02.チェンジ その1
眼が覚める。またあの夢か。いったい何度目だ。そして、また泣いていたのか。
目覚めが悪いのはいつものことだ。珍しいことじゃない。あの試合の後、ずっとそうだ。そう、今日だっていつも通りの朝だ。……と思ったのは一瞬。すぐに違和感で頭の中が一杯になる。
あれれ? ここはどこだ? 視界のほとんどが白で覆われている。壁、天井、カーテン。俺の部屋じゃない。ここって、もしかして病院?
記憶が混乱している。たしか、ひかると一緒の学校帰り……。あれ? 暴走トラックって、あれは夢だったのか?
上半身をゆっくりと起こす。身体中がだるい。重い。関節が痛い。違和感がますます大きくなる。
自分の手をまじまじと見る。どうしてこんなに小さいんだ。
着ているのは、病院で入院患者さんが着ているパジャマみたいな奴。袖からのぞく腕が細い。そして白い。さっきから頭を振る度に視界の端で動いているのは、長い黒髪?
……え? えええええ?
俺は窓ガラスにうつる自分の身体をみて愕然とした。パジャマに包まれた小さな身体。肩で切りそろえた黒髪。身体、胸、脚。なにもかも小さい。なんて小さくて華奢な身体。お人形のような少女。
俺は、琴似潤一。十六歳。性別は男、……だったよな? だったはずだ。
ちょっとまて。この身体の女の子、見覚えがある? たまに見かける、同じマンションの最上階の住人だ。トラックにはねられる瞬間、庇おうとした少女じゃないか?
身体に何本かのコードがつながっている。俺が目を覚ましたのを検知したのか、枕元の機械がピーと音をたてている。看護士さんとお医者さん達が、早足で部屋にとびこんでくる。
「意識が戻ったって?」
何人も何人も、ぞろぞろと俺のまわりに集まってくる。聴診器をあてたり、脈をみたり、目玉に光をあてられたり。
「どこか痛いところは?」「自分の名前がわかる?」
答える間もなく、次から次へと質問がふってくる。ちょっとまって。
「とりあえず、ご家族を呼べ」
ちょっとまってってば。
なんだなんだ。いったい何がどうなっているんだ? 俺はどうなってしまったんだ?
2015.12.20 初出




