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11.ある日の夜、ベットの中


 ある日の夜。いつもの通りベットの中で、俺は潤一と電話で話していた。


 日課と言ってもいい。本来は、入れ替わってしまったお互いの生活で困らないように、お互いの身体や家族の情報を交換するはずだったのだが。だが、最近は学校生活とか勉強のこととか、単なるたわいのないおしゃべりになっている。


 といっても、ほとんど潤一の奴が一方的にはなしてるんだけどな。クールな口調のせいか、無口属性かと思っていたのだが、中身はやっぱり普通の女の子だったらしい。いまは男だけど。


 まぁとにかく、俺はこの時間が嫌いじゃないわけだ。




「どうだい、夢実。女の子としての高校生活は?」

「ああ。友達もできたし、楽しいもんだよ。来週には野球部に入部届を出そうかと思っている。おまえはどうなんだよ」

「野球部はぼちぼちさ。ここ数日はバッティングピッチャーもやってるんだ。勉強の方は、やっぱり凄いね、西高は。さすが全国的に有名な進学校。授業中のみんなの態度がまるで違う」

「人によるけどな。俺なんか、まぐれで入学したのはいいけど、部活ばっかりで成績は非常にやばかった」

「ははは、そうらしいね。先日のテストの結果で、先生が驚いていたよ」


 テスト? それは、……赤点ということか?


「そ、そういえば、おまえ勉強の方は大丈夫なのか。美香保学園っていいところの子女ばかりだけど、正直学力はいまいちだろ。おまえ、こないだまで美香保学園の一年生だったのに、いきなり西高の二年生になっちゃったんだぞ」

「ああ。平気だよ。僕が夢実だったとき、高校生の勉強は自分でひととおり終わっちゃってるからね」


 え? ええええ? 先生が驚いたってのは、もしかして……。


「もしかして、潤一が俺だった頃よりも、成績が上がった?」

「もちろんさ」


 こいつ、スゲェわ。


「ところで夢実、君が使っていたPCを見ていたら、いろいろと画像や動画がでてきたんだが」


 ま、まさか……。俺のこめかみから冷や汗が流れ落ちる。


「妙に肌色が多い画像や動画ばかりなんだけど、容量を消費するだけなので、消してしまってもいいかい?」

「ばか、もったいない。せっかく集めたのに」

「いや、しかし、僕には必要ないし」

「いつか必要になるんだよ」

「仮に必要になったとしても、あんな膨大な量の写真と動画、一生かけたって全部みられないだろうに」

「いいの。自分の趣味とあいそうな画像や動画をみかけたら、とりあえずダウンロードして保存するのが男という生き物のサガなの。実際に見るか見ないかは関係ないんだよ」


「へぇ。夢実は、あーゆーちょっと特殊なのが趣味なんだ」


 ぎくっ。


「お、おまえも、そのうちわかるようになるよ、きっと」

「そうかなぁ?」


 そうだよ。男というのはそういうものなんだよ。そして、おまえも徐々に男なっていくんだよ、きっと。


「そこまでいうなら、僕も君が集めた映像をつかっていろいろと勉強してみるよ。いつか役にたつかもしれないからね」

「えっ? い、いや、そう言われると、それはそれで、恥ずかしいというか、いろいろと問題が……」


 この話題は避けた方が良さそうだ。なんとか話をそらさねば。





「そ、そうだ、潤一。おまえのPCの中にも、いろいろとあやしいものがあったぞ。画像じゃなくて文字ばっかりだが。あれ、おまえが書いたのか?」


 さーーー。


「ん? なんの音だ、潤一?」

「僕の血の気のひく音だよ。……な、中身を読んだのかい?」

「あ、ああ。一部だけだが」

「うわーーー。忘れるんだ。忘れてくれ。忘れたよね、ね、ね」


 へぇ、こいつがここまで感情を露わにするなんて珍しいな。


「あ、ああ。忘れた。忘れたぞ。少年マンガの主人公(男)とライバル(男)と悪役(男)が三角関係になるおはなしとか、すべて忘れた」

「わーーー。ばかばかばかばか。もうお嫁にいけない」


 ごっつい身体の潤一が『お嫁にいけない』と叫んでいる図が頭の中に浮かぶ。気持ち悪いぞ。


「気にするな。俺は慣れている。ねぇちゃんも似たような薄い本を何冊も集めていた」

「えっ? 琴似先生が?」


 ねぇちゃんというのは、もちろん琴似潤一の姉だ。潤一や親父と同居している二十代も中盤にさしかかる独身女だ。学生時代の成績はなかなか優秀らしく、なぜか名門美香保学園に就職し、中等部と高等部で教師をしている。夢実も習ったことがある。


「ああ、ねぇちゃんの部屋に薄くていやらしい本がいっぱい隠してあるはずだ。きっとおまえと話があうだろう。似たような趣味の『姉弟』でよかったな」

「うわぁ。そうだったのか、うわぁ」


 なにか『うわぁ』だよ。『潤一と入れ替わる前にお姉様と語り合いたかった……』とか、小声でぶつぶつ言うなよ。


「それはともかく、おまえ、せっかくあれだけ書いたんだから、投稿とかしてみたらどうだ? オリジナルのもあるみたいだし、もしかしてプロの小説家になれたりするかもしれないぞ」

「うわー、オリジナルのまで読んだのかぁ。……そんな、プロの小説家なんて、しかもラノベやBLなんて、お爺さまがそんなこと許してくれるわけないじゃない」

「ばかだな。今のおまえは白石家のお嬢様じゃなくて、庶民である琴似家の息子だ。少々はめを外したっていまさら誰も怒りゃしないよ。野球以外にも趣味があったのかと、かえって喜ばれるんじゃないか」

「そ、そうかな?」


「だけどな、投稿するならせめて少年少女向けライトノベルにしてくれ。男と男がベットの上でネットリぐっちょり舐めたり入れたりからみあうエロ小説は、琴似潤一の名前で投稿するのだけはやめてくれよな」


「ぐわわわわ、お願い、すべて消してぇぇぇぇ!」



 

 

2015.12.27 初出

 


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