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03.チェンジ その2



 医師達の話を総合すると、トラック事故による俺の身体的なケガはそれほど重くはなかったらしい。たしかに、とりあえず身体は問題なく動くようだ。それ以上の大問題があるけどな。




 目覚めた直後、医師からの矢継ぎ早の質問の嵐。しかし、俺はほとんど答えられなかった。


 自分でも何がなんだかわからない。覚えていることをなんでも話せと言われたので、自分の名前をきちんと言ったつもりなのだが、……どうやらそれは正解ではなかったらしい。


 当然のごとく、俺は脳の障害を疑われた。何種類もの精密検査を受けさせられる。


「うーーむ。脳には異常はみられません。どうやら記憶喪失ですね。事故による精神的ショックで記憶が混乱しているのでしょう」


 何時間も待たされた末、深刻な顔をした医師達が出した結論がこれだ。




 記憶喪失? 精神的ショック?


 いや、確かにその可能性は俺自身も否定できないが。しかし、俺にはちゃんと記憶があるぞ。この身体になる前の、男だった頃の記憶が。この記憶が、事故のショックで作られた偽りのものだとでもいうのか。


 これはたぶんあれだ。自分でも信じられないが、あれしか考えられない。そう、……事故の衝撃で意識が乗り移ってしまったという現象だろう。ホントに自分でも信じられないけど。




 周囲の話を総合するに、この身体の持ち主は、やはり事故の時に俺が助けようとした少女らしい。


 白石夢実ちゃん。15歳。俺と同じマンションの最上階のワンフロアをぶち抜いて住んでいる住人。お坊ちゃんお嬢ちゃん学校で有名な美香保学園の高等部一年生。この春に入学したばかりだ。


 うーむ。別の身体に意識が移動するなんてことが、本当におこるとは思わなかった。しかも、それが自分の身にふりかかるとは。なんというSF。なんというラノベ展開。




 まぁ、起こってしまったことは仕方がない。医師達に説明したところで、どうにかなるものでもないだろう。元に戻る方法が有るのか無いのか、ゆっくりと考えていかねばなるまい。それに、いまはもっと重大な問題がある。


 答えを聞くのが恐ろしくてまだ誰にも尋ねていないのだが、……俺の、琴似潤一の身体はどうなっているのか?


 あの事故で死んでいたらもちろんイヤだ。だが、身体が生きていたら、それはそれでいろいろと問題がある。


 琴似潤一の身体が生きていたとして、その中身の精神はどうなってるんだ? もし普通に『俺』だったとしたら、……ここにいる『俺』とは別の『俺』がいたとしたら、この『白石夢実』の身体の中にいる『俺』は、いったい誰なのか?


 さらに、だ。実はもっともっともっと重大な問題がある。


 この身体の本来の持ち主である『白石夢実』ちゃんの精神は、いったいどこにいってしまったのか。俺よりもちょっとだけ若くて、未来ある少女なのに。まさか、俺の精神に押し出されて消えてしまったのか?





 病室でひとり苦悩している俺の目の前、静かにドアが開く。よぼよぼの爺さんと、サングラスの男の人が入ってくる。


「夢実。……無事で良かった」


 気むずかしそうな顔の爺さんが、俺の顔をみて……おそらくニコリと微笑んだ。微笑んだつもりなのだろう、たぶん。かなり引きつった笑顔だが。あまり笑顔を作ることになれていない人間のようだ。サングラスの男は表情がわからない。


 うーーむ。俺の事を心配してくれるのはありがたいが、二人とも誰だかわからん。


 医師のひとりから何やら囁かれ、たちまち爺さんの顔から笑顔がきえる。


「覚えて、……おらんのか?」


 俺は静かに頷くしかない。ごめんなさい。あなたが誰なのか俺にはわかりません。


 爺さん。今度は悲しそうに顔を歪める。きっと夢実の肉親なのだろう。ごめん。本当にごめん。


 サングラス男が説明してくれた。この爺さんは夢実の祖父、そしてサングラスは秘書さんだそうだ。




 医師が、おれ本人と爺さんに説明を始める。


「夢実さんは、事故のショックによる記憶喪失だと思われます」

「治療方法はいまのところありません」

「なにかのきっかけで記憶がもどる可能性もありますが、いつになるかはわかりません」


 爺さんの表情がますます曇る。ごめんな。


 やはり、夢実の身体の中にいるのが俺だとは言わない方がよさそうだ。自分のかわいい孫娘の身体の中に、むさい男の意識がはいっているなんて聞いたら、あの爺さんショック死しそうだ。それならまだ、記憶喪失ということにしておいた方がましだろう。




 とりあえず、夢実の身体には問題ないということで、爺さんは家に帰るらしい。


 うん、帰った方がいいな。たった数時間なのに、さっき来たときよりも明らかに老け込んでいる。よっぽど孫娘の記憶障害がショックだったか。


「あ、あの、お爺さま……」


 俺は、おもわず声をかけてしまった。とぼとぼ肩を落とし、まったく覇気がかんじられない爺さんの背中に、声をかけずにはいられなかったのだ。たぶん夢実ちゃんならこう話すであろうという口調を真似したつもりなのだが、成功していただろうか。爺さんは、なさけない顔をして振り向く。


「……覚えていなくて、ごめんなさい。でも、きっと、思い出しますから」


 もちろんでまかせだ。しかし、こう言わずにはいられなかった。


「そ、そうか。そうだな。お前は儂のたったひとりの肉親だ。思い出さないわけがない。はやく元気になるのじゃぞ」


「ええ」


 爺さんの顔、ちょっとだけ笑顔がもどる。作り物ではない本物の笑顔。よかった。


 ……本当に、これでよかったのかなぁ。




どう考えても「ファンタジー」のような気がしてきたので、ジャンルを変更しました。いや、「SF」の方がよかったかな? 今後もストーリーにあわせて変更するかもしれません。


「スポ根」というジャンルがあれば一番しっくりくるのだけどなぁ。



2015.12.20 初出



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