勇者の過去
今回は全てデュラン視点での話しになります。
デュランはいつもの口調で淡々と語る
壮絶な過去を
これから語られるのは勇者デュランの物語である。
ーーー退屈だった。
自身が勇者と言われても、その力を振るうこともなく。
ただ平和な日常を過ごす毎日
それはきっと幸福な毎日
誰もが望む平穏
けれど僕にとっては苦痛だった。
生まれてからずっとずっと聞こえるんだ。
「それでいいのか?お前はもっと力をつけるべきだ。力が無ければなにもできない、守れない。戦え!」
「力を求めろ!世界を救う力を!」
「選ばれし勇者よ。平穏を守るための力を示せ」
声は毎日違う人だった。
最初はなにを言っているかわからなかった。
けれど日が経つにつれて段々と鮮明に
そして強く響くようになった。
ある日村近くの山で魔獣がでたっておじさんが言っていた。
とても強くてこの村では対応できない、王都から冒険者を呼ぶって。
だから興味本位で見に行ったんだ。
魔獣を。
山に入ればすぐに居場所がわかった。
どこにいて、何匹いて、今なにをしているかが鮮明にわかった。
近くで見よう、が近づくにつれ戦ってみたいになっていた。
毎日聞こえる声の影響かもしれない。
見つけると大きな熊だった。
黒い毛皮に赤い線が沢山ある熊
けれど決して強くはない。
脆そうに見えた。
どうやって戦えばいいかはなんとなくわかった。
単純に胸を手で貫けばいいのだ、と。
簡単に殺せた。
返り血が凄かったけど、初めての戦闘は10数秒で3体の熊を殲滅する事で終えたのだった。
それからも村に魔獣がでれば率先して倒してきた。
魔獣と戦うと声は聞こえない。
夜もぐっすり眠れるのだ。
時折酷い痛みに襲われるけど、なんてことはない。
あの内から響く声に比べれば。
でもそのうち魔獣がいなくなった。
今考えれば当然なんだけど、魔獣がいなくなっては困るのだ。
だって前にも増して声は大きくなっている。
アレが続けばきっと自分は自我を保てない、そう思ったんだろうね。
村からこっそり抜け出して魔獣探しにでたよ。
それから毎日抜け出しては魔獣を殺してまわった。
そうするとドンドン魔獣はいなくなった。
だから探す範囲も広くなっていく。
必死だったよ。
早く探さないとあの声が聞こえてきちゃう、ってね。
そうしていくうちに段々と遠くにいる魔獣の位置もわかるようになってきた。
レベルの上昇と索敵のレベルも上がってきたんだろうね。
王都周辺にだって何回も来た事あるんだよ?
流石に街には入れなかったし、ダンジョンも知らなかったからね。
そうしていくうちに怖くなったよ。
魔獣がいなくなったらどうしようって。
本当に怖かった。
きっと魔獣がいなくなったら僕も死んじゃうんだろうって。
ある時にとても遠いけれど、沢山の魔獣がいるところがわかったんだ。
海を越えた先にある島
そこに数百、数千の魔獣がいるってわかったんだ。
恐らく今のレベルでもわからない距離ではあるはずなんだけど、数が多過ぎたんだろうね。
ともかく僕の索敵にかかったんだ。
けれど僕の足でも1日では帰って来れない距離だった。
だから嘘をついたんだ。
父さんに。
魔獣が隣の山に大量にいる、範囲が広すぎて殲滅には1日じゃ終わりそうもないから2、3日はかかりそうって。
父さんは王都から冒険者を呼ぼう、そんな危険な事を子供のお前がする事はないって言った。
だから言ったよ。
僕は[勇者]だから、きっとこれから来る冒険者よりもずっと強いから。大丈夫だから心配しないでって。
父さんは悩んでいたけど、最後には許可を出した。
村周辺の魔獣を何度も倒してるのを知っていたからね。
そうして僕は向かったんだ。
[魔界]へと。
あれだけ全速力でぶっ通し走り続けた事はないんじゃないかな。
途中で見つける魔獣は走りながら殺した。
中には初めて見るタイプのもいたけど足を止める事はない。
あの時は魔界への興味でいっぱいだったからね。
海に着くと驚いたよ。
こんなにも水が一面にあるなんてね。
感覚ではわかってたんだけど、実際に見るのとは全然違ったね。
泳ぎ方も当時3歳だった僕は知らないし、といっても今も知らないんだけど。
とりあえず全速で走ってみたよ。
知ってるかい?
