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1.降霊

足を運んで下さり、ありがとうございます┏○))ペコリ





―――何だろう……随分と長く眠っていたような……



 ん……? なにか聞こえる……?




―――…………て!!



 何だ……?



―――…すけて!



 ……聞き取れん、もう一回言ってくれ!





―――助けて!!!!!






 闇の中に沈んでいた俺の体を浮遊感が襲った。朝、目が覚める時のあれだ……。だが、意識だけがそこに存在するみたいに、まだ知覚がぼんやりしていて、何が何だか分からない……痛っ! え、何、痛い! や、やめっ



―――この魔族もどきが!!


―――なんで俺たちの村にいるんだよ!


―――出てけー!



 三者三様のなじる声が聞こえる。子供か……? こいつらが俺の身体にダメージを与えているようだ。なんでまた寄って集って……だから痛い! やめろ!



 目も見えない。声を出そうにも出せない。手足も動かせない。入ってくる情報は微かに聞こえる罵倒の声と痛みだけ。


 こちとら動けないし話せないし、文字通り右も左もよくわからない状況なのに、口撃と攻撃を緩めようとしない子供三人に、俺のどこかがぷちっと切れた。

 


 ………痛いって言ってんだろうがっ!!



 ――――!!!



 流石に腹が立ったので俺は周囲に軽く殺気を放った。放ち方なんてわざわざ考えなくても体が覚えていたようだ。



「う、うわぁぁぁぁあ!!!」

「な、なんだ!!?」

「逃げろー!!!!」




 慌てて走り去る足音が聞こえてくる。あ、転んだ。さっきよりだいぶハッキリと聞こえるようになったな……。

 お、身体の感覚も……俺は目を開けてみる。だが、眩しくて顔を上げられない。

 視線を下げると乾いた地面が見えた。頬に感じる冷たくゴツゴツザラザラした感触。


 俺はどうやら地べたに転がされて踏んだり蹴ったりされていたらしい。なんて酷い。

 ところどころ痛むが、とりあえず身体を起こしてみた。


 よーし、段々視界が……くっきりと………



「……ん?」



 ん? 目線が低い……? いや待て今なんか声が……



「あ、ああ……」



 なんか……幼くね?


 ………と、と、とりあえず置かれた状況を確認しよう……。きょろきょろ辺りを見回す。

 金色の髪の毛が視界に入る……がとりあえず無視っ!


 目の前に広がるのは畑。後ろには森。

 周りには誰もいない。自分の手を見てみる。なんか小さい。

 手だけじゃない、髪の毛といい、砂はついているが透き通った白い肌といい、どこもかしこも見覚えがない。

 痛かったけれど、幸いな事に、目立った外傷はないようだ。あいつら手加減してたのかあえて目立たない所を狙ったのか。


 着ている服の着心地は正直、あまり良くない。ベージュっぽい色のワンピースには、砂や泥が付いてなかなか凄惨な……ってワンピース? 股らへんがすーすーするなーとは思っていたけど。



 何となく嫌な予感はしていたが……うん。

 今確信に至った。



「俺は幼女になった!!?」




 いや、信じられるかっ



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 立ち上がって、パンパンっと服についた砂を叩き落とす。これは一体どうしたというのだろう。右手の人差し指をこめかみにあて、俺は自分の記憶を辿る。





 俺は……魔王だった。しかしただの魔王ではなく、転生魔王、つまり、その前はただの人間。

 生まれは日本で、名前は生野貴之といったが……、どうでもいいな。


 ゲームやラノベ、趣味に耽ってダラダラしていた高校2年の夏休みのある日。

 コンビニにアイスを買いに行ったら、川で溺れている子供二人を発見し、飛び込んで助けたはいいけど、体力がなかった俺は、直後に力尽き、流されて溺死した。



 そして気がついたら俺は、石造りの広間の玉座に座っていて、目の前にはずらりと並んだ、翼や牙を生やし、赤い目をした魔族達。


 その光景が恐ろしくて、パニクって声も出なかった時、不意に、左にいた魔族に恭しく頭を下げられながら、こう言われたのだ。




「魔王ステル様、お目覚めになりましたか」




 と。彼らは魔王の復活の儀式をしていたらしい。復活した魔王は玉座に降臨するとかで、皆待ち構えていたそうな。


 だが、その当時の俺はそんなことつゆ知らず、周りの魔族に言われるがままに、魔族たちに挨拶をし、指示を出し、読み書きや戦い方の手ほどきを受け、手合わせをし、と魔王として忙しい日々を送った。



