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8.予兆

緩め。魔王クオリティ。




―――っ!


 この波動は……まさか、あの方が戻ったというのか……ならば会いに行かねばなるまい。何としても、もう一度……。


 ……そうだ。彼も呼ぼう。かつては四人いた我等も残すは彼と私の二人のみ。


 会いに行かねばなるまい……。あの方に仕える任が解かれようと、我等の君は永劫不変にあの方なのだから。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 翌朝。



 昨日の夜、何があったのかをティナに説明した。ティナも驚いてはいたが、お兄ちゃんだからー、と言って納得してしまった。ティナの中の俺ってどんな評価なのだろうか。


 一晩寝たら、魔力は俺もティナも全快していた。そしてティナは昨晩、新しい寝間着に着替えさせられたらしい。さらに、ベッドの横にある机の上にはもう一着新しい服が。

 ティナは早速それに着替えたのだが、今の俺には彼女の全貌が見えないため、どんな天使になったのか確認出来ないのが残念だ。鏡製作を急がねばならん……。


 置いてあった服は、ただの白いワンピースではない。あれだ、ヨーロッパ中世の街娘みたいな服。濃い赤色で、首元にはリボンもついている。

 ティナは初めて着るお洒落な服に喜びの舞を踊った。しきりにどう? どう? お兄ちゃん、と聞いてくるのだが、見えない俺は返答に困ってしまった。無難に答えておいたのだが。


 朝ご飯を食べに下に降りると、居間にはなんとも言えない微妙な空気が流れていた。お父さんもお母さんも少し泣き腫らした目をしているし、なのにジルは相変わらずだし。


「やぁ、おはよう、ティナ」

「おはよう、ティナ」

「うん、おはよう」

 お父さんとお母さんが挨拶をしてくれる。お父さんは久しぶりに口にしたんだろうな。何処と無く居心地が悪そうな顔をしている。


 ジルはティナが来くるのをちらっと見て、ちっ、と舌打ちするとすぐに、また飯を食べ始めた。


 そして、ティナが食卓につくと、ジルは口を開いた。


「なんで……なんで無能が俺と同じ飯の量なんだよ!」

「ジル、言っただろう? ティナは無能じゃない。魔法が使えるんだ。それに、どういう訳か昨日、あのウォーウルフと戦って勝った」

「けっ、ウォーウルフだと? あんな化け物に勝てるわけがない! 魔法だって? 俺は信じないぞ!」


 ぴっ、とティナを指差し吠えるジル。

 因みに俺が倒したウォーウルフは解体して、街の冒険者ギルドに売りに行ってもらっている。結構な大物だったから、いくらになるのか楽しみだ。


「信じなくてもそれが事実だ」

「そうよ、ジル。別にあなたの分が減った訳じゃないんだからいいじゃない」

「ぐ、くっ、ふ、ふざけるな! 無能のこいつと一緒にされてたまるか」

「ジル! 信じられない気持ちは分からないでもないが、それ以上口にしたら明日からお前は飯抜きだ。良いな」



 なおも喚くジルを、お父さんが制した。ジルは余程ティナを無能のままにしておきたいらしい。

 ジルは、ティナを憎悪の篭った目で睨みつけると、スプーンをテーブルに叩きつけ、飯も半ばに肩をいからせて外に出て行った。


「すまないな、ティナ。あいつはまだお前が魔法を使えることを信じられないんだ。許してやってくれ」

「ううん、大丈夫」

「いい子だ」


 お父さんはティナの頭を撫でる。ティナも少し気恥ずかしそうに、されるがままになっている。俺もなでなでしたいなぁ……。



 ……この分だと俺の計画はさらに前倒しになりそうだ。

 ジルが、ティナが無能である事に固執するには理由がある。俺はそう睨んでいる。近いうちに何か動きがあるはずだ。


「それはそうとティナ。お前の魔法を見せてもらいたいんだが、良いだろうか?」

「うん」

「そうか、では、食べ終わったら裏庭に行くとしよう」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 裏庭。


 なかなか広い。ちょっとした畑も付いている。隅の方には井戸もある。ここに風呂を作るのもいいかも知れない。


「〝シャドウボール〟!!」


 ティナの可愛い詠唱が響き、ドコンッ。

 〝シャドウボール〟は標的の岩に当たり、表面を砕いた。

 どんなリアクションをするだろうと、お父さんの方を見てみると、


「ティ、ティナ。今のは〝シャドウボール〟なんだな……?」


 何故か両手をわなわなさせて立っていた。


「そうだよ」

「……なんという事だ。ティナ、お前の〝シャドウボール〟は普通のそれとは比べ物にならない程の威力だ。岩を砕く〝シャドウボール〟など見た事がない。せいぜい表面の凸凹がなだらかになる程度だ」


