表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな夢を観た

こんな夢を観た「炭酸池の観察」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/09/19

 大変だ、いつの間にか夏休みが終わってしまう!

「まずいまずいっ、『なつやすみのとも』の自由課題がまだ終わってないよっ!」わたしは気が動転してしまい、いっそ地球が滅べばいいのに、とさえ願った。

 そうだ、こういう時こそ志茂田ともるだ。

 携帯を引っつかんで、電話を掛ける。

「もしもし、志茂田? むぅにぃだけどっ」あいさつもそこそこに、早口でまくしたてた。

「これはむぅにぃくん。さては、夏休みの宿題のことですね?」

 さすが志茂田。察しが早い。

「うん、自由課題、まったく手をつけてなくってさあ。ねえ、どうしよう?」


「あいにく、こればかりはわたしのをお見せしても、何にもなりません」志茂田は言った。

「やっぱり……。ああ、どうしよう!」

「まあまあ、落胆することはありません。今からでも十分に間に合いますから。さあ、支度をして、3丁目の噴水公園に来て下さい」

 志茂田はやっぱり頼りになる。どうにかなりそうだ。

 わたしは着替えをして、大急ぎで飛び出す。


 噴水公園の入り口には、すでに志茂田が来て待っていた。何やら、大きめのバッグを肩に掛けている。

「ごめん、待たせちゃった?」わたしは言った。

「いえいえ、今来たばかりです。さあ、バス停まで歩きましょう」志茂田は重そうなバッグを持って先を行く。

 バスはすぐにやって来た。わたし達は「3つ子山行き」と書かれたそのバスに乗り込む。

 この路線は住宅街を出た後、だらだらと湿原を突っ切って、山向こうまで行く。平日、休日を問わず、いつもガランとしていた。

 1番後ろの席にゆったりと座る。ほとんど、貸し切り状態だった。


「ねえ、志茂田。何を持ってきたの?」わたしは聞いた。

「ああ、これですか」志茂田はバッグを脇の空いている席に下ろす。「むぅにぃ君、あなたの自由研究のお役に立てればと思いましてね。色々と持ってきたのです」

「ふうーん。この暑い中、荷物まで担がせてしまって、ほんとにごめんね」

「いいんですよ。わたし自身、楽しむつもりでいますしね」

 終点「三つ子山」の手前、「あぶく池」で、志茂田が降車ボタンを押す。

「次、降りますからね、むぅにぃ君」


 降りたところは広々とした湿原の真ん中だった。バスが走り去ってしまうと、カエルの合唱の他、何の物音も聞こえてはこない。

「さ、『あぶく池』まで、あと少しです」と志茂田。

「『あぶく池』って、何か面白いものあったっけ?」わたしはあれこれ考えてみた。

 池の底から絶えず炭酸が上ってくるので、栓を開けたばかりのサイダーみたいに、ボコボコ、シュワシュワと音を立てている。

 こんな水質なので、サカナもエビも見かけない。


 池のそばまでやってくると、志茂田はバッグを下ろし、顕微鏡を取り出した。

「むぅにぃ君、このコップに池の水をすくってきてくれませんか?」

 わたしは言われた通り、水を汲む。「これくらいでいい?」

「ええ、十分です」コップの水をスポイトで取り、スライドガラスの上に垂らす。「観てご覧なさい。なかなか興味深いですよ」

 わたしは顕微鏡を覗いてみた。半透明をした生き物が、無数に泳ぎまわっている。

「これって、プランクトン?」

「ちょっと違います。彼らは炭酸生物です。もっとよく観てください。プランクトンにしては変わっているとは思いませんか?」


 今度はじっくりと観察をしてみる。

 透き通っているところなどプランクトンそのものだったが、どれもサカナの姿をしていた。コイもいる、ナマズもいる、エイやサメまでいる。

 けれど、彼らをずっと目で追うことはできなかった。何しろ、いきなり現れたかと思うと、次の瞬間には、パッと弾けて消えてしまうのだから。

「もしかして、これって小さな泡なのかな」わたしは思いついて口にする。

「その通り。炭酸生物というのは、泡が一瞬だけ命を宿した姿なのですよ」志茂田が答えた。

「確かに、アサガオの観察記録よりは早く終わりそうだけど」わたしは言う。「それにしたって、寿命が短すぎて、スケッチしている暇もないよ」


「ご心配なく。この通り、ビデオカメラも用意してあります。アタッチメントで顕微鏡に接眼できますから、わたし達はモニター越しに観察しようじゃありませんか」

 ビデオカメラのモニターには、顕微鏡下の世界がリアル・タイムで映し出されている。淡水・海水を問わず、様々な種類のサカナが、生まれては弾け、消えてはまた生まれていた。

「記録した動画は、あとでDVDに焼いて、あなたに差し上げます。再生する時、遅送りにして観ればいいでしょう」

「ありがとう、志茂田。これで忌々しい『なつやすみのとも』も完成するよ」


 その時、ひときわ大きな泡が膨らんだ。顕微鏡の視野に入り切れないほどだった。

「これはまさか――」志茂田が身を乗り出す。

 泡はどんどん姿を変え、ついにはナガスクジラの姿となった。

「驚きましたねっ、幻と言われ続けたあの『タンサンオオアワクジラ』ですよ、むぅにぃ君!」

 これまでのサカナが、もって1秒ほどだったのに対し、タンサンオオアワクジラは、10を数え終わっても、まだ優雅に漂い続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 宇宙から見た私たち生命も、こんな泡のように見えているのかなと思いました。 一瞬で消えてしまう炭酸生物たちだけど、彼らの中では計り知れない時間を生きたのかもしれませんね。その時間が自分の頭の中…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