思いっきり走れば海の上を走れるんだよ?
コツは水に足が沈む前に足を踏み出す事
でもまあ驚いたのはそれよりも海には魔獣がいないってこと。
困ったね、あれは。
1番近い陸地から海を走っても半日近くは島までかかったからね。
声も聞こえてきちゃったんだよ。
しばらく聞いてなかったとてつもなく大きく、沢山の声を。
頭がおかしくなりそうだったよ。
自分が自分じゃなくなるような感覚、といってもわからないかな?
とにかく必死に走り続けたよ。
そうして暫く走り続けると島が見えたんだ。
いや、正確には見えなかったんだけど。
島は真っ黒な結界に覆われていたから。
でも止まるとか引き返すとかそんな選択肢はなかったからね。
そのままの勢いで突撃したよ。
そしたらさ、すんなり入れたんだよ。
魔界に。
魔獣しか存在しない、楽園に。
興奮したね。
とにかく嬉しかった。
殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても
どれだけ殺しても溢れかえるような魔獣の数
見た事もない強力な魔獣ばかりいるんだ。
興奮しない方がおかしいよ。
ずっと魔獣を探し続けてきたんだから。
僕は[勇者]。
魔獣を狩って平和を守る者なんだ。
そんな気持ちで全力で殺し続けたよ。
夢中になって毎朝毎晩殺し続けたよ。
父さんとの約束もわすれて連日魔獣狩りをしてたんだ。
ここまでは順調だったんだ。
ただただ楽しい日々だったんだ。
けどね、気づいたら島にいる魔獣はいなくなっていた。
何日かかったかな?
多分2月とか3月とか
もしかしたら数年かかってたのかもしれないね。
食料?
そんなの魔獣を食べてたよ。
だって島には魔獣しかいないんだから。
焦ったね。
もう少しゆっくり殺せば良かったって
島中探しても魔獣はいなくなってた。
それでも帰る気がしなくてね、島を何度も何度も探し続けたよ
そしたらさ、居たんだよ
魔獣が。
さっきは間違いなくいなかったのに突然索敵に引っかかったんだ。
すぐさま殺したんだけど、殺した後に思ったんだ。
どこから出てきた?って
だから周辺をより細かく探したらさ、あったんだよ。
地下へと続く洞窟
ダンジョンが。
勿論当時はダンジョンなんか知らないからね。
魔獣の隠れ家だ、位の感覚で入っていったよ。
最初はつまらないほどに弱い魔獣しかいなかった。
外にいた魔獣とは比べ物にならない程の魔獣に正直がっかりもした。
けれど地下10階、20階、30階と降りるごとに強くなっていくんだ。
ワクワクしたね!
問題は外と違って中にいると魔獣を殺すと魔石しか残らない事
空腹だし水分もほしい
島に戻っても魔獣はどうせいないし、島には作物なんかは1つもなかったからね。
耐えながらずっと進んでいったんだ。
何日かすると突然お腹が減らなくなったんだ。
喉も乾かない。
今考えても不思議なんだけど、当時は深くは考えなくてそのまま進んだよ。
ラッキー!位に思ってたんだろうね。
そうして進んでいくとボスフロアが見えたんだ
地下50階層
今でもあれははっきりと覚えている。
僕でも勝てない化け物がいた。
それまでの魔獣とはまるで違う
でかい蜘蛛を殺した
でかい蛇を殺した
でかい巨人を殺した
鬼だって殺した。
なんだって殺してきた。
相対すれば次にとる動きがなんとなくわかってたから。
けどその魔獣の動きは予測出来なかった。
そして強すぎた。
それはとても大きな龍だった。
敗走したのはあれが初めてだったね。
死にたくない、初めてそう思ったよ。
怖かったんだ。
何をしても死なない魔獣が。
だから、逃げたんだ。
僕と戦ってきた魔獣は1度だって逃げた事はないのに。
僕は怖くて逃げ出したんだ。
そうして逃げて上に戻っていったよ。
当時は転移石の使い方も知らなかったしね。
10層位まで戻った時にね、ふと思ったんだ。
魔獣から逃げて、魔獣を殺せなくなったらどっちにしたって僕は死ぬんじゃないかって。
そしたら逃げるのも怖くなってね、しばらくそこに蹲ってたんだ。
そうしたらさ、倒したはずの魔獣達がまた出てきたんだ。
不思議に思ったけど、チャンスだと思った。
こいつらで試そう、って。
強くなってアイツを殺そうって思ったんだよ。
あの強大な龍を。
当時は学院にも通ってないしね、感覚的なスキルしか持ってなかったんだよ。
剣術とか索敵とかそういうの。
何年位経ったのかな?
しばらくしたら変化が起きたんだ。
身体に纏う光りがあったんだ。
それが[聖気]だね。
纏った部分は強固になり、優しく触れても何故か魔獣は吹き飛ぶ。
それに気づいてからはとにかく使い続けたよ。
これを極めれば龍も倒せるかもしれないってね。
連日49層から10層までの往復の毎日だった。
聖気はね、闘気よりも魔力消費はずっと少なかった。
1度纏えば消費しない限り纏ったまま。
身体能力は飛躍的にあがるし、魔術に対しての盾ともなる。
それでも、1度負けた恐怖はなかなか拭えなかったね。
まだだ、きっとあの龍はこれでも足りない。
もっと強いはずだ。
そう思ってたんだ。
どれくらいそうしてたかはもうハッキリとは思い出せないね。
10年や20年じゃあ効かないとは思うけど。
不安は結局どこまでやっても消えなかった。
けれどもう何年も成果はなく、続けても意味はないと思ったよ。
だから再戦する事にしたんだ。
決めたらあっさりと向かえるもんだね。
数十年怖がり続け、恐れて近づけもしなかった扉を開いたんだ。
そうして久々に見る龍は、もう強大な敵には見えなくなっていた。
いや、強かったのは確かなんだよ。
それ以上に僕が強くなってただけで。
予測も通常通りできた。
そこに聖気なんて使ったら...あっという間だったよ。
どれだけの魔術がきても
ブレスがきても
牙や爪で攻撃されようとも
その全てを僕の聖気が阻むんだ。
拍子抜けなんてもんじゃない。
悲しかったんだ。
いつまでも自分より強く在って欲しかった。
すぐに殺したよ。
本当にあっさりと。
なんだかやるせなくなってね、地上に戻って島で数日寝たんだよ。
声が怖くてまともに寝れた事なんてなかったのに。
でも聞こえなくなっていた。
あんなに沢山の、大きな声がしていたのに。
数日寝て、ようやく目覚めると思い出したんだ。
そう、忘れてたんだよね、村の事を。
今考えれば当然だよね、生まれてからの3年よりもずーっと長く魔界にいたんだから
でも、思い出せた。
思い出したら早いもので、すぐに村に戻ったよ。
あんなに時間かかった道のりも帰りは数時間で帰れた。
帰る途中不安だったんだ。
僕も皆を忘れてたんだ、なら逆もあるんじゃないか?
それに何年たったかわからないけど相当な年月が経った事はわかっていた。
父さんに会いたい
母さんに会いたい
ジークに会いたい
けれど、もういないかもしれない...
怖かったよ
とても怖かった。
そんな気持ちで村に着くと...
ーーーなにも変わっていなかったんだ。
朧げな記憶のまま、何一つ変わってはいなかったよ。
今考えればおかしいんだけど、当時はただ嬉しかった。
言葉なんてずっと使ってなかったからね、覚えてなかったのに家に一直線に向かったんだ。
そしたらさ、全部忘れたんだよ。
魔界での事、村を出てからの事を全て。
訳わかんないよね?
僕もわからない。
ただ、何十年も魔界に居たのは確かだし
村の経過時間は2日とかかってなかったのも事実
それで記憶を取り戻したのはつい最近
ダンジョンに初めて潜った日だよ
なんで記憶を失ったのか
なんで魔界と村の時間が違ったのか
なんであんなにも毎日聞こえてきた声が聞こえたのか
なんで記憶を取り戻したのか
なにもわからないんだ。
大した話しじゃないけどね
一応他の人には話したくなかったんだ。
これが僕の全てだよ。
ーーーこれが僕の全て
そう言ったデュランは笑っていた。
ブックマークが増えている...
嬉しいです!