15.美香保学園高校野球部 その3
なんと、この学校の野球部は、毎年のように人数がたりないのだそうだ。いろんな大会に参加するために、足りない分は他のクラブから助っ人をよぶそうな。
で、そんな状態が今年に限って改善されるはずもなく、もちろん今年も拓馬くんたち新一年生をいれても部員は七人しか居ないらしい。
野球は青少年にとってもっとも人気のあるスポーツじゃなかったのかよ? まぁ、俺と一希ちゃんが入ればちょうど九人だからいいか。
「この学校、野球部に限らず、スポーツ系はみんな弱いからねぇ」
「いいところの子弟ばかりだから、みんな習い事とかいろいろ忙しくて、クラブ活動まで手が回らないんじゃないかな」
あっけにとられる私と一希ちゃんにむけて、先輩方が必死に言い訳を言い繕ってくれる。
突然部室に乱入した私と一希ちゃんの美少女(?)二人。部員達は、とりあえず二人を部屋に招き入れ、椅子を勧めてくれた。
部室には一応テーブルなんかもある。体育系のクラブといっても、脳味噌が筋肉でできているような生徒はほどんといない。基本的にみんな紳士なんだよね、この学校の生徒は。
「というわけで、部員不足に悩む我が野球部としては、入部希望は大歓迎なんだけど……」
キャプテンが申し訳なさそうに私を見る。あんだよ、歯切れが悪いな。男らしくないぞ。
「いくら高野連が女子選手を解禁したからって、白石家と藻岩家のお嬢様には硬球はやっぱり危険だし、……」
たしかに、藻岩家の一希ちゃんは、性格はちょっとあれだけど、正真正銘の国内有数の箱入り娘だ。何代かさかのぼれば、やんごとない家系との繋がりすらある。顔にケガでもしたら、問題になるだろうなぁ。
一方で、白石の家は確かにお金持ちではあるが、どちらかというと高いのは悪名だ。闇の世界のフィクサーとして恐れられている家だ。国内でもそうそうたる名家の子弟が入学するこの学園の中で夢実に友達がいないのは、本人の性格はもちろんだが、白石家のこの悪名故なのだろう。そんな俺がケガでもしたら、……やっぱりお爺さまが激怒して大変なことになりそうだ。
そんな二人が入部しようというのだから、他の生徒達にとってはたしかに嬉しいと言うよりも面倒くさいかもしれないなぁ。
「TVで見る華やかな高校野球と違うんだよ。僕たち全然勝てないから、試合やってもきっとおもしろくないし……」
ちょっと根が暗そうな先輩が、自分でこういってから、自分で落ち込んでる。自虐か。この負け犬が。
「まぁ、うちはそんなにつらい練習はしてないから、女の子でも体力的にはついてこれるかもしれないけど……」
……ちょっといらいらしてきたぞ。
「高等学校におけるスポーツ系のクラブ活動の目的は、試合に勝つことだけでは、……いえ、試合に出ることですらないと思います。私はみなさんといっしょに野球を練習して、心身を鍛えたいのです。それでもいけませんか?」
きっぱりと言いきった俺を、部員達が凝視する。かんっぺきな正論だ。どうだ、反論できまい。
「きゃ、キャプテン、だめです。騙されないで。ダメだといってやってください。俺はこいつに危ないことはさせたくないんです」
この期に及んでうるさいのは、もちろん拓馬くんだ。ああ、本当にうるさいなこいつ。
潤一にきいているぞ。おまえ、政治家の父親がとても跡継ぎにできないと嘆くほどの根っからのバカだけど、中学時代には全国大会にまで出場したキャッチャーたっだんだろ? バカで父親にいいなりの坊っちゃんだけど、野球が好きなのだけは本当なんだろ? だったらだまって、俺の話をきけ。
「うるさいわね、拓馬! あんた甲子園に行きたいんでしょ。私がその手伝いをしてやるって言ってるのよ。文句あるの?」
部室が静まりかえる。一見お人形さんのような外見の少女が怒鳴ったからか。もちろんそれもあるだろうが、おそらく『甲子園』なんてあまりにも現実離れした単語がでてきて、びっくりしているのだろう。
もっとも早く我に返ったのは、キャプテンだった。
「う、うん。白石さんの気持ちはわかった。そこまでいうのなら、僕らは反対しない。琴似先生も許可しているのなら、何も問題ないよ」
「ありがとうございます!」
俺は立ち上がる。目の前のキャプテンの両手をおもわず握る。あ、キャプテンの頬が赤くなった。こーゆー時は、やっぱり女子高生は得だな。
一方で、一希ちゃんは百点満点のスマイルで部員のみなさまにご挨拶している。一気に場が和む。さすが、お嬢様。
が、いまだひとりだけムスッとした男がいる。拓馬くんだ。
「おい、夢実。ホント、どーいうつもりだよ。あの偏屈な白石の爺さんが許してくれたのかよ」
実はまだお爺さまには言ってない。きっと、大丈夫だよ。きっと。
「……私が自分で決めたことことです。拓馬さんが気にすることではありません」
「おまえ、いつからそんなアグレッシブな性格になったんだ? まだ事故の後遺症で記憶が混乱してるんじゃないのか? ……じゃあ、おまえが本当に野球できるのか、俺が試してやる。グランドに来い」
なんだ? この俺と勝負しようとでもいうのか? なまいきな奴だな。……いいだろう。受けて立ってやる。
2015.12.31 初出




