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6.戦闘

本日二コメ。




―――殺気。


 深まりつつある闇の中、静かに忍び寄る殺気の根源。それが放つ殺意の波動は確かに俺を捉え、今にも襲いかからんと身構えている。


 俺はトイレ騒ぎで半分ほどしか魔力が残っていない。逃げるか、戦うか。まず敵はなんだ? 魔物か、人間か。感じる殺意の視線は一つ。強力な殺気だ。気を抜いたら押し負けそうな。

 静かに、敵の動きを感じる。……これは魔物だろう。人間の動きではない。




 魔王としてなら毛ほども恐れる必要は無かったかも知れない。だが、今は。幼女のスペックでしかないのだ。力も体力も。


 あまり森の中でばこばこ魔法を撃つんじゃなかった。魔法を放つ際、魔力が辺りに拡散する。魔力濃度が高まると、強力な魔物が引き寄せられる事がある。より強者を求め、打ち勝たんが為に。


 両者睨み合い、拮抗の状態が続いていたが、魔物の放つ殺気が一際大きく!!



「グルァァア!!!!」


「ふん、殺気がダダ漏れなのは未熟者の証拠よ!」


―――無属性魔法〝プロテクション〟!


―――無属性魔法〝オールエンハンス〟!


 瞬時に身体強化の魔法を自身にかけ、飛びかかって来る敵の姿を捉える。あれは……ウォーウルフ、だな。


 ウルフの上位個体で、戦闘能力、索敵能力に長け、討伐ランクではBランクに相当する魔物だ。体長は3mに届く。また、その太い前足の先の鋭い爪は岩すら砕くとされる。食らったら一溜りもない。普通は。


 今かけた無属性魔法、一つ目は防御力を格段に上げる中等魔法、二つ目はステータスの値をそれぞれ一段階上げる同じく中等魔法。残る魔力は四分の一ってとこか。


 殺意に濁り、ギラつく眼をこちらに向けたかと思うと、常識外のスピードで前足の爪が迫る。

 魔法で高めた俊敏で、間一髪避けた、と思ったが、


「きゃっ」


 あまりのスピードに衝撃波が発生し、土砂諸共吹き飛ばされ、木にぶつかってとまる。幸い、魔法が発動し怪我はない。服はちょっと汚れたけど。


 俺からしたらバレバレの奇襲を避けられた事にイラついたらしい。ティナの親指程もある牙を剥き出しにし、こちらを威嚇する。


 ウォーウルフは再び飛びかからんと、後ろ脚に力を込める。俺もウォーウルフの動きを見極めるために身構える。姿勢を低く、いつでも横に飛べるように。


 だが。ウォーウルフは爪で攻撃するだろうという俺の予想を裏切った。

空中に飛び上がったウォーウルフは、その巨体の中で魔力を練り上げる。


 ウォーウルフは風属性魔法が使える。等級は中等相当。


 まずいっ! 直感的に判断した俺は横に避けるのを止める。あの魔力の流れは中範囲魔法、バースト系に近いものだと判断したためだ。


 尽きかけの魔力、四分の一より少し回復した分を使って


―――土属性魔法〝ストーンウォール〟


 初等魔法で固い壁を作る。壁面を真っ直ぐにしては威力がもろに伝わって初等魔法では到底防ぐ事は不可能だが、魔力操作の要領で、少し曲げてやる。そうすると風は自然と流れるのだ。

 魔法はなにも定型である必要は無い。その場、その場でアレンジする。これこそが魔法の真骨頂だろう。誰も気づかないのであるが。


「グルルルァァア!!!」


 案の定範囲魔法を撃つウォーウルフ。俺の見立て通り、風は曲げた壁に従って横へ流れて行く。


 奇襲を躱され、意表をつくのにも失敗したウォーウルフは魔法を放ったあと一旦後退し、再び加速。爪で土壁を破壊せんと迫る。

 俺はその動きを感知し、壁を壊される前に、〝フロート〟で飛び上がる。


 刹那、ウォーウルフが自慢の爪で壁を破壊する。獲物を仕留めたと勘違いして気を緩めたウォーウルフ。


―――今だ。



 残った魔力を全て使って取って置きの魔法を錬成する。こればかりは今のところ俺しか使えないはず。う、く……うぐ……


 意識が飛びそうになるが、堪える。チャンスはこいつが油断している今しかない! 俺が使える全ての属性が混ざった魔法だ。



―――超融合魔法〝カオスブレイク〟!!



