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3.決意



 ティナのステータスを確認して、ティナとはしゃいでいると、階下からティナを呼ぶ声が聞こえた。夕飯かな。



 魔法が使えると太鼓判を押してもらえてルンルン気分だったティナだが、1階に降り、既に食卓についていたダークブラウンヘアーの男の子を見ると途端に表情が曇った。


『誰だい?』

『ティナのお兄さん。ティナに意地悪ばかりしてくるの』

『ほう』


「来たわね、今日お父さんは忙しいから三人で食べるわよ」


 なんだ、ティナの父親を一目見たいと思ってたんだけど。明日にでも会えるか。

 ティナとお母さん、お兄さんが食卓につくと、お兄さんは自分の前に置かれたパンと野菜のスープを見てこう言った。



「おい、妹よ、お前なんも出来ないんだから、俺にお前の分の飯よこせ」

「はいはい、ジル、あなたのは多めに取ったからね」

「やだよ、俺腹減ったんだよ! 無能のこいつと違って、魔法の練習をしてたんだ」

「我慢なさい、去年は収穫が悪かったって言ったでしょう? どこも厳しいのよ。12歳になった優秀なジルならわかるわよね」



 ふむ、収穫が悪かったとな。この感じだと去年どころか最近不作が続いているのかも知れないな。力を貸すか……?



「ふん、仕方ないから我慢するか。俺は優秀だからな」

「えらいわね。さぁ、食べなさい」



 お母さんはゆっくりと、ジルはガツガツと、ティナはパンをぽそっと齧って食べ始めた。


『はは、なるほど確かに意地が悪い。主に食い意地が』

『そうなの』

『だが、もうティナは無能なんかじゃない。言われても気にするな』

『うん、わかってる』

『えらいえらい。でも普段ジルは何やってるんだ?』

『えとね、村のみんなの畑を手伝ったり、適性が水属性だから、練習ついでに水やりしたりしてるの』

『適性は水属性か。学校とかはどうした?』

『お父さんがお金ないって』



 金がない、か。単純だが深刻な問題だ。

 学校のほとんどは辺境の地になど存在しない。日本みたく義務教育がある訳でもないから結構な額の金も払わないといけない。これは魔族の世でも同じだった。


 まぁ、人間の世で金を稼ぐなら冒険者をやるのが手っ取り早いな。実力さえ有ればいくらでもかせげるのが良いところ。


 ただ、俺が殺されてから何年経ったのか、果たして本当に俺がいた世界なのか、さっぱりなせいで、俺の知識が合ってるのかがわからん。ティナにきいても知らないって言うし。あー、情報が欲しい。



『ティナは学校行きたいのか?』

『うん、魔法が使えるなら行きたいけど……』

『金なら何とかなるかも知れない』

『ほんと!?』

『あぁ。でも、まずは魔法の練習だな。早速明日から始めよう。食べ終わった?』

『うん』

『じゃ明日に備えて早く寝ようか』



 俺達が脳内で喋ってる間、ティナは一言も声を発していない。ジルの方は魔法がどう上手くいったとか、誰々のおじさんに褒められたとかといった自慢話を延々とお母さんに披露していた。ティナはもはや空気である。やはりジルの方に期待を寄せるか……


 ティナが、食器を洗って片付けると、お母さんはやっと気づいたように、


「あ、ティナ、桶に水溜めて身体拭いてから寝るのよ」

「わかってる」



 ティナは素っ気なく返事をした。


 やっぱ風呂ないよなぁ。日本生まれとしては風呂に浸かりたいよな、もう死んでるんだけど。魔王してた時はわざわざ部下に命じて作らせたくらいだ。

 でも無いなら無いで、次善策がある。



『待って、ティナ。桶の水よりもっといい身の清める魔法があるんだけど、やっていいか?』

『え、魔法? いいよ!』

『よし。なら部屋に戻って。服はそのままで良いから』

『りょーかい!』



 ティナはちょっと元気になったみたいだ。ティナがとててーっと階段を駆け上がり、部屋に戻ると、俺は早速、ティナに繋いだパスから魔力を送る。

 俺がパス経由で魔力を送れば、多少手間はかかるし、威力も落ちるが、ティナが使えない魔法も代わりに使うことが出来るようだ。



『それじゃ、いくよ。ティナはじっとしてて。俺からティナに魔力を送る。これから何度か使うことになる方法だから慣れてくれ』

『うん!』



―――融合魔法〝ベイズクリーン〟



「ふわぁぁー」


 某入浴剤みたいな言葉を俺が念じた瞬間、ティナの身体から、温水ミストと、温風が魔法の光と共に煌めいて放出され、ゆっくり回転しながら、ティナの全身を覆う。

 ものの10秒もすると、光は拡散し、残ったのはさっぱり気持ちよさげなティナと白いワンピース……え? ベージュじゃなかった? まさか砂汚れだったのか? 疑問はすぐ解消した。



