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夢日記  作者: 辻風一
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野良オットセイ

 こんな夢を見た――


 アパートの部屋でパソコンを開き、事務作業をしていたら、外から妙な鳴き声がした。

“くぅぃ~~ん、くぅぃ~~ん”と、子犬に似た声で、窓からのぞくと白っぽい灰色のオットセイかアザラシのような生き物がいた。

 きっと、野良オットセイだ。しかし、なんとなく不気味なので、早く向こうに行かないかと眉をひそめた。


「お腹がすいているのかな?」


 私は冷蔵庫から冷凍中のサンマを一尾とりだして、掃き出し窓(底辺が床にある,人の出入りができる窓)からそっと与えた。

 野良オットセイの子どもは美味しそうにサンマを食べて隣へ行った。

 窓を閉めてパソコン作業を再開。すると背後のフスマから子ども達の騒ぐ声がした。

 フスマをあけると小学生が四、五人畳の部屋の黒テーブルのまわりでパンフレットと見ながら話し込んでいた。


「君たち、人の部屋にかってにあがりこんじゃいけないよ」


 私が小学生たちに注意したら、素直にあやまった。

 話を聞くと、宋仁そうじん旅館の広間でアイドルのイチゴちゃんがコンサートに来るのでここで待っているのだという。

 最近の芸能人には疎いのだが、確か姪が好きなアイドルの名がイチゴだったと思い出した。

 内心興味を惹かれたが、小学生の手前ではしかめ面で、


「もう、人の家に勝手に入ってはいけないよ」


 と、注意して右横のフスマから追い出した。右には渡り廊下があった。

 台所のシンクがゴソゴソと音がして、なんだろうと行ってみると排水溝がグニグニと広がり、銀色のヒゲをしたオットセイの子どもが中から出ようともがいていた。

 私は押し戻すべきか、引っ張り出そうか考えあぐねていたら、お腹がつかえたようで悲しく泣き出した。

 野良オットセイを両手でつかんで引っ張りだした。お腹がブニブニしている。ウルウルした黒い瞳が愛らしい、まだ子供のようだ。


――か、可愛い……


 飼いたいと思ったが、犬猫と違って水槽がいるだろうし、専門知識がいるだろう……

 そこで私は宋仁旅館の近くに地方の小さな水族館がある事を思い出した。野良オットセイを両手にかかえて右のフスマから渡り廊下からを歩き、右へ右へと進んだ。

 途中の大広間ではさっきの子どもと大勢の小学生たちがイチゴちゃんのコンサートを待ちわびて、ワイワイと騒いでいた。ポスターを見るとイチゴちゃんはショートカットの小学校高学年くらいの年頃のようだ。

 さらに廊下を進むと旅館の帳場があった。温泉もある。さらに奥へ進むと繁みと建物が見えた。ひなびた建物だが水族館だ。


 そこの入り口には六十代くらいの品の良い女性がいた。優しそうな水族館の館長で安堵した。

 私が野良オットセイを拾ったと話すと、この子は水族館の人気者になるでしょうと微笑んで野良オットセイを受けとってくれた。


 ホッとした反面、急に寂しさが胸を苦しくさせた。館長さんに、オットセイの子どもに名前をつけて欲しいと頼まれた。

 私は考えてみると言って、左の階段をのぼり市民プールへ出た。いつの間にか水着になってプールにつかっていた。遠くでオットセイの子どもも楽しそうに泳いでいる。


――名前は何にしようか……それにしてもプールの水が生温かくて、心地よい……



 そして、私は目が覚めた。今日も朝から気温が高い……


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