 ウォーウルフは壁の中に俺がおらず、上にいることにようやく気づいたようだがもう遅い。

 禍々しい色と気配と衝撃を放ち、驚きに目を見張るウォーウルフの頭を、



 跡形も無く消し飛ばした。



 ウォーウルフの爪のなんて目じゃないほどの衝撃波が森の中を駆け抜ける。俺もそれに再び吹き飛ばされるが、防御魔法はまだ効いていたようだ。痛くない。


 良かった、倒せた……。

 正直焦ったが……本当に…良かっ……た………



 俺は意識を失い、再びぱたりと倒れた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



あぁ、この感覚、一日ぶりだ。なんだっけ……あぁ、魔力切れで倒れたんだっけ。昔から俺の魔力回復は速かったからなぁ。どうやらベッドに居るようだ。誰かが見つけてくれたのかな?



「う、うーん……」

「っ!? ティナ! 大丈夫か!」


 ん? 誰だ? ここはティナの部屋……だよな。もしや。ティナを演じなければ……こんなこともあろうかと練習した口調を使い、目の前の顔を青くした男……父親だろうか……に尋ねる。


「うん……あれ? お、父さ……ん?」

「そうだ、父さんだ、何があった。教えてくれ」


 ほっ、合ってた。だが、なんて答えよう。うーん。こうした方が計画が速く進むか。よし。


「えと、お……じゃない、ティナは、魔法の練習をしてたの」




「お前……、魔法が使えないんじゃなかったのか」

「えと、何でか使えて……」

「あのウォーウルフもお前が倒したのか?」


 痛い質問。倒したと言うと当然どのように、と訊かれる。それだけは避けたい。〝カオスブレイク〟なんて使える人間がいたらそれこそ悪魔と恐れられる羽目になる。ティナのためにも、それだけは許せない。ここはお茶を濁すしかあるまい……


「いつの間にか……よくわかんない」

「そうか、ゆっくり休め。ただ、これだけははっきり答えてくれ。お前は魔法が、使えていたんだな」

「うん」


 ここでお父さんはタダでさえ暗い表情をさらに曇らせた。まるで今にも泣きそうな、なにかを耐えるような、そんな表情。



「ふぅ……そうか。今まで……悪かったな、ティナ。私は、お前を……」


『お兄ちゃん、替わって!』

『お、おう、復活したか。今替わる』


 ティナが身体に戻ると、目を伏せ一拍置いてから答えた。


「大丈夫だよ、お父さん。ティナはね、何よりも不思議で、大切な出会いがあったの。魔法も使えるなら、何も無くたっていい」


 俺がティナと出会ってから初めて、ティナはハッキリと、きちんと目を見据えて家族と話した。なんか、俺が持ち上げられている気がしないでもない。


「そうか、ティナ、お前が娘で本当に良かったと、今以上に思ったことはない。おやすみ、我が娘よ」

「うん、おやすみ。お父さん」


 灯りを消し、部屋を出ていくお父さん。彼はティナの適性が闇属性だと聞いた時から、娘を愛する気持ちと、それでも村長の娘という立場でありながら闇適性というその身を憐れみ、どこかで疎ましく思う気持ちの葛藤に苦しんできたのだろう。それでも……。


 その後聞こえた慟哭が誰のものか、突っ込むのは野暮というものだろう。


 月を覆っていた雲が流れたのか、窓から月光が差し込み、涙に濡れた床を静かに照らしていた。


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