「すごい気持ちよかった! 服まで白いのに戻ったよ!」



 あ、マジですか。ずっとコレ着てたんだ。なのに嫌な素振りも見せず……。おじさんは健気なティナがいじらしくて泣きそうな気分だよ、ずびっ。


 一方、よほど嬉しかったのか声に出して喜ぶティナ。両手をあげ、くるくるしている。白い輝きを取り戻したワンピースがひらひら舞う。



「今のなんて魔法?!」

『今のは融合魔法、〝ベイズクリーン〟だよ。俺が編み出した。火属性と風属性と水属性を混ぜたんだ』

「え。そんなこと出来るんだ……」

『まぁね、なんたって魔王様だからな。……一々教えるのも面倒だから、これからは魔法名を言っていくよ。それで覚えてくれ。でも詳しくは明日。さぁ子供は寝る時間だよ』



「えー、むぅ。おやすみなさい、まおーさん……ううん、ステル兄ちゃん!」

『なっ、』

「うふふ」


 灯りを消し、ベッドに潜ったティナが唐突に発した言葉に、息を呑む。……なにこのサプライズ。可愛すぎだろ……





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





―――ふむ、ティナは寝たようだな。



 今日は濃い一日を過ごせた。今日のティナを見る限り、彼女は強い子だ。

 とはいえ、闇属性の適性であったがばっかりに、無能呼ばわりされ、疎まれるのは苦しい日々だったはず。安易な同情と言われるかも知れないが、せっかく降霊してくれたんだ。主が困っていたら助けるのが道理だろ?

 

 おまけに年端もゆかぬ幼女だし。どうして辛い目にあっているのを見過ごすことが出来ようか。魔族の事を人間は悪魔だのなんだの呼ぶが、こういう、異分子排斥の面では人間より恐ろしい動物はいない。


 魔族達だって怖がりはするものの、その者のひととなりをしっかりと見極めて、上手く付き合おうとする。多少暴力的な傾向があるのは否定出来ないが。




 夜は長い。俺はどうやら、霊のくせに眠る事が出来るらしい。だが、その前に考察しておきたい事案がある。



 一つ、なぜ、ティナが高等闇属性魔法〝降霊〟が使えたのか

 二つ、俺は、俺自身は、何を望んでいるのか



 一つ目、まず闇属性が使えるのは偶然だとして、思い当たるのは、魔法は使用者の想いが反映されることだ。怒りすぎて理性を失うと魔力が暴走するとか、焦ると不安定な魔法しか出ないとか。


 ティナの不遇な生活と魔法を使いたいという、強い想いが、俺を降霊させたのか。こじつけだし、憶測の域を出ないが、恐らくこれが1番近いと思う。



 次に、俺は何をしたいのだろう。


 魔王になってから一番頑張ったことと言えば、人間と魔族の和解だろうか。


 思えば転生する前から自分で何かしようと思った事はほとんど無かった。周りに、親に、友達に勧められるがままに習い事、勉強、趣味を始めたが、結局どれも中途半端だった。

 人間と魔族の和解だって、その対立があると知ってから、部下にどうするかときかれて、人間を殺したくないというだけで始めた事だ。


 3度目のチャンスを得てなお、同じことを繰り返すのは御免だ。はっきりここで決める。




―――考えた。決めた。



 俺は、ティナを助け、誰にも負けない魔法使いにすると共に、闇属性魔法の強さを、有用さを、世に示し、その偏見を取り除く!


 そしてあわよくば、魔族と人間、だけとは言わず、種族関係なく暮らせるような国を、世界を、転生魔王ステルの名にかけて! 実現してみせる!!



 いつの間にか窓から見える空が白み始め、太陽の淡い光が、瞬く星々を呑み込み始めていた。


 (もう朝じゃねぇか……寝よう…ぐぅzzZZ)


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