13.剣聖
新キャラ登場です!
冒険者ギルドの中には長机と長椅子が整然と並べられ、突き当りに受付、左右には二階への階段も付いている。
俺のイメージではもっと殺伐としているものだったが、意外と清潔で、楽しそうに酒を飲んでいるのがほとんどだった。
男女比は圧倒的に男が多い。これはもう職業柄というものか。
ティナもあちこち見ながら、受付に進む。すると、その様子を見た、若い受付嬢が話しかけてきた。
「こんにちは、冒険者ギルドは初めてですか?」
「あ、えと……」
営業スマイルで、にこやかに話しかける受付嬢だったが、ティナは知らない人に話しかけられるのは、まだ慣れないらしく、返答に詰まっていた。
『ティナ、なんなら代わりにやろうか』
『ティナがやりたい……けど、無理かも……』
『あはは、無理するな。これから慣れていけばいいさ』
俺はティナと交代する。
手をにぎにぎ。
ちょっとぶりの幼女の身体だ。俺もだいぶ慣れたと思ったのだが、やはり記憶との違いが、微妙な違和感を生む。これも仕方の無い事だ。
「えと。はい、初めてです」
「そうですか、依頼ですか?」
「いえ。登録を」
「わかりました。ではこの紙に名前と、ステータスと魔法適性を書いてください」
うわぁ、やっぱ魔法適性書かされるじゃん。嘘は書けないのか? いやダメだ。後で戦闘試験があるとしたら闇属性しか適性がないティナが嘘を書くと俺が戦うことになる。
ま、反応を見て紹介状を出すなりして対応するか。
俺は差し出された紙に、同じく渡されたペンで必要事項を書いていく。
「へ?」
名前を書いたところで、受付嬢から間の抜けた声が聞こえた。
「なんですか?」
「あ、すみません。これはなんという文字ですか? 私、五種類の文字を知っていますが、こんなのは見た事がありません」
「あ、」
しまった。つい二百年前の魔族の字を書いてしまった。
この国で使われている文字は、昔俺が使っていたのとは違うものか。
看板の文字は残った転生特典で読めたのだ。そのせいで気づかなかった。
俺、文字書けねぇ。
受付嬢は不思議そうに俺の顔を覗きこんでいる。
俺は少し目をそらしながら、ティナに問うてみる。
『ティナは文字書ける?』
『無理……』
『まじか』
ま、仕方ない。代筆してくれるだろう。
「あ、えと、昔の文字を真似して書いてたからつい……」
えへへ〜と笑いながら誤魔化す。
「ふふっ、そうでしたか。では代筆しましょうか?」
「お願いします」
「お名前は?」
「ティナと言います」
「ステータスを教えて下さい」
最近見てなかったな。魔力はどうなっているだろうか。
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ティナ
Lv.23
筋力 F-
体力 F
俊敏 E-
魔力 C+
魔法適性 闇属性
称号 力を求めし者・降霊者・魔王の愛弟子・報復者
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ふむ、俊敏はFからE-に。魔力はD+からC+に。称号には、他人に見せられないのが含まれているが二つ増えた。
何より上がったのはレベルか。
レベルは上げても、自身の能力が変わることはない。ただ、戦闘経験が多ければ多いほどレベルは高いので、レベルはその試金石というわけだ。
さらに、敵とのレベル差が大きすぎると、こちらからのダメージが大幅にカットされてしまう。
逆に敵のレベルが自分より格段に低いと、与えるダメージもその分増加する。
そういう理不尽な差が出てしまうのがレベルなのだ。
「えと、レベルは23で……」
「え! レベル23ですか? 中堅冒険者並ですよー!」
へぇそうなんだ。多分ウォーウルフのせいだろうな。
確かにあれを倒せと言われたら、なりたてホヤホヤの冒険者では役に立たんだろう。
順にステータスを言っていき、受付嬢がそれを手元の紙に記入していく。
「はい、分かりました。魔力も高いんですねー! では、魔法適性はどの属性でしょうか?」
期待の新人とも思っているのか、さっきにもましてにこやかさを増す受付嬢。
「……闇属性だけです」
ピシッと空気が、受付嬢の表情が、時間が、止まったような錯覚を覚える。
半ばわかっていたことだが、冷や汗が背中をツーっと流れた。
「帰ってください」
受付嬢は、突然表情を固くし、まるで虫けらを見るかのような目で冷ややかにそう告げた。
「え、でも、レベルで分かる通り、戦えますよ。なんなら採集から始めても……」
「帰ってください。無能の闇属性が入れるほど冒険者ギルドは甘くないんです。
採集と言ったって魔物も出るでしょう。闇属性適性で戦えるなんて冗談も休み休み言えってんですよ。どーせ、誰かに寄生したんでしょうが」
なんか素が出てませんか……
『どうするの? お兄ちゃん……』
『この時の紹介状だろ? こうなることは読めてたし』
「ちょっと待って話を聞いてください。ここに両親の紹介状もあります。見ればわかりますから!」
「問答無用です! なぜそもそも闇属性適性で冒険者ギルドの門を叩こうとしたのか甚だ疑問です! あなたのご両親は随分と世間知らずなようですね。そんな人の紹介状なんかあったって意味が無いんです。さぁ帰って!」
「ちょ、ちょっと」
他の受付嬢に助けを求めようとするも、皆、同じ見下すような目をしている。
取り付く島もねぇじゃねぇか。お父さんの嘘つきぃー!
