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07.登校 その2


 退院した俺が学校に復帰して、一週間と数日が過ぎた。


 ちなみに、くどいようだが白石家はお金持ちである。だから、お嬢様である俺はもちろん歩いて登校などしない。


 いつものように、茨戸さん運転の黒塗りの高級車にのって、マンションの駐車場から発進。直後、琴似潤一の学ラン姿を見かける。奴もこれから西高に行くのだろう。


 あいつ、徒歩と地下鉄で学校行くなんて初めてだといってたけど、大丈夫かなぁ。


 と、潤一の隣にもうひとりいるのに気づく。女の子だ。セーラー服、……ひかるか。ひかるのことだから、朝っぱらから強引に琴似家に押しかけて、むりやり潤一を学校まで引っ張っていってるんだろうなぁ。まぁ、おかげで俺も安心できるけど。


 それにしても、ひかると一緒にこの時間に登校するということは、朝練に参加するんだな。本格的に野球部をつづける気になったということか。どちらかというと引き籠もりだった夢実が、本当に野球部でやっていけるのだろうか? ちゃんとボールを投げられるのだろうか? 俺が必死に鍛えた身体を使いこなせるのだろうか? 


 くそ。野球か。……いいなぁ、野球。くそ。くそ。くそ。


 いかん。また涙がでてきたかもしれない。ミラーとサングラス越しに、運転手の茨戸さんと視線があったような気がする。




 俺の学校は、美香保学園高校の高等部。お坊ちゃんお嬢ちゃん学校で全国的に有名な、小中高一貫、ついでに大学もある名門校だ。


「おはようございます」


 おしとやかにご挨拶をして、教室に入る。


「おはようございます」


 この学校はお行儀のよい生徒ばかりであるから、みなさんご挨拶をきちんと返してくれる。


 が、それだけだ。学校に復帰してから既に数日たつが、高等部に入学直後に事故に遭い、一週間以上入院していたクラスメイトに親しく声をかけるものはいない。


 どうやら、白石夢実という人間は、もともとあまり友達がいないらしい。十五歳の女子高生がそれでいいのかと思わなくもないが、記憶をなくしたことになっている俺にとっては、その方がいろいろと助かるのはたしかだ。


「おはよう、白石さん」


 だが、今日は珍しく親しげに声をかける者がいた。にこにこ笑いながら話しかけてきたのは、ショートカットの可愛い子。えーと、誰だっけ。


「藻岩一希よ。隣の席だったでしょ。わすれちゃった?」


 ああ、そうだった。ボロがでないよう、なるべく周囲の同級生と関わらないようにしてたから。


 この人懐こい笑顔。そばに居るだけで、ぱぁっと周りが明るくなったような気がする。絵に描いたような元気な美少女。そのうえ身長は夢実より頭ひとつ高い。さらに制服の上からもわかる、胸も腰もスタイル抜群な女の子。


 たしか、明治維新からつづく商社と銀行と証券とその他もろもろの一大グループの総帥の家の娘だったか。要するに、日本有数の財閥の御令嬢だ。ぜんぜんお嬢様らしくないけど。


 そんな美少女が向こうから声をかけてきてくれたというのに、名前をわすれちゃったとは悪いことをした。


「もうしわけありません。おはようございます。藻岩さん」

「えーと、白石さん。私の事は一希でいいよ。だからあなたのことも夢実ちゃんでいい?」

「えっ?」


 びっくりした。いきなり他人の懐に飛び込んでくる人だな。俺が潤一だった頃から、こーゆータイプのお友達はあまりいなかった。


「も、もちろんよ、一希さん」

「えへへ。突然はなしかけてびっくりした? 私、夢実ちゃんとお友達になりたいんだ」


 はっ?


「高校野球に女子選手が解禁されたの知ってるでしょ?」


 ええ。


「私にはわかる」


 ビシッ! 一希ちゃんが俺を指さす。


 な、なに?


「夢実ちゃん、あなた野球大好きでしょ。私といっしょに野球部に入部しない?」


 はぁぁぁぁっ?



 

次話から野球の特訓です。


2015.12.23 初出

 


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