7(真夏の午後)
村役場はちいさなコンクリートの建物で、明治の頃からそのままでないかと云った風情だった。その隣には小さな駐在所。壁に掛かる退色した地図を検め、メインストリート(などと呼んでいいのか)と集落の位置関係を把握した。
さてどうしたものか。手庇を掲げ、村を見遣った。山が見えた。やっぱアレかなぁ。自然と溜息がこぼれる。ポケットから端末を取り出す。外見は市販のスマートフォンだが、中身は九課によって改造されている。ロックを解除し、マップを呼び出す。強い陽射しで画面がよく見えない。身体で影を作りながらのぞき込む。衛星写真に重ねられた小さな文字はさくら山。ありきたりすぎる。試しに縮尺を小さくしてみたが、何か紋様が浮かび上がるでもなかった。
「あんちゃん、なんか用か」
振り返ると警察の制服を着た初老の男が立っていた。駐在さんか。現地民との接触は友好的に。「こんにちは」にっこり挨拶。なのにこのロートル巡査長は切り出した岩を思わせるその面持ちを崩したりはしなかった。どうしたことだろう。何もしていないのにイタズラを見つけられた少年の気分になった。岸辺は自分に云い聞かせた。これは制服効果だ。怖くない。怖くない。
「さくら山に行こうと思うのですが」
「ああ?」千年は変わらないであろうかと思われた駐在さんの顔に驚きとも呆れともつかない表情が生まれた。「物好きだなァ」
「物見遊山です」岸辺は肩をすくめる。「ところで最近、この辺で何か変わったこととか起きたりしました?」
「変わったことォ?」
駐在さんは怪訝そうに眉根を寄せた。
「たとえば昨晩とか……」様子を窺いながら岸辺は語を継いだ。「深夜とか……」
「いや、なんも」駐在さんは顔の前で手を振って見せた。
岸辺は礼を云うとポケットからサングラスを取り出し、痛みさえ憶えるような真夏の午後を歩き出した。