『え、そうなの、お兄ちゃん』

『すまん、俺も今知った。魔王クオリティだったからかな……』

『くおりてぃ?』


「まさか、これ程才能があったとは……なのに私という愚か者は……。おっと、私はそろそろ仕事に向かわねばならない。励むんだぞ、ティナ」

「うん」


 お父さんは腕を組みブツブツ呟きながら村の畑がある方向に歩いていった。

 そう言えば、畑。不作が続いていると言ったな。お決まりの農地改革でもしますか。


 でもまずはティナの魔法だ。

 ちょっと急ぐ必要があるかも知れない。



『今日は何するの?』

『今日は魔力操作の発展だ。魔力操作で魔法の形を変える』

『魔法の形?』

『そう。ボール系はただ魔力を集めるだけで良かった。でももっと敵にダメージを与えたり、より高い効果を出そうとすると、形を変えないといけない。例えば、これだ』


 ティナにまた右腕を伸ばしてもらって〝シャドウボール〟を撃つのと同じように魔力を集める。だが、これだけではない。集めた魔力の形を変えていく。ゲートから流れ出る魔力を動かすのだ。そして、


『闇属性魔法〝シャドウアロー〟』


 びゅんっと飛んでいった黒い矢は手頃な岩に当たり、深く突き刺さった。この魔法も初等魔法。ほぼ、魔法成形の練習用の魔法だな。


『今、俺は、昨日と同じ魔力しか込めていない。だけど、ボールを撃つのと、どっちがより敵にダメージを与えられるかか、というと?』

『今の方?』

『そうだ。他にも剣や槍、盾など、色んな形に変えられて、戦いの幅が広がる。加えて、強力な魔法を放つにも必要な事だ。しっかり身体に染みつかせてくれ』

『わかった』


 ティナは昨日のように、俺の真似をして魔力を集め、形を変え……ようとするが上手くいかない。流石に難しいか。ティナは口をとがらせてちょっと不満げ。


『むぅー』

『えっとな、頭でどんな形にするのか頭に思い浮かべる方がやりやすい。さっき俺が撃った魔法を思い出して』

『うん』


 ティナは再び魔力を変形させていく。ふむ、それっぽくなってきたが……


『とりあえず撃ってみな』

『うん、〝シャドウアロー〟』


 放たれた矢はびゅっと音を立てて飛び、岩に当たるが、ダメージを与えることは叶わず、砕け散ってしまった。


『あれ、なんで』

『今見てわかるように魔法が弱かったんだが、理由は魔力のバランスだ』

『ばらんす?』

『そう。今の矢の形、先が細いよな。そこで今までと同じ速さで的に当たると、その一点にそのエネルギーが集まってしまう。結果、当たったところから力に耐え切れず砕け散るんだ』

『えと、先っぽに魔力を多めにこめるってこと?』

『そうそう。理解が早くて助かるな。やってみて』

『うん』


 ティナは再び魔力を集め、形を変える。見た目はさっきとさほど変わらないが……


『えいっ、〝シャドウアロー〟!』


 勢い良く発射された矢は見事に岩に突き刺さった。砕け散ることも無い。


『やった!』


『ふむ、流石だ。器用だなティナは』

『うふふ』

『あと何発か撃ったら次に行こう。魔力はまだ残ってるな?』

『うん、まだまだ余裕』


 魔力量の把握能力も申し分ない。ここまですんなり来たなぁ。ティナはまるでスポンジのように、魔法の知識を吸収していく。師匠として教えがいがあるというものだ。


 ティナの放つ〝シャドウアロー〟は一発撃つ毎に精度と威力を増していき、遂には俺が撃ったのとほぼ変わらない威力になった。


『どう?』

『いやはや素晴らしいよ。こりゃそのうち俺が教える事も無くなりそうだな』


『それは嫌。さぼろうかなー?』

『あはは、そんなに俺といたいのか?』

『そだよ?』

『え』

『え?』


 二人の間に流れる沈黙。き、気まずい! 冗談を冗談で返したつもりだったのに、なんか好印象な返事が来ちゃったじゃん。

 でもティナの純情を裏切る訳にはいかない!


『心配せずとも俺はずっとティナと一緒さ』

『うん!』


 真面目な話、俺は魔王の霊でティナは人間。降霊されなければ交わることなど無かった。運命ってのは不思議なもんよな。


 だから、何かの拍子に俺とティナが別れることだってないとは言えない。

 その時にティナが、俺抜きでも生きていけるように。幸せになれるように。俺は、ティナを導いてやりたい。


『お兄……ちゃん?』


 おっといかんいかん。


『ごめんごめん、ちょっと二人の将来について考えてた』

『えっ』


『……さっ、次は離れた魔法の操作をやろうかー!』

『ちょっとー!』




 まだまだ二人の物語は始まったばかり。


これ予約投稿なんですが、上手くいっているでしょうか…

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