受付嬢が大きめの声を出したので、周囲にいる冒険者にも、ティナが闇属性適性であることが聞こえてしまったようだ。
「おいおいお嬢様ちゃん、闇属性しか適性が無いのに冒険者やろうなんて、おいたが過ぎるんじゃないかー?」
「はっはっ、度胸だけは立派だな、おい! お、よく見たらえれぇべっぴんじゃんかよぉ! どうだ、おじさんといいことしねぇか? ぎゃはは」
こんな声があちこちから聞こえる。あからさまに口に出さないで、こちらを見てくすくすと笑う奴もいた。
『ふぇぇ、お、お兄ちゃん……』
ティナの声が震えている。
俺も、怒りと羞恥に顔を俯ける。
まさか、ここまでの仕打ちを受けるとは思わなかった。
何だ、このある種の洗脳でもされたかのような偏見の持ちようは。
なにかに操られたかのように、急に態度が豹変した。
闇属性に適性があるからってここまでするか?
相手は年端も行かぬ幼女だぞ?
幾ら何でも限度というものがあるだろう。
何故ここまで……。
怒りが湧き上がるも、それを上回る無力感が俺を襲う。
その時、コツコツという足音が聞こえ、俺の目の前で止まったので、顔を上げてみると、艶やかな長い赤髪を揺らし、銀色に光る鎧を身にまとった女の子の後ろ姿が目に入った。
その子は、左腕を俺を庇うように広げると、俺をなじっていた冒険者達に向かって言った。
「やめてやれ! お前達はそれでも大人か! こんな痛いけな少女を寄って集って……!」
「はっ、何言ってんだ人斬り剣聖様よぅ! 無能は無能同士かばい合うってか? ぎゃはは」
人斬り……?
「くっ……、あなた、動ける? ここから出るわよ」
俺を庇ったその騎士風の女の子は、悔しそうな声を上げると、振り返って俺に優しく話しかける。
スっと通った鼻梁に、キリリとした目に黄色い瞳。まつ毛が長く、幼さが残るその顔にも、大人の魅力を醸し出す。
一目見て、可愛いと思った。さっきの威勢の良さも彼女の魅力を引き立てていた。
「う、うん」
突然だったのと少し見とれていたので、煮え切らない返事になってしまった。
が、彼女はそんなことを気にも留めて居ないようで、白い歯を見せ、にっと笑うと、俺の手を引っ張って冒険者ギルドの出口へ歩き出した。
『怖かった……。この人、美人さんだね』
『あぁ、助かったな。……年齢がよくわからんが美少女と言った方がいいんじゃないか』
『そうなの』
『美しいと言うよりは可愛いに一票だな』
『むぅ、』
俺達が脳内で会話をしている間も、彼女は、脇目も振らず、ずんずんと出口へ進む。
俺は小さい身体で、とてててーっとついて行く。
周りの冒険者達はまだけたけたと笑っていたが、無視だ無視。
彼女は、ギルドを出て、噴水の前まで来ると、俺を座らせ、その横に腰を下ろした。
「大丈夫だった?」
「うん、ありがとう、おかげで助かりました! ティナって言います。お姉さんは?」
「無事なら何より! 私はエヴェリーナ・エル・ユースティア。
一応……剣聖の家系の出よ。お姉さんなんて照れるから、リーナって呼んで頂戴! あと、敬語もなし! そっちの方が可愛いわ!」
「あ、は……うん。わかった、リーナ」
「あぁんっ、こんな小さい子にリーナって呼ばれる日がくるなんて……っ!!
〝人斬り〟なんて呼ばれ始めてから誰も寄り付かなくなったから、寂しかったのよー!」
うふうふと笑いを零しながら、くねくねと身体を捩らせ、頬を染め、恍惚とした表情を浮かべるリーナ。
「………」
『………』
なんか、三重人格でもあるかのような変わりようだな。俺達はリーナに憐れみに近い視線を向ける。
さっきの可愛いは撤回だ。
『ティナ、喋れそう? こんなやつだけど』
『この人なら……いける』
『なら変わるから、〝人斬り〟ってなんなのか訊いてくれ』
『うん』
すっかり慣れた交代の作業。今は2秒あれば変われるようになった。
「あ、あの、リ、リーナ?」
ティナは少し緊張しつつも、上目遣いで尋ねる。
「あっ、ごめん、何かしら? なんか急に塩らしくなっちゃって。(はぁはぁ、上目遣い、良いわ!)」
「ん? えと、さっきの〝人斬り〟って何なのか訊きたいの」
リーナは、黄色い瞳でティナの顔をしばらく真面目な顔で見つめたあと、ふぅ、と息を吐き、
「あなたになら、話しても良いわね。少し長くなるけど聞いて頂戴。私が〝人斬り剣聖〟なんて呼ばれている理由。それは―――」
リーナは、ぽつりぽつりと話し始めた。
冒険者生活スタート……出来ませんでした。




