14.再会
お久しぶりです(約1年?)
前回のあらすじ
冒険者登録をすべくギルドに入った俺とティナだったが、闇属性適性と聞くなり態度を豹変する受付嬢。それに乗せられ寄ってたかってティナを責め立てる冒険者達。しかしそこに救いの手が差し伸べられる。その者はエヴェリーナといった。彼女が世間で人斬り剣聖と呼ばれる所以とは。
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「―――つまり……魔物に掴まれた仲間を助けるために、しかたなく斬ったってことだよね……?」
「そういうことね」
リーナは少し困った表情を浮かべて肯定した。
「そんなのリーナは悪くないよ?」
「ええ。普通の人なら笑い話で済むかも知れない所だけど、私は曲がりなりにも剣聖の家系の出だからね。味方を傷つけるという事は、たとえどんな状況でもあってはならない事なのよ」
「そんな……」
剣聖というお家柄、国王の元で国民を守る使命を受けた者の一族としては、そのような行為はタブー視されるのだろう。
「その仲間の人はどうなったの?」
「幸い傷は軽く済んだし、長い付き合いだったしね、責めるどころか感謝されたわ。今でも彼だけは昔と変わらず接してくれるのよ」
リーナは先程とは打って変わって嬉しそうな顔でそう言った。
「へぇ……良かった!」
ぱんっ!
会話が一段落着いたところでリーナが、一瞬天を仰いだ後、鬱蒼とした気分を晴らすように手を叩いて口を開く。
「さ! 私の話はこれくらいにして。ティナちゃん、貴方のことを聞かせてもらうわよー! うふふふふふ……」
「え、うん」
相変わらず気味の悪い笑い方だなぁ……。ティナも気の所為か若干顔がひきつっている。
「やったーー! そうね! まずどこから何しに来たの? 王都の住民じゃないみたいだけど、まさか一人で来たの? えーと、あっと……」
堰を切ったように怒涛の質問ラッシュを掛けようとするリーナ。だが訊きたい事が多すぎて処理しきれぬようだ。一休さんみたいに両手の人差し指をこめかみに当てグリグリしている。
隙を見てティナが答える。
「えっとね……とおーくの村からお父さんと一緒に来たんだよ」
「お父様? お姿が見えないけど」
「なんか、ぜい? をおさめにいったって言ってたよ」
ティナはうんうんと自らを肯定するように頷く。
「そっかー。娘さんの一大事なのに何していらっしゃるのかしら……って、あっ、今のなしなし! ひとのお父様を悪く言っちゃダメよね!」
あ、うん、それは俺も思ってるよ。後でこってり絞りたい、ラーメンが作れるくらいには。
「仕方ないからここで一緒に待とっか! 私ももう少しティナちゃんと居たいし! くふふ」
「うん、リーナ、ありがとう」
後半が本音だな、ばっちり。
リーナは俺の心の声なぞ知る由もなく顔を綻ばせて質問を再開する。
「まだまだ訊きたい事もあるんだから……んーと、ティナちゃんはなんd――――」
「え?」
『お?』
リーナの声が突然途切れた。
「リーナ……?」
彼女がいた方を見るが、姿まで消えている。いやリーナだけじゃない。周りに沢山いたはずの通行人、商人、冒険者、が一人もいない。
「お、お兄ちゃん……何が起きたの……?」
ティナは両手を胸の前で握りしめ、不安げに辺りを見渡す。
『落ち着けティナ。魔王の俺がついてるから心配するな』
大口を叩いては見たものの……なんだこれは。話している間に魔力の錬成を試みたが雲散して上手くいかない。ティナとの主導権交代もだ。
まずい。魔法が使えないという事は今のティナの完全無防備を意味する。どうする、どうする?
冷たい汗が背中をつーっと流れる感覚に襲われる。
「お兄ちゃん……?」
はっ。
ティナには言っておきながら自分が冷静でなかった。情けない。確かに今は非力ではあるが、無力ではない。考えるんだ。
『すまん。大丈夫だ。さっき試してみたがどうやらここでは魔法が使えないみたいだな。ティナとの交代も出来ないようだ』
「え、そんな……えいっ。んー」
ティナ自身も魔法の使用を試みるが……同様の結果に終わる。
何者かが俺たちを別の空間に捕らえた、と考えるのが自然か。となると、魔法が使えないことも踏まえるとこれは……
『固有結界、だな』
「こゆうけっかい?」
パチパチパチ――
拍手。上からだ。
「お見事です、小娘。やはり只者ではないようですねぇ?」
丁寧な口調に侮蔑を込めた賞賛。この感じ……
不意に人影が現れ、声がした上の方からすーっと音もなく目の前に降りてくる、白スーツに身を包んだ長身の男。漆黒の髪に褐色肌に尖る牙と耳。
俯き気味で顔はよく判らないが、燃えるように煌めく紅い瞳を持つ切れ長の目だけは、ティナを射抜かんとするかの如く威を湛えている。
『魔族か……』
「まぞく……」
ティナの漏れ出た声に、その男はニッと不気味な笑みを浮かべた。リーナの方がよっぽどマシに思えるくらいの。
ティナが思わず身震いする。普通なら悲鳴をあげて逃げるところだが……さっきの俺の言葉は案外ティナの勇気に力を与えたらしい。とにかく、今はこの魔族の出方を見るとしよう。
「くっくっ……ご名答。いかにも我は魔族、ヒトとは異なる存在。然し小娘、アナタも少々異質な魂を抱えているようですねぇ?」
「えっ……」
『魔族には魔力の流れが視えるんだよ。ヒトにはぼんやりと感じることしか出来ないものだが彼らにはくっきりとその存在を目視できる。だから俺とティナの繋がりも視えるわけだな。……そうか。こいつが使ったようだな、固有結界を』
『固有結界ってなぁに?』
『最上位魔族がもつ特殊能力さ。彼らは敵を自らに都合のいい環境に閉じこめた上で殺す。固有結界内では、ある程度かけた本人の思い通りになるんだ。魔力を使えなくしたり、重力を消したり、な』
『すんごい……』
「あんまり我を無視しないで欲しいものですねぇ? アナタには問い質したいことが山ほどあるのですから」
訊かれてばかりだな今日は。どうやら直ぐに手を出すつもりではないらしい。
魔族が姿勢を戻して息を吸い込んだその時、
「おいサラトゥス、何ちんたらしてんだ」
また別の声が、女の声がどこともなく聞こえた。いやまてよ、今サラトゥスと言ったか?
