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5 ユニゾランドへ


 ミュータが長い回想を終えた頃、一行はユニゾランドの町に辿り着いた。


 東地区《春花》。

 湖の沿岸に造られた町並みは思っていたよりも普通だった。


 坂の上から見たときはどんな科学都市かと思ったが、見上げるほど高いビルや電光掲示板などはない。木や石を使った洋風の建物が並び、素朴ながらもしゃれている。ヨーロッパの賑やかな港町といった感じだ。機能性よりも景観を大切にしている印象だ。


 拍子抜けしたミュータを見透かすようにリオウが口を開く。


「ここは四つの町の中で最も隣空人が多い。だから、機械類は目につかないようにデザインされている。隣空人は機械オンチが多いからな」


「へぇ……最近できた町ってことか?」


 ユニゾランドの歴史は三百年。しかし隣空人に配慮して設計された町なら、多くても二十年しか経っていない。


「ああ。正確にはこの町は一度破壊され、再建されたんだ。四年前だったか。風に乗ってやってきたドラゴンに焼き払われた」


「ドラゴン!?」


「警報が出ていたから住民のほとんどは地下シェルターに避難できて無事だったぞ。ただ、王国騎士団から十人ほど犠牲者が出たが」


「騎士団!?」


「……いちいち驚くな。馬鹿にされているようで腹が立つ」


 確かに失礼かもしれない。ミュータは慌てて口を噤む。出てくる単語がファンタジーRPGで頻繁に見かける単語ばかりで落ち着かなかった。


 それにしても風に乗ってやってくるドラゴンとはおかしな表現だ。天気予報ならぬドラゴン予報でもあるのだろうか。ミュータはマーブル模様の空を仰ぎ、何が降ってもおかしくないと嘆息した。


「ミュータさん、ミュータさん」


 シアンに袖を引かれた。悪戯っ子のような表情で町角を指差している。

 体が透けた女性が宙に浮かんで移動していた。当たり前のように立て看板をすり抜けたと思ったら、イルミネーションのように光って消えてしまった。


「まさか! ゆ、ゆゆゆ……いやそんな、白昼堂々すぎるだろ……っ」


 悪寒が背筋を疾走した。


「ふふ、予想以上の反応です。幽霊なんかじゃありません。あの女性は隣空人の神霊体です」


「そ、そうだよな。あはは、天才科学者の血を引く者として、そんな非科学的な存在を信じるわけには……」


 魔女相手に何を言っているのだろうと、ミュータは頭を掻きむしりたい衝動に駆られた。


「ねぇ、ダーリン、今日のご飯は何にする?」


 取り乱すミュータの前をバニーガールが颯爽と横切って行った。ウサギ耳をぴくぴくと動かし、楽しそうに彼氏と腕を組んでいる。彼氏はクールぶっているが狼のような尻尾がわさわさと揺れているので満更ではなさそうである。


 カチューシャでも付け尻尾でもない本物のアニマルパーツにミュータは釘付けになった。可愛いけど現実と認めることができない。


「獣尾人のカップルさんですね。草食と肉食だと食べるものの好みが合わなくて大変そうです」


「今夜食うものは決まってるだろう」


「え? 何で分かるんですか?」


「……お前にはまだ早い」


 シアンとリオウの会話に突っ込む気にもなれない。今度は遠くで悲鳴が上がった。


「わぁ! 誰か捕まえてくれ!」


 人波を割って青年が駆けてくる。一抱えはある半透明の塊を追いかけていた。地面でぴちぴちと跳ね、随分と活きが良い。

 それが魚だと気づいたときにはもう目前まで迫っていた。魚はミュータを避けられないと悟ったのか、勢いよくタックルをしてきた。


「う、冷て!」


 反射的にその塊をキャッチすると背筋がぞくりとした。


「氷? え? 氷でできてんのか、これ。何で動いてんだ?」


 腕の中で抵抗する氷の魚と目が合った。お互いに間抜けな顔をしていたと思う。そうこうしている間にぽたぽたと魚が溶けて、地面に染みを作っていく。


「ああ、助かったよ! 僕の作品は無事かい?」


「この馬鹿が! 往来で何をしている」


 リオウが一睨みすると追いついてきた青年は苦笑いを浮かべた。


「ごめんよ。彫ってる途中で動き出しちゃったんだ。これからはちゃんとドアを閉めるよ」


 冷たさと未知の物体への恐怖で震えながら、ミュータは青年に魚を返した。


「あー、だいぶ溶けちゃったなぁ……しょうがない。作り直すかぁ。あ、欲しい?」


 ミュータは無言で首を横に振る。間抜け面の魚はショックを受けたように口をパクパクさせていた。何だかとても悪いことをした気分になる。

 青年が去った後、ミュータは放心状態で呟いた。


「なんだったんだ?」


「彼は楽徒ですね」


「あの人も隣空人なのか……」


「はい。楽徒は芸術をこよなく愛する種族です。彼らの作品には不思議な力が宿るんですよ。天才芸術家集団って感じです」


「迷惑な奇人変人どもだ。役所への苦情の大半があいつらの作品絡みだからな」


 ミュータは脱力してしゃがみこむ。まだ町に入って三十歩も歩いていない。


「もうマジで帰りたい。俺疲れた……」


「同感だ。さっさと行くぞ」


「ああ……て、そういや、どこに連れて行こうとしてる? 病院か? それとも警察?」


 ついてくれば分かる。そっけなくそう言ってリオウは早足で歩き出した。心なしか顔色が悪い。リオウの背中から拒絶の色を読み取り、ミュータは声をかけられなかった。


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