14 王女の策謀
ユニゾランドを構成する七つ島の一つ、神殿島。
一般生徒の立ち入りが禁じられているその島には華やかな屋敷がある。代々ユニヲン王家の子どもが使う別宅だ。現在は第一王女、マリッタ・フランルージュが利用している。
「失礼します、姫殿下」
「その呼び方はやめてほしいな」
マリッタはレキアスを自室に招き入れて苦笑する。
「別にいいのよ。二人きりのときなら呼び捨てでも。敬語もいらないよ」
「そういうわけにはいきません。僕のことだから、公の場でもそう呼んでしまう。それはまずいのでしょう?」
「……それもそうね。あなたのことだから、平気でそういうミスをするだろうね」
この親衛隊長とも長い付き合いだ。仲は良い。忠誠心も本物だと認めている。しかし融通は利かないし、表情は読みにくいし、お世辞にも全幅の信頼を寄せているとは言えない。マリッタにとってレキアスは扱いづらい相手だ。
――観賞用よね……。
顔は良いのに、とマリッタはひそかにため息をつく。
「まぁいいわ。で、何の用?」
それでも砕けた口調で話せる数少ない相手だ。王女の身分もアイドルの外面も気にせずにいられるだけで気が楽だった。
「ミュータ・アカネザワの件で報告です。やはり彼はリオウのアパートで暮らすようです」
「そうでなくてはね。リオウくんにならミュータ様のことを安心して任せられる。あそこにはイプシロンの魔女さんもいるものね。下手な貴族屋敷より安全。報告はそれだけ?」
ソファに寝そべるように座り、マリッタは薄い笑みを浮かべる。ここまでは計画通りだ。
「いえ、一つ問題が。蟲客の姫宮エピカ・ネムコもライオンのあくび荘に入居したようです」
「ネムコ……もしかして、あのネムコ?」
「はい」
一日の大半を無表情で過ごすレキアスの顔がわずかに曇った。これは非常に珍しいことだ。と言っても、その変化を察知できる者は少ないけれど。
「なぜこのタイミングでリオウくんのそばにネムコの姫宮が現れたの? 何か分かる?」
「現在調査中ですが、エピカ・ネムコは三年前にジェイミー家に保護され、屋敷で匿われていたという噂があります」
「……ルド」
その名前を口にすると、マリッタの胸に苦々しい感情が広がった。
「あいつが好きそうなことね。最悪」
人が嫌がることを嬉々として実行する男だ。この場合、嫌がる相手はマリッタとリオウ、そしてレキアスの三人である。ルドにとってこの三人を苦しめることは最高の遊びだろう。
気づけば、レキアスが何か言いたそうにマリッタを見ていた。
「心配? リオウくんとは友達だったよね」
「……はい。あの娘がそばにいては、リオウは平静ではいられないでしょう。排除しろというのなら今すぐにでも」
腰に下げたサーベルに手をかけるレキアス。マリッタは慌てて制した。
「お待ちなさい。しばらくは様子をみましょう。裏で調査を進めて。ルドにもネムコの姫宮にも邪魔はさせ
ない。向こうがその気なら、わたくしはそれさえも利用して目的を果たしてみせるわ。あいつを喜ばせてなんかあげない」
何の心配もいらないとマリッタが微笑むと、レキアスは小さく頷いた。




