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21.球児達の日々 その2



 基本的な練習に明け暮れる日々がつづく。


 体力的にはかなりきついが、野球でへとへとになるのなら嫌じゃない。とにかく、仲間達と野球をやれるのが楽しいんだ。


 そして、なんと、ついに俺のデビュー戦となる練習試合が決定したそうだ。毎年この季節に行われる定期戦で、相手は西高。潤一の学校だ。





 実は、坊っちゃん嬢ちゃん学校で有名な我が美香保学園と、全国的な進学校である西高は、場所が近い事もあり、旧制中学の時代から百年近くの歴史があるライバル関係だったりする。


 ゆえに、多くのクラブ同士で定期的な対抗戦が行われている。といっても、運動系クラブは基本的にどちらの学校も弱小であり、どっちもどっちの低レベルの試合が多いらしいが。一方で、まかりまちがってどちらかが全国的に活躍した場合には、両校で合同応援なんかもしたりするのだ。


 もちろん野球部も例外ではない。日本に野球が輸入されたとほぼ同じ頃から歴史があるという、伝統の対抗戦が行われている。あまり不様な試合をすると、理事長や近郊の住民や、あるいはびっくりするほど大物のOBからおしかりを受けたりすることがあるので、それなりに本気でかからねばならない。


 余談だが、俺は去年、潤一だった頃、西高の選手としてこの対抗戦を経験しているはずだ。だが、ほとんど印象に残ってはいない。まだ入学直後で控えだったし、あいての美香保学園は弱小だったし。ただ、お坊ちゃんばかりのチームなんだなぁと思ったことだけは記憶にある。……まさか今年は美香保学園の選手として参加することになるとは、予想もしてなかったけどな。


 それはともかく、昨年西高野球部はあと一歩で甲子園というところまでいった。いまや地域の中堅校扱いで、今年はさらに期待されているらしい。相手にとって不足なし、だ。





 試合を前にしたミーティング。顧問兼監督である琴似先生が、めずらしく部室にきて、チームのみんなに作戦を授けている。たまに監督らしいこともするんだな、ねぇちゃん。


「西高はなんといってもエース琴似潤一君のチームです。えーと、ご存じ通り、私の実の弟なので、ちょっと言いづらいのですが、その体格をいかしたトルネード投法から繰り出されるストレート、そして鋭いフォークは間違いなく全国レベル。守備陣も鍛えられており、ひとことで言ってしまうと守りのチームといえるでしょう」


 隣にすわる一希ちゃんが、肘で俺をつついてきた。


「ねぇねぇ、琴似潤一って、夢実ちゃんといつも秘密特訓しているあの潤一君だよね」

「そうだよ」

「彼、そんなに凄いピッチャーだったんだ。どうして今さら夢実ちゃんとふたりで特訓なんてしてるの?」

「たまたま同じマンションだったから……」

「へぇぇ。その割には、仲いいわよねぇ」


 なぜかニヤニヤしている一希ちゃん。なんか誤解しているような気がするぞ。





 それを横で聞いていた拓馬君が、手を上げてねぇちゃんに質問しはじめた。


「あのー、琴似潤一って、今や全国的にも注目されるピッチャーですよね。どうして西高なんかに入ったんでしょう?」


 ん? おまえ、なんで潤一のことを聞きたいんだ? 『西高なんかに』って、なんだ? なんか悪意を感じる言い方だな。潤一とおまえは面識は無いはずだが、なんか恨みでもあるのか?




 実はな、潤一は、中学時代は身体も小さくてピッチャーとしてはパッとしなかったんだ。俺が生き証人だ。だから、野球の強豪校じゃなくて、つぶしのきく西高をうけたんだよ。受かったのはまぐれだったけどな。……なんてことを、俺が教えてやる義理はないけどな。


 ピッチャーとしてなんとかものになりそうだと思ったのは、高校にはいって身体がでっかくなってフォームを変えてからだったけど、いまは全国的にも注目されているのか。しらなかったぜ。凄いな潤一。





「南郷拓馬くん。あなただって、中学時代は全国区だったのに、こんな弱小の美香保学園なんかにきてるじゃない」


 監督が冗談めかして笑いながら、逆に問い掛ける。


「そ、それは、親父が、……おまえみたいな根性なしが野球で食っていけるはずがない。つぶしがきくようにとりあえず美香保に入っておけ! っていうから……」


 ほほお。まぁ、親父さんの気持ちもよくわかるよ。美香保には大学もあるし。人生の選択肢としては『あり』だと思うぞ。ていうか、ここにいる部員のほとんどが名家のお坊ちゃんだ。似たり寄ったりの経緯で美香保学園にきたんじゃないのかね。


 だが、その次に拓馬が発したことばに、俺はちょっとがっかりしてしまったのだ。


「本当はこんなところじゃなくて、もっと強い全国的な強豪校からもスカウトが来てたのに、……もしそっちに進学していたら今頃は」


 いつまでもそうだから、おまえはダメなんだ! ……と俺が思わず口にする前に、監督が諭すように言った。


「南郷君、入学した理由なんてどうでもいいのよぉ。あなた、野球が好きなんでしょ。じゃあ、ここで全力をつくしましょうよ。とりあえずは、こないだ白石さんが言ったとおり、私達は甲子園を目指すわよ。……そこ、笑わない! 私は本気。この試合はその第一歩なの。いい?」


 おお、ねぇちゃん、言い切った。かっこいい。俺もやるぞ!





「で、対抗戦はいつだって?」


「あ、そうそう。白石さんと藻岩さんには言ってなかったわねぇ。来週ですよぉ」


 ……ねぇちゃん、えらい急だな。メンバーどうするんだよ?


 俺が外野にはいっても、選手ギリギリ九人しかいないじゃねぇか。そんなんでいいのかよ?




 

 

2016.01.06 初出

 


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