクタイで許して下さい...