 そして、ある日、四天王の一人、サラトゥスが報告で、人間が宣戦布告をしてきたと言う。

 俺は現魔王とはいえ、元は人間。やむを得ない場合以外、元同族を殺すような命令は出してこなかった。


 俺はなるべく双方にとって大きな損害が出ないように手を尽くした。

 だが、人間と魔族の軋轢は俺の想像なんか遥かに超えて深まっていたのだ。

 傀儡に近かった俺が、頑張ってどうにかなる代物ではなかった。


 そして遂に、俺が魔王として目覚めて108年、人間側勇者パーティに魔王城まで攻め込まれ、俺と勇者による激しい戦闘の末、俺は敗北を喫したのであった。






 ここまで思い出した所で、キーーーンと耳鳴りがしたのでうっ、と頭を押さえる。漏れた声はやはり幼女の声。

 ふむ、俺は勇者に殺され、そして、転生したのか。今はそうとしか思えない。二度目の転生か……。神様は随分と俺を好いていらっしゃる。



 さて、ここからどうしようか。この子は今まで何事もなく……いやまぁ、少なくとも魔王に意識を乗っ取られるなんてことなく生きてきたはずだ。

 家族もいると思うのだが、この子の名前も分からんし。誰かにきくか。



 右の方に見える村に向かって歩き出した、その時、頭の中から声が聞こえた。



『う、うぅん……、え? あれ??』




 !? だ、誰だ? まさかこの身体の持ち主か!


 俺も脳内の女の子に語りかけてみる。



『あーあー、聞こえるか? そこな幼女よ』


『ふぇ!? おじさん、誰ですか!?』


『お、おじっ……せ、せめてお兄さん……おほん、まぁいい。俺はステル、元魔王だ』


『え、まおーさん? それよりもここどこ? 暗くて、動けないよ!』



 えー、魔王なのに、すんごい軽く流された気がする。もっと驚いてもいいんじゃないかな。怖くてそれどころじゃないか。


『それよりもって。魔王だよ? あのつよーい魔王様だよ?』


『まおーさんはゆーしゃ様が倒したんだよ! 強くないんだよ! そんなことどうでもいいから出してよ! ふぇぇん』


 相当パニクっているらしい。遂には泣き出してしまった。


『あーー、まてまてまて、驚かせてすまんな。落ち着いて、まず、君の名は?』


『ぐすん、……ティナ……』


『そうか、ティナか、可愛い名前だ。ではティナ、どうしてこうなったのか心当たりとかある?』



 俺の魔王知識、さらに前前世のラノベの知識に照らしてもこんな転生は聞いたことがない。脳内から乗っ取った人の声が聞こえるなんて。

 もしや、ティナに何か原因があるのかもしれない。



『ぐす……もしかしたら……この前お父さんと行った〝ステータス〟の儀式のせい……かも』



『〝ステータス〟か。何があったんだ?』




 〝ステータス〟とは、この世界の8歳になった子供が教会で行われる儀式によって獲得する一種の能力で、心の中で〝ステータス〟と唱えれば、目の前に半透明の白いボードが現れる。


 それを見るだけで、自分のレベル、筋力、体力、俊敏、魔力、魔法適性、称号がわかるようになっている。例えば俺の前世のステータスがこれだ。



---------------------------------------------------


ステル・ヴァラリウス


Lv.568


筋力 SS


体力 SS


俊敏 S


魔力 SSS


魔法適性 水属性・火属性・風属性・土属性・雷属性・闇属性・無属性


称号 転生魔王・・傀儡魔王?・闇を喰らう者・心優しき者・異端魔王・統率者・魔法を極めし者


---------------------------------------------------



 なんで、勇者に負けたんだよ!!! って突っ込まれるかも知れない。でも言い訳させて! 勇者ったら剣で勝負しようとか言うのよ!


 ただの剣なら良かった、でも聖剣!

 その特殊能力のせいで、触れたら終わり、その余波に触れても終わりっていう、つみげー仕掛けてきたのよ!

 俺が人間をあまり攻撃できないのをいい事に……。



 ま、ともあれ、言葉は通じるし、〝ステータス〟があり、勇者に魔王が倒されたということは、ここは俺の前世と同じ世界で、魔法も存在しているって思って間違いない。

 後で試してみよう、ティナの許可を取って。



『うん……神父さんがね、ティナのステータスに闇属性があるって』


『ふぁ? 人間が闇属性? 確か適性があっても使えなかったはずなんだが……まてよ、という事は……はぁ、まじか』



 人間がまさか闇属性を使えるとは思っていなかったが、そういうことなら、今の俺の状態に心当たりがある。



『どうしたの、おじ……まおーさん』



『君はね、死んだ魔王の霊を自分に降霊したんだよ』







読んで下さり、ありがとうございます。

なるべく変な方向に行かないように努めます。

生あたたかい目でお見守り下さい(´°-° `)


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