2.帰宅
『ふぇ? こーれいって何?』
『ティナがティナの身体に俺の霊、いや魂と言った方がいいか、を呼んだんだよ』
『そんなこと……魔法なんて使ったこと無いのに』
『人間には使えない闇属性の適性だから、魔法は使えないはずなんだけどな、ティナは特別なのかもしれない。それに、ティナの叫びが聞こえたんだ、助けてってね。だから来れたんだと思う』
しかし、実際、降霊というのは、本来魔族しか出来ない芸当なのだ。しかも結構な熟練度が必要になる。でないと降霊した死者の魂に呑まれるからな。闇属性が使えない人間、さらに確かな知識も無い幼女がおいそれと使える魔法ではない。
『え、あ、ありがとう助けてくれて……。でもずっとこのままなの……?』
『いや、今は俺が魔力を使っているから、それを止めればティナは戻れるはずだよ』
『まおーさんは帰っちゃうの?』
ティナはちょっと寂しげ。
『居て欲しいなら今みたいに頭の中で話が出来るように繋いどくよ? なんだって魔王だからな、ちょちょいのちょいと』
『あ、じゃあ、それで……』
『ほいきた』
ご要望にお答えして、身体の中の魔力の流れを意識する。魔力は、胸あたりにある魂を中心に身体中を巡っている。今は俺の魂の中から魔力を供給しているのだが、その放出を止める、と同時に深層のティナの魂を引き出し、魔力供給を再開。俺の魂はティナとの〝パス〟を繋いだ状態でティナの魂に代わって深層に。
俺の五感が消え、意識だけが残る。何も見えないのは困るので、繋いだパスから視覚と聴覚を共有する。これでティナの周りで起こったことにも手助けが出来る。
ティナは魂を戻されたことで、俺と身体の主導権を交代する。辺りを見回し、自分の身体をぺたぺた、手をにぎにぎして、感触を確かめる。
「まおーさん! 戻ったよ」
『あぁ、違和感はないか?』
「だいじょーぶ!」
『なら良かった。俺はティナの目を借りて外が見える。何かあったら助けてやるからな』
「うんわかった」
そんなこんなしている内に日が暮れてきたようだ。ティナの家の人も心配することだろう。でも一つ確かめておかないといけないことがある。なぜ、虐められていたのか。予想はついているが。
『ティナ、夜になる前に家に帰ろう』
「う、うん」
ティナはとぼとぼと歩き始めた。
『ティナ、きいておきたいことがある。ティナは闇属性の適性があるせいでさっきみたいに……なんというか痛い目にあっているのか?』
「そう……みたい。魔法が使えない無能だからって」
『確かに、闇属性は魔族の多くが使う魔法属性だからな。人間に適性があることが少ないから仕方ない。今までよく頑張った』
偏った知識が間違った先入観を生む、その典型例だな。闇属性とて、悪いものばかりではない。むしろ便利。人間が使えないのはその種族故。魔族は逆に光属性は使えない。これは神のみわざとも世界の均衡とも言われるが実際のところは定かではない。
「うん……」
少し気分は楽になった様だが、ティナは相変わらず俯いたまま。
「でも、みんな魔法使えて、ティナだけ使えないのは悔しいの」
『それなら心配ない。この俺、魔王様が直々にティナの魔法を鍛えてやろう。すぐ出来るようになるさ。素質は十分あると思う』
「ほんと?」
ティナは右上の、何も無い空間に向かって問いかける。傍から見たら独り言だよなぁ。さっきから周りの村人誰も相手にしていないけど。まるで初めから居ないかのように。先程の少年たちも絡んでこない。殺気によほどビビったと見える。
『あぁ! もちろん! ティナを世界一の使い手にしてやるからな』
「そ、そこまでしなくても……」
ちょ、ちょっと言いすぎたか。ティナが若干引いている。だが、少しは元気づける事が出来ただろう。
『そうだ、ティナ、俺に話しかける時は何も声に出さなくてもいいんだぞ。頭の中で声を出す感じで話しかければいい』
「え、『こ、こう?』」
『お、いい感じだ。ん? ここがティナの家? 結構立派じゃないか』
『そだよ、お父さんが村長なの』
まじか、村長の娘だったとは。さぞかし立場的に辛かろう。
「ただいま」
ティナが言うと、奥から母親と思しき女性が出てきた。ティナと同じサラサラとした綺麗な金髪の美人だ。エルフみたいだな。スリーサイズがキニナル。そう言えばティナの顔まだちゃんと見れてないな。鏡が無いんだもん。あとで作ろ。
「おかえりなさい、ティナ。どこ行ってたの?」
「ちょっと散歩してただけ」
「そう、あと少しでご飯だからね」
「うん」
ティナは2階に上がっていく。
『……言わないのか?』
『うん』
『そうか』
あの様子だと知らないんだろうな、ご両親。察してはいるだろうけど、踏み込めないというか。ティナはティナで話したくないようだし。俺にも少しわかるこの気持ち。親には言いにくいよな。身近な人にほどこういう事は話しづらかったりするもんだ。
だけど、発散する所がなければ、それはそれで精神が参ってしまう。誰か確かな味方がいるってのは例え意識していなかったとしても心強い。
『俺はさっきも言った通り、ティナを助ける。今や俺たちは二人で一人だ。抱え込まず、相談してくれ。俺もする。助け合いだ』
『ん……わかった。ありがとう』
ティナは階段を上がると、一つの部屋に入った。ここがどうやらティナの部屋らしい。村長宅とはいえ、装飾の類はほとんど無い。
至ってシンプル、質素で、女の子らしいと言えば、壁にはられた絵くらいだろうか。絵には魔法を使っているおそらくティナ自身が描かれている。それほどまでに魔法が使えないことに苦悩していたのだろう。
それにしても、この村は中々に貧乏なようだ。村長の家でこのレベルでは他の家はこれより酷いのか。元魔王そして、元一般家庭の日本人としては厳しい住宅環境に思えてならない。
だが、ティナは慣れきった様子で、部屋に置かれたベッドにぼふんっと、腰掛けた。
『あ、あまり、部屋じろじろ見ないでね?』
『あ、あぁ、了解』
恥じらう幼女はまるで麗らかな春の日に咲く可憐な一輪の花のよう……、あ、この世界にも四季があって、今は春の終わりくらいってとこかな。
『あ、ティナ、落ち着いたところで、〝ステータス〟見せてくれないか?』
『あ、うん、わかった。〝ステータス〟』
ティナの目の前にステータスボードが展開する。どれどれ……
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ティナ
Lv.1
筋力 F-
体力 F
俊敏 F
魔力 D+
魔法適性 闇属性
称号 力を求めし者・降霊者
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ふむ、魔力はレベル1にしてはそこそこ高い。魔力適性は言っていた通り闇属性。称号は力を求めし者、か。望みが叶ったじゃないか。かなり非常識な方法ではあるけれど。
『ふむ、悪くない。魔力も高い。ティナはきっと良い魔法の使い手になれる! 魔王の俺が保証する!』
『ほんと!? やった!』
ベッドのうえをポンポン跳ねるティナ。魔法に関しては頗る反応がいいな。将来に期待が持てそうだ。俺が手助け出来るならしてやりたいが……どうしようか。
そんなことをぼんやり考えていると、いつの間にか太陽は半分ほど沈み、紫がかった空には、明るい星々が静かに瞬き始めていた。