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夢日記  作者: 辻風一
8/12

夢のなかの輪郭

 こんな夢を見た――


 気がつくと、見覚えのないマンションの居間にいた。

 ここはどこだろう?


 そうだ、友人のYの部屋だ。Yは留守でいない。たしか、夕方6時頃に帰るはずだった――


 誰かの話し声が聞こえた。

 右手を見ると大きな窓がある。この部屋は二階にあるが、隣のマンションとの感覚が1メートルもないほど近い。こちらは一階にガレージがあるせいか、隣の窓は半分ずれた位置にある。


 その隣家のアパートから家族がサッカーの応援で興奮して騒いでいる声が聞こえる。空のペットボトルを何かに叩いて打楽器にして騒々しい。


 窓をピタリと閉めた。予想外にも無音になった。このアパートは防音施設なんて無いはずだが……


 咽喉が乾き、隣のキッチンへ行き、蛇口をひねって水を出し、コップで水を飲む。あまり飲んだ気がしない。


 その時ふと、「これは夢ではないか?」と、疑問に思った。


 そういえば、部屋の景色がぼんやりして、輪郭が曖昧な気がする。

 私は試しに壁を両手で触ってみようと思った。


 夢ならば、グニャリとした手応えや、霧のように霧散するのではないか?

 ドキドキして両手をあげ、壁を触る。


「硬い……」

 確かに硬い感覚がした。

 見回すと、曖昧だった部屋の背景が前より緻密に見える。


「これは夢ではなかったのか……」

 私が今いる世界は現実なのだと急速に思い込みはじめた。

「そうだ、新聞を読もう……」


 ドアを開けると外は灰色の空で、下町のごちゃごちゃした町並びが見える。シトシトと、冷たい雨が降っているようだ――


 そして、目が覚めた――


 ずっと、室内にいる夢で、ある意味、地味な夢だ。本来なら、夢日記に書くほどでもない夢。

 だが、一点だけ、珍しい事がある。それは、夢の中でこれは夢ではないかと疑問を持ったことだ。


 人間、夢を見ている間は、そこでどんな異常な事が起っても、ここは現実だと思い込んでいる。

 だが、私は10年に一度くらい、これは夢なのではと疑問を持つ事がある。以前見た夢では頬をつねってみたが、痛くなく、何度もつねって確かめるうちに目が覚めた。

 今回は壁を硬いと思う感触があって、疑問はウヤムヤになった。まるで、夢の防衛機構が働いたかのように……


 だが、よく思い出せば、壁を触るのは日常でよくする行為だった。外出して家に入ったとき、静電気を逃すため、壁に両手をついているのだ。

 夢はその日の体験を脳が処理している間に見るものだという。だから、壁が硬いという感覚がしたのだろうか?


 夢をコントロールできることを明晰夢というが、そのチャンスをまた逃してしまったようだ――


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