衣装階段とカメラ男
灰色の廊下を歩いていると、右手に大きな四角くい暗がりがあった。
見覚えがある……学校の屋上へ続く階段のある場所だ。
薄暗がりの階段を上ってみると、始めの段には充電中の携帯電話がたくさん置いてあり、さらに上には所狭しとハンガーラックがあり、さまざまな衣装がかかっていた。
まるで、テレビ局か舞台の衣装部屋だ。衣装の中からひょっこりと顔を出した人物がいる。
「イマダ先輩じゃないですか! こんな所で何を?」
「ああ……ちょっとな。整理中なんだ。なんせ、この服全部、オレのなんだぜ」
「えっ? こんなところに?」
「右手の壁を見てみろよ」
振り向くと壁に四角い穴があった。ニッチという奴だ。ダンボール箱があちこちに置いてある。
見覚えがあるダンボールだった。蓋を開くと中に、私が小中学生のころ持っていたマンガの単行本があった。
もう、処分したはずなのに……私はマンガを読みだし、懐かしい感慨にふける。
はっ!! こんな事をしている場合じゃない! 早く駅へ行かなきゃ、特急に乗り遅れてしまう……
私は階段を駆け下り、灰色の廊下の左手を走る。
廊下には教室の窓と扉が続き、やがてそれは白い廊下に変わった。病室の部屋入口とプレートが続く。あと少しだ……左端のテラスの右脇にエレベーターがある。
背後にぴったりと尾行する気配を感じた。立ち止まって振り向く。ハンディカメラを持った細長い男がいた。アンガールズのように痩せて細長いノッポだ。2メートル以上の身長だ。童顔で肌の張りが瑞々しい。高校生か高卒くらいの年齢だろう。
「……だれ?」
「マクガイアです」
「ところでおたく、映画の『進撃の巨人』に出ていた?」
「ボクはアイドルオタクだけど、映画オタクではないですね」
なんだかトンチンカンな返事をする男だ。
「なんでオレを撮っているの?」
「所長の命令で撮影してます」
「所長? 誰だか知らないけど、今度はソイツをこっそり撮影してきて。できればスキャンダラスなシーンを」
「でも、所長の命令じゃないと……」
「ああ、所長から言付かった命令だから――早く行きな……」
ノッポのカメラ男は回れ右して走り去った。
廊下の突き当たりのテラス右にあるエレベーターの呼び出しボタンを押した。待つ間、窓ガラスから景色を見る。どんより雲の下に4,5階建てのビルが並び、ときどき高層ビルが見える。あの楕円形の建物は競馬場だったか、野球ドームだったか……
エレベーターが来ない。回数表示を見上げると、まったく動いてない。
私は焦って呼び出しボタンの▽を連打する。
連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打……
そして、目が覚めた――
そういえば昔、訪問販売で変な男がきたことを思い出した。
「社長の命令できました。買ってください」というロボットみたいな若者で、呆れかえった。
夢とは、忘れていた遠い記憶をひょっこりと思い出すこともある――




