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22.球児達の日々 その3




 今日の野球部の練習はひと味違う。ぴっかぴかの一年生が、ついにユニフォーム姿で登場したのだ。


 胸に英語で校名がはいり、白に農紺が基本の奇をてらわないオーソドックスなデザイン。でも、うちの学校らしく、かなりの高級品らしいよ。


 そんなユニフォームに身をくるみ、まずは姿見の前でポーズを取ってみる。ふむ。我ながら、……ちょっとちんちくりんだな。少年野球みたいだ。





「……その身体にあうサイズがあってよかったな」


 拓馬くんか。おまえ、鏡を見ている女性(?)に対して、言いたいことはそれだけか? それだけなのか? ここは無理してでも褒めるべきところじゃないのか? それじゃモテないぞ、おまえ。


 確かに、本来なら子供用のサイズだとかで、メーカーさんに無理を言ってあわせてもらったのは事実だが。でも、これはこれでマニアックな層にはうけるんじゃないかなぁと思ってはいたんだけどなぁ。


 俺の隣では一希ちゃんが照れながら微笑んでいる。男子部員達の視線を一身に集めて、やっぱり恥ずかしいのか、ちょっとはにかんだりして。


 ……くそ。すげぇよ一希ちゃん。俺の隣に立つと腰の位置が高い。そのうえ腰が細い。さらに、全身スレンダーなくせに、ユニフォームの上からも胸がまるでロケットのようにそそりたつ。これはこれでよくサイズあわせてくれたもんだな。男子選手(といっても七名しかいないが)のうち七割(四捨五入。要するに五名)の視線を独り占めだ。


 ちなみに、のこり一名は、それでもなぜか俺の前から離れなくて鬱陶しい拓馬くん。そしてもう一名、キャプテンの視線がどこにむかっているかというと、……ねぇちゃん?


 今日は琴似先生もユニフォームを着ている。珍しく監督モードか。『たまにユニフォーム着ないと、いつのまにかサイズ合わなくなってたりするのよねぇ』とかぶつぶつ言っている。


 ふわふわした雰囲気だけど、この人もスタイルいいんだよな。全身の線がやわらかくて、スレンダーな一希ちゃんとはちがう、大人の女って感じ。


 キャプテンがチラチラねえちゃんを見つめる視線がやばい。本人は隠しているつもりだろうけど、ばればれだよ。


 と、とにかく、そんなふたりと比較される俺は、肩を落とすしかない。お人形さんみたいとはよく言われるが、それは女性と見なされていないという意味なのかもしれないなぁ。ノーマルな趣味をもつ一般大衆の前では、マニアックというかピーキーを極めた体型な俺は、頭を垂れるしかないのだ。くそくそくそ。





「あ、夢実、その……」


 拓馬くんが、まだ何か言いたそうだが、もういいよ。何が言いたいのかしらんが、黙れよ。はっきりものが言えない男はきらいなんだよ。俺ははやく練習がしたいんだよ。


 さぁさぁ練習だ、練習。対抗戦も近いんだし、ほらほら、先輩がた、いつまでも一希ちゃんに見とれてないで、練習しましょう。キャプテンもしっかりして。監督ばかりガン見してないで。


「えっ。みみみてないよ、監督なんか。……ていうか、ガン見というなら、南郷が白石さんを見る視線の方がやばいでしょ」


 南郷? 拓馬が私を見てるって? まだ馬鹿にする気か、こら。





「てな事が、昨日はあったんだぜ」


 次の日の朝。いっしょのランニングが終わった後。いつものごとく公園のベンチに座りながらの会話だ。


「へぇ。僕も夢実のユニフォーム姿、早くみたいな。明日の朝のランニングの時……」


「無理無理。そんな目立つ格好で走るのやだ。どうせ数日後には試合だから、その時にイヤと言うほど見せてやるよ。なんならかぶりつきで。あ、踊り子さんにお触りは禁止だよ、お客さん」


「お客さんって……。その身体はもともと僕のものなんだから、見るのも触るのも僕の自由なはずだよ」


「おい、今の言い方、なんかイヤラシかったぞ。おまえ、だんだん心まで男になってきたんじゃないか?」


「えっ、そ、そんなつもりは……。いやらしかった?」


「いやらしかった。……そんなにこの身体に触りたいか? 触れるものなら触ってみろ。おまえにそんな度胸があるのならな。ほれほれほれ」


 俺は潤一の身体をベタベタさわって挑発してやる。まずは太もも。ぺたぺた。おお、スゲェ腰だな。女の子になって野球部に入って改めて感じたけど、野球やってる男子って、なぜかとにかくケツがでかいよな。


 そして胸。ぺたぺたぺた。お、また胸板あつくなったか、こいつ。いいなぁ、どこまで筋肉つくのかなぁ、この身体。


「や、やめろ夢実。僕、ランニングしたばっかりで汗臭いし」


 俺が潤一に触るのはいいんだよ!





 潤一は身体をガチガチに硬直させている。ちょっと触ってるだけだろ、そんなに固くなるなよ。


 よいしょっと。


 調子にのった俺は、潤一の膝の上に座る。そして顔を両手で正面からがっしりとつかむ。


「いいじゃないか、触ったって減るもんじゃないし。おまえ、自分の身体が恵まれていることを自覚しろよ。それに、汗臭いのはこっちも同じだ。……美少女の匂いはどうだ? 欲情するか?」


 あれっ? いつの間にか潤一が真っ赤になっている。


 言ってから気づく。た、たしかに、こいつ、汗臭い。男の匂いがするな。むせかえるような。気持ち悪……く、ない? あれ? ……も、もしかして、俺も汗臭いのか? 汗臭いよな。やだ。


 急に恥ずかしくなってきた。思わず自分の襟元が気になる。


 真正面からふたりの視線が固定される。見つめ合ったまま動けない。しまった。調子に乗りすぎた。視線をはずせない。どうする。硬直したふたり。これって、やばいんじゃ。やばい。やばい。やばい。





 その場を救ってくれたのは、茨戸さんだった。


「あのう、おふたりさん。早朝とはいえここは公共の場です。イチャイチャするのは他の場所でやった方がよろしいかと……」


 うわ!


 我に返るふたり。


「「イチャイチャなんてしてない!」」


 うわー、明日からどんな顔して潤一にあえばいいんだよ、俺。





 

 

次話から練習試合です。


2016.01.07 初出

 


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