4(抜け駆け)
お昼ご飯はソーメンにした。良子が茹でたりネギを刻んでいる合間に、美香子は氷を出したり、ちゃぶ台を拭いたり、そばちょこに麺つゆを用意し、吹きこぼれかける鍋を注意した。件のスイカについては冷蔵庫から取り出されただけで、ふたりとも口にしなかった。
姪がこの夏、彼女の祖母が遺した田舎の家へやって来るとなって、自分に保護者役が務まるのか不安はあったが、取り繕ったところで意味がないと早々に考えるのをやめた。
母が他界し幾年も経つ。木造平屋のこの家は一人で住むにはいささか過分で、人間とは人目がないと堕落する。自分の年齢の半分にも満たない姪の方が幾倍も生活力があるんじゃないかと思う。掃除に洗濯、家事もひと通りこなしてしまう。そうなってしまった境遇に悲しさを感じると同時に、そんな気持ちを抱く自分に腹立たしさを憶える。せめて都会の姉、そして義兄と離れ、望まぬとも追いやられてしまった田舎での生活、それを楽しいものにして欲しいと願った。
共に寝起きをし、良子は自分のズボラな性格が美香子の世話焼き体質を引き出し、それはそれで良い関係となっているのではないかと感じた。それは増田も賛同した。
「必要とされるのは嬉しいことですね」当たり前のことを当たり前のように増田は云った。「でも甘えることのできる大人が身近にいるのも大切だと思います」
氷水の中からソーメンをすくい、つゆに浸してずるずる。溶かしたワサビの刺激がつんと鼻から抜けて涙が出た。
ちゃぶ台を挟んで対面に座る姪は心なし肩を小さくしている。原因はそばでゆらゆらころころ、勝手気ままにしているそのスイカ大の球体にある。
なんで冷蔵庫に入っていたんだ。
良子は頃合い、と口を開いた。「確かに盆進行でわちゃくちゃだったけどさ、仕事なら全部片付けた」
ソーメンをすすりながら、美香子は顔を上げた。
「抜け駆けはいかんぜよ」
良子の言葉に美香子は口いっぱいにソーメンを入れたまま慌てたようにふるふると首を横に振った。そんな仕草が可愛らしくて思わず頬が緩んでしまう。いかんいかん。良子はきゅっ口元に力を入れる。経緯はどうあれ、監督責任は自分にある。たといそれが姉の身勝手さに端を発したことであっても。「夜遊びは感心しないなー」
口の中を飲み込み、姪はこくりと頷いた。