「あれからまだ数分ですよ。なんでそう落ち着きがないのです。それにヒト前で名前を呼ぶなとあれほど申し上げましたのに……全く」
上の方に向かって返事をした魔族もといサラトゥスはやれやれと言ったふうに首を振る。
「細かいことはいいじゃないか、あんたは固すぎんの! もっと軽く訊きなよ、あんた魔王様知らないかって」
魔王様だと?
「はぁ……。彼女の言う通り、アナタには魔王様と何らかの関係があるのでは、と疑っているわけです。魔族を目の前にして恐れも喚きもしないアナタにね」
ふっ……なるほどね。大方流れは読めた。
『ティナ、魔法を使わせてくれたらわかる、と伝えてくれ。そのあと交代だ』
「うん。魔族さん、魔法を使わせてくれたらわかるって」
「ほぅ? まぁいいでしょう。アナタの魔力量程度なら我々に傷を負わせることは叶わぬでしょうしねぇ」
サラトゥスが指を鳴らすと、今まで何かが纒わり付いていたような感覚が消え、魔力の流れが鮮明に感じられるようになった。
よし使える。
交代。
手をにぎにぎ。
「よぉ、サラトゥス。久しぶりだな」
少し魔力を乗せた馴染みの口調で話しかけた。
「これは………間違いありません。魔王様、魔王ステル様、お久しゅうございます」
サラトゥスから今までの威圧感と見下す態度は綺麗さっぱり消え、膝を付いて平伏の意を示した。
「な!? 魔王様本当に居たの!?」
歓喜と驚嘆の声が響く。
『お兄ちゃんの知り合いのひと?』
「あぁ。かつての部下だ。二百年前のな」
「その通りでございます。我の名、覚えていて下さり大変嬉しゅうございます」
「あぁ、俺からしたらつい最近までの事のような感覚だがな。お前も元気そうで何よりだ。して、さっきから響くこの声の主はリゼか?」
「はい、かのリゼコルレシナにございます。かつての四天王も残るは我ら2人のみとなりました。来たる魔王様復活をお迎えするべく、長き眠りについておりました」
「そうか。先日俺が使った魔力を感じとってここまで来たんだな。苦労をかけた」
「はっ、勿体なきお言葉でございます」
「ちょっとサラトゥス! そこに魔王様が居るんだろ! 私にも合わせてくれよ」
サラトゥスが再び指を鳴らすと、もう1人のかつての部下、リゼコルレシナが現れた。
俺がリゼと呼ぶこの女魔族は、サラトゥスより頭二つ分背が低いものの、見事なボンキュッボンの身体を露出度の高い衣装に身を包んでいて、肌は艶やかなピンク、髪は鮮やかで毒々しい紫色。長いそれをリゼは半ば辺りで無造作に縛っている。
そんなスタイルと外見だが顔は童顔で、魔族特有の紅い瞳は大きく、長い睫毛に縁どられた目は、サラトゥスとは対極的にぱっちりと開かれている。これが彼女のコンプレックスらしい。
『可愛い!』
『そうだろ』
そう可愛いのだ。おかげでよく敵に舐められる。いいと思うのだが。
転移されてきたリゼは一瞬遅れて状況を飲み込み、ティナから放たれる俺の魔力を認めると、大きい目をさらに大きく見開いて、
「まぁおうさまぁぁぁぁあ!!!」
飛びついてきた。
まともにぶつかったらティナが無事じゃないのでサッとかわす。
「ぐへぇ!」
可愛い行動とは裏腹に残念な声をあげてノックダウンするリゼ。
「「やれやれ……」」
ため息をつく俺とサラトゥス。
ちなみにここまでテンプレ。ことあるごとに飛びついてくる癖があるのだ、リゼには。
『え、大丈夫なの? このお姉ちゃん』
『大丈夫大丈夫。頑丈だから。頭の中身が大丈夫かは分からん』
『ふぇぇ……』
「ところで魔王様、どのような経緯かご説明願えますか?」
サラトゥスは、伸びたリゼから視線を外し、慣れたように話題を転換する。
「実は……かくかくしかじかでな」
便利だよなこれ。
ぐず、と話している間に覚醒したリゼが鼻水をすする。
「左様でしたか……。しかして、何故魔王様はこのヒトをお助けになろうと?」
「そうだなぁ……」
言えばなんとでも理由付けはできよう。成り行き。正義感。同情。気まぐれ。
だがここは。
「元魔王のリベンジ、てところか」




