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02 無職、ドラゴンになる

 

 どのくらい気絶していたのだろうか。

 深い眠りについたせいか、体がいつもと比べると非常に軽いため、心地良く感じる。




 だが、その心地良さも長くは続かない。眼を開けると、体の軽さなど忘れるくらいの衝撃を受けたからだ。



 視界に入った景色は、石のブロックで作られた室内、草木がその室内にまで生えており、辺りは鼠色と緑色の二色で彩られている。



「ここどこ?」

 思わず声に出てしまった。

 エレベーター内とは全く異なる広さ、匂い、景色が広がっていたのだから当然のことである。


 一瞬戸惑い。しばらく頭の細胞をフル回転させて状況を飲み込むよう努力をしたが、やはり、この光景が決め手でおれは確信した。



「もしかして、異世界転移に成功したんじゃ」

 またもや声に出てしまったが、これは困惑の独り言ではない。歓喜の独り言である。



(ふふふ。これで、あんな生活とはおさらばだ)

 顔をニヤつかせながら体を起こそうと、地面に手をつけて立ち上がろうとした。



 しかし、立ち上がれない。


(気絶の期間が長すぎて筋力が衰えたのか?)

 馬鹿な想像をしながら、恐る恐る自分の腕を見ると原因がすぐに分かった。



「手が、真っ赤に染まってデカくなってる」


 まるでトカゲのような腕だ。だが、腕だけが変わったとは考えにくい。

 嫌な予感はしていたが、急いで横の鏡を見てみると、案の定そこには真っ赤なドラゴンの顔が写っていた。



「ドラゴンになってる!?」

 今回の声は非常に大きく、室内をブルブルと震わせるほどまでに叫んでしまう。




 その振動に気づいたのか、足音と共に若い女性の声が近くの部屋の方から聞こえた。

「お目覚めのようだな」



 すぐに綺麗な長い髪を持つ、背の高い女がやってきた。



「調子はどう?」


「お前はエレベーターの時の…」

 この女は、俺の記憶にばっちりと残っている。エレベーターに乗ってきた女だ。



「おめでとうございます!あなたは異世界の伝説のドラゴンとなりました。この世界を救うのです」

 両手と顔を上に向け、大きなアクションを取る。




「何いってる‥ 伝説のドラゴン?」

 頭のおかしい奴が絡んできたのかと、この時は思っていた。


 しかしその質問で女の表情はキリッと変わり、背筋を伸ばし、丁寧に答える。

 実際には、丁寧な口調のまま笑って答えているので狂人のようにしか見えない。



「あなたが転生したこの世界は、魔界と呼ばれています。人間共が救世主としてあなたを召喚したのです。ははは」



(笑いながら答えているが、こいつは人間ではないのか)



「よく分からない… おれはどうすれば良いんだ?」




「この付近に魔人共から支配されている村があるので、まずはそこから解放しましょう」

 女は、上を指差した。


 おれも上を見上げると、天井がない。青い空が広がる。


 ずっと家にいたので、青い空が広がっているところを見てるだけで少し感動した。





 そんな思いをよそに、おれを急かす。

「さぁゆくのです!あなたが願えば、その通りに体は動きます」





 〈シュタッ〉

 女は助言をすると、おれの頭の上に乗ってきた。




 少し混乱したが、よくよく考えてみるとドラゴンになって世界を救う仕事は面白そうだ。



「世界を救ってやる」


 〈バサァ!〉

 大きな翼が広がり、地面に向かって強烈な風をぶつける。





 強烈な風圧のおかげで、一瞬で建物を抜けて空に舞い上がることが出来た。






「エキサイティング!最高です!」

 女はおれの頭の上ではしゃいでいる。



「そういえば、お前の名前はなんなんだ」



「私の名前ですか?レッドとでも呼んでください」

 クスッと笑いながら答えているが、テンションが高くて話すのに疲れる。



 話すのを止めておれは空中を前へ前へと進んだ。一度下に目を向けると、広がる世界は森で、一面緑の世界が視界に収まった。




 しかし、いくら探しても村なんて見つからない。

「村なんてどこにもないぞ」




 すると、すぐに頭の上から笑い声が聞こえてきた。

「あっちに見えますよ。おバカさんですか?」

 ムカつく言い方だが、たしかに前方に煙が出ている地点が見える。




「あれか‥」

 先程の発言でイラついていたため、全速力でその地点に向かった。

 〈ゴッ!〉



「ちょっと早すぎますよぉぉぉ」

 女は、おれの頭にしがみついてる。いい気味である。




 しばらくしておれは、たどり着いた。魔人共に侵略されている村